明日へ。
前回のあらすじ。
豊川先生に渡された指輪を填め、妙な感覚にとらわれ、そこで待っていたのはもう一人の禍々しいオーラーを放つ私だった。
もう一人の私は容赦なく私に攻撃を仕掛け、私も反撃するが、私の攻撃は自分にダメージを受けてしまい、勝ち目がないと思った。
だが私の本当の思いを心で訴えるように目を閉じて、覚悟を決めると、もう一人の私は私に呼応するかのように、笑って、白い霧になり、豊川先生に渡された指輪に収集されるように入っていった。
そこで試練は終わり、私は吸血鬼ハンターの流霧さんに出会い、これから儀式をするので、ついて行った先は、私と豊川先生が待ち合わせしていた場所である憩い公園だった。
そして流霧さんにその右手の薬指に填められた手を夜空に掲げると指輪からまばゆい光が放たれた。
いったい何が起こったのだろう?
「まぶしい」
指輪から放たれるまばゆい光に目がくらむ。
「この世界に入ると、もう一人の自分が殺しにかかってくる。だが、その者と心が通じ合えば、危害を加えては来なくなり、協力してくれる。
あなたがそれに気づく事がこの試練の目的。
そしてもう一人のあなたはあなたに協力して、自らその指輪に納まった。
吸血鬼として人間のように生きるにはこの方法しかない。
この世界のもう一人の自分を指輪に取り入れれば、あなたはもう一人の自分と一体化して、人間として吸血鬼としても生きられる」
「ちょっと待って、試練に気づく必要が合ったの?それなら前もって教えてくれればいいのに」
「豊川先生は教えたかったみたいだが、あえて私はメグさんを試したくなってそうさせて貰った。
でも私は信じていたよ。
あなたならきっとやり遂げると」
「遂げられなかったらどうするつもりだったの?」
「どうするもこうするも、その真実は、もはやこの裏の世界にも私たちが住む表の世界にもない」
何か腑に落ちない気分だが、返す言葉が見つからない。
指輪から先ほど霧散して中に入ったもう一人の私が実体化した。
そして霧散して実体化したもう一人の私が、私を包み込み、私と一体化した感じがした。
指輪から輝きはなくなり、指輪を何となく見つめた。
「さあ、メグさん。その指輪を外して、元の世界に帰るのです」
「流霧さんは?」
「私はこの世界に残ります。私はこの世界の番人でもありますから」
何の為の番人なのか、気になったが、話が長くなりそうなので、私は言われた通り、指輪を外した。
すると太陽の光が私を照らし、太陽の光に弱かった私の吸血鬼の体質はなくなり、久しぶりにお日様を感じて、気持ちが穏やかで幸せを感じてしまう。
それにお腹が好いてきた。
しかも血を欲しているのではなく。私の大好きなカレーライスが無性に食べたくなった。
どうやら試練は終わって、お日様の光にも耐えられるようになり、吸血鬼として血液ではなく、普通の人が口にする食べ物で生きる事が出来るみたいだ。
それに吸血鬼としての力も体内に宿っている。
私はもしかしたら最強かもしれない。
「メグちゃん」
背後から豊川先生の声が聞こえて、
「豊川先生」
私は嬉しくて豊川先生に抱きついた。
「ありがとう豊川先生。私はこれから吸血鬼だけど、人として生きられるんですね」
「ああ、そうだよ」
私は実感した、一歩踏み出して、歩みたどり着いたのだと。
でもこれからが大変なのかもしれないが、何か心の底からワクワクしてきて、どんな困難が迫っても、壊して進むと言う心に気概が宿っていた。
この喜びをエイちゃんや五月さん、塾のみんなにも伝えたい。
でもどう説明すれば良いのか考えなきゃいけないかもだけど、とにかく私はこれから吸血鬼として人として生きられるのだ。
自分の為になる事はいずれ誰かの為になり、私自身を幸せにしてくれる。
私は間違っていなかった。
あれだけ後込みしていた試練を乗り越え、今こうしてお日様の光を浴びて、空腹を感じている。
スマホの時計を見てみると、午前七時を示してた。
私たちは帰らなきゃいけないと思って、でもその前に、
「豊川先生、これ」
この世界の裏にいける指輪を返した。これは私が持っていたら何か危険な感じがして返しておく。
「それはメグちゃんが持っていて」
「でも、これはとても大事な物で、使いようには危険な物なのじゃ」
「その通りだけど、だからこそメグちゃんに持っていて貰いたいと僕は思うんだよね。
いやメグちゃんが持っていた方が良いかも」
真摯に私を見て豊川先生が言う言葉に、私の脳裏にみゆきちゃんの親友である千歳ちゃんをさらった圧倒的な強さを誇っていたメビウスの姿が過ぎった。
豊川先生の目を見つめ返すと、その事情も知っていると言う感じがした。
いつかみゆきちゃんとの約束を果たすためにいずれ、メビウスと戦う事になるのは必然的だ。
出来れば私は戦いたくない。
話が通じる相手であるなら、話し合いで解決させたいが、そうは行かないだろう。
メビウスの目的は何なのか分からないが、みゆきちゃんの親友の千歳ちゃんを助けたい。
きっと助け出して見せると、太陽に向けて拳を突きつけ鼓舞した。
太陽の光を浴びたと同時に、私の中で何かが終わり、そして始まった感じだ。
その私にしか感じることの出来ない、新しい扉が開かれ、私はその扉の向こうに歩み寄るように、
「豊川先生、私お腹が空きました」
「じゃあ、帰ろう。ちょうど、昨日塾の生徒達で作ったカレーの残りがあるから、それをごちそうするよ」
「はい」
吸血鬼であった私は誰にでも平等に与えられる太陽の光さえ、体が拒絶して、私は地獄に潜むような魑魅魍魎と変わらない存在だったのかもしれないが、私は人間だ。
私は思うんだけど、この世は天国でもあり地獄でもある。
そして生きるすべての生命は天国に生きたいと理性も本能も渇望しているだろう。
私もそうだから。
でも天国の扉は安易に見つからないが、とにかく目の前の現実を真摯に受け止め歩み続けることだと私は思う。
私達はその天国の扉を一人では見つける事は出来ない。
いや一人ではその天国行きの扉は存在しない物だと思った方が良いかもしれない。
それは生きるすべての存在は一人では生きる事は出来ないのだから。
心がくじけそうになり、悪魔のささやきが一人になる事を強要されそうな事が何度もあった。
もし強く生きたいと願うなら、決して意固地になって一人になってはいけないと心に諭すべきだ。
そしてこの地獄のようなところで、天国行きの扉がどこかにある。
みんなの信頼を頼りに、暗中模索の中を探しにさまよい続ける、私は旅人だろう。
私が天国行きの扉が開いた瞬間は言うまでもなく、太陽の光を浴びたと同時にその扉は開かれ、この上ない幸福感に浸った。
そして私に貸せられた、すべての残酷な運命を愛せる事が出来た。
私はいじめられて良かった。
私は母親に虐待を受けて良かった。
そして私は吸血鬼になって良かった。
その他にも私の心を壊すような残酷な運命があったが、それもひっくるめて私は愛せる自分が存在する。
私は間違っていない。
だからみんながいる。
みんなが私を愛してくれる。
私もみんなを愛せる。
そして私は行くんだ。
誰も知ることのない明日だが、その先に明るい兆しを感じる。
だから私は行くんだ。
もう何も恐れる物なんてない。
さあ・・・。
メモリーブラッド 第一部 完




