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メモリーブラッド0  作者: sibatamei
第1章
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プライド

「大丈夫?みゆきちゃん」


「メグさんが助けてくれたおかげて何とか」


 ゆっくりと白髪の男がこちらに近づいてくるのが分かる。


 やるしかない。


「ダメ。メグさん。あの人に勝ち目はないよ」


 私の心を読み取るようにみゆきちゃんが語りかける。


「でも」


 抱えていたみゆきちゃんをおろして、悠然として歩いてくる白髪の男の目を見て、目が合い、白髪の男は不適に笑った。


 確かにこの衝撃からして、私ではあの距離からこんな力は出せない。だからみゆきちゃんの言うとおり勝ち目がないのかもしれない。


 でも何もせずに、ただ手をこまねいて黙っているわけにはいかない。


「メグさん逃げて。あの男は危険だよ。みゆきのホーリープロフェットではこのままではメグさんは殺される」


 みゆきちゃんが必死に訴える。


「そこの白い女、お前の名は?」


 声色は若々しい男性だ。よく見るとかなりのイケメンだ。


「川上メグ。私はみゆきちゃんに頼まれて千歳ちゃんを助けに来た」


「じゃあ、メグとやら、お前の命は保証するから、その子をこちらに渡せ」


 するとみゆきちゃんが素直に歩み、男の方へと向かっていく。


「みゆきちゃん。どうして?」


「メグさん。みゆきのわがままにつきあってくれてありがとう。ホーリープロフェットは言っている。みゆきが行かなきゃメグさんは殺されると。それにみゆきが素直にとらえられれば、命まではとらない」


「そういう事だ」


 白髪の男が言う。


「あなた名前は?」


「メグとやら、お前と会うことはもうない。私の名を知ったところで何の意味も持たない。だからメグよ。お前はあるべきところに帰り、この女の事は忘れる事だ」


「みゆきちゃんをどうするの?」


「くどいぞ。三度目言わせたら本当に殺すぞ」


 ギラリと赤く光るような目で私を見て、まるで目だけで私の心が壊されそうな感覚にとらわれて、私はひどくおののき、気がつけば呼吸が乱れるほどの動揺に苛む。


 息を切らしながら、みゆきちゃんは素直に男の元へと向かっていく。


 でもあの男に勝ち目はないし、殺されに行くようなものだ。


 私が死んだら悲しむ人はいる。


 でも。


 私が死んだら大勢の人が悲しむ。


 でも。


 約束。


 それを果たさなければ私は私でなくなる。


 私が死んだら、必然的に誰かが悲しみの涙を流す。


 でも。

 

 この瞬間を逃してしまったら、これから先、私は後悔してしまう?


 プライド。


 私を大事にしてくれる人はたくさんいる。


 でも私自身のプライドを守らなくては、私が私でなくなり、・・・・。


 気がつけば私は白髪の男に歩み寄ろうとする、みゆきちゃんを追い越して、本気で立ち向かった。


「ダメ、メグさん」


 みゆきちゃんの悲痛の声が響いたが、私はプライドを守るために戦わなくてはいけない。

 私が私であるために。


 私が死んだら悲しむ人はいる。でもその人たちの気持ちも大事にしたいし、何より私はプライドの為に戦う。


 みゆきちゃん約束したよね。


 何が起こったのだろう?体が動かない。


 それに意識がもうろうとして、徐々に痛みが体全身に伝わり、苦しみ嘆いた。


 どんな反撃を受けたかさえも分からない程の力にどうやら立ち向かった事は無謀で、私が私であるためにプライドを糧にしていたものは、強大な力に打ちひしがれてしまったみたいだ。


「諦めてはいけない」


 そう私は呟いていた。


 すると朦朧とする意識の中に、頬に生ぬるい水滴が数滴感じて、その水滴が私の口元に流れ着いた。


 これは涙の味だ。


「メグさん。メグさん。しっかりして」


 そうだ。私はしっかりしなければならない。


 私はゆっくりと体を起こすと、白髪の男は倒れた私と寄り添っているみゆきちゃんを見下ろす。


「愚かな。力なき正義に何の意味がある」


 男が手を挙げ、振り下ろそうとする。


 どうやらとどめを刺すようだ。


「辛いだろう。今楽にしてやる」


 しっかりしなきゃ。その瞬間私の頭に膨大な記憶が一気に駆けめぐる。


 エイちゃんの事、母親の事、小学校の先生の事、塾のみんな。まるで記憶をパラパラと本を高速でめくってそれをすさまじい勢いで見て感じている。


 何なんだ。


 とにかく。頭の中で駆けめぐる記憶の本をパラパラとめくったページが止まったかのように、その対処法が思いついた。


 それは単純に気概な心。


 みゆきちゃんを抱えて、後ろに跳躍した。


「まだ。そんな力が残っていたのか?最後のチャンスだ。みゆきを渡せ。でなければ今度は本当に殺す」


 私は抱えたみゆきちゃんを降ろして、


「もういいから逃げてメグさん」


 泣きながら懇願する。


「ダメだよみゆきちゃん。親友を助けに行くんでしょ。約束したじゃん」


 最後の力を振り絞るように男に飛びかかったが、男は軽く手を挙げて、私は男に攻撃すら、触れることすら出来ないまま、何が起こったのか?宙に浮かんだ。


 何だ?この得体の知れない力は。手も触れていないのに、何か見えない力に拘束されている感じだ。


「フン」


 私は建物の壁にたたきつけられ、そして地面にたたきつけられ、そして男は、


「トドメだ」


 そう言った直後、


「やめてーーーーーー」


 なぜかみゆきちゃんが白い炎のようなものに包まれた。


 いったい何が起こったと言うのだろう。


「ホーリープロフェットが発動したか。やっかいだ」


 ホーリープロフェット発動?


「あああああああああああああああ」


 みゆきちゃんの奇声と共にみゆきちゃんの体内から放たれる白い炎が白髪の男に直撃する。


「うがああああああ」


 白髪の男は白い炎に包まれ、悶え苦しむ。


 するとみゆきちゃんは私に視線を向け、私にもその白い炎を放ってきた。


 みゆきちゃん。理性をなくして私も殺すつもりなのか?


 私は白い炎に包まれ、体力、精神力、体の傷がみるみる回復していく。


「私はホーリープロフェットの使者、みゆき。メビウス、千歳ちゃんを返せ」


「くっ、やっかいだ」


 メビウスは消え、みゆきちゃんは力を使い果たしたのか?体から発していた白い炎が消え、倒れるみゆきちゃんを瞬時に抱き留めた。


 みゆきちゃん?メビウス!


 取引された場所に向かうと、長身の黒いサングラスをかけた男しかいなかった。


「おい。千歳ちゃんをどこにやった?」


「ち、ち、ち、千歳なら、メビウス様に連れて行かれて」


 おびえているところを見ると、メビウスがいなくなり、匿うものがいないことに不安に思っているみたいだ。


「メビウスとは何者なの?」


「わ、わ、わ、分かりません。ただ施設にみゆきと千歳をメビウス様に多額の金額で取引を」


 私はそこでピンと来て、


「みゆきちゃんが言っていたが、お前が千歳ちゃんをおとりに嫌がるみゆきちゃんに競馬の予想とかさせて金儲けをしていた。施設の長ね」


「な、な、何の事かな?」


 とぼけるのが丸わかりだ。


「とにかく施設の子供達を解放しなさい」


「解放って言ってもあいつらには行くところ何てないんだ。むしろこっちが行き場をなくしたあいつらを食わせてやっているんだ」


 偉そうに言う。


「ろくに食事を与えずに、栄養失調を隠蔽して、事故や病気と偽ったみたいじゃない」


「ご、誤解だ。俺は関係ない。俺は無実だ」


 とっさに逃げる施設の長。


 追っても仕方がないと思ってそのままに逃がしてあげた。


 だが、その時、パトカーのサイレンの音がして、ここはひとまず、みゆきちゃんを連れて退散しようと思う。


 あのメビウスはいったい何者何のだろう?それにメビウスが言っていたみゆきちゃんのホーリープロフェット発動で私は命は助かった。


 みゆきちゃんが予言した、女救世主はもしかしたらみゆきちゃん自身じゃないかと思った。


 それはともかく私は千歳ちゃんを助ける事が出来なかった。


 力を使い果たして、疲れ果てたみゆきちゃんの顔を見ると、本当に無垢な寝顔でまるで、愛らしいお人形を愛でている気持ちにさせられる。


 みゆきちゃんのお願いは聞けなかったが、これからみゆきちゃんはどうするか?


 それはみゆきちゃんが決める事だから、話だけでも聞いてあげたいと思う。

 でももしみゆきちゃんが私の力を必要とするなら、私は力になってあげたいと思った。


 災難な事に巻き込まれてしまったが、でもみゆきちゃんは私の命を助けてくれたしね。


 そんな時私のスマホが鳴り、私はヤバい事に気がつく。


 今日はキャバクラのシフトが入っていた。


 着信画面を見ると、五月さんからだった。


 恐る恐る出て、


「もしもし」


「メグ、何をやっているの?」


 怒鳴り声が聞こえて、私はとっさに、


「すいません。ちょっと野暮用があって今日は行けませんでした」


「だったら連絡の一つ入れなさいよ。いきなりいなくなったら心配もするし、お客様にも迷惑がかかるし」


「すいません」


「とにかく。明日はちゃんと来なさいよ。事情はその時、きちんと聞かせて貰うからね」


「はい」


 通話が終わり、怒鳴られた事に気持ちが滅入ったりもしたが、何か母親に叱られているみたいで、心がポカポカする。


「んん」


 みゆきちゃんが呻く。そしてその目をおもむろに開け。


「メグさん。無事だった」


「うん。でも残念だけど、千歳ちゃんを助ける事は出来なかったよ。ごめん」


「メグさんのせいじゃないよ。ゴメンね。みゆきのわがままでメグさんに危険な目に遭わせちゃって」


「大丈夫だよ」


「メグさん。みゆき立てるから」


「そう」


 そういって抱えていたみゆきちゃんを降ろして、意識が回復したばかりでちょっと覚束ない足取りだったが、次第に自分でしっかりと地面を踏みしめて立つ。


「とりあえず、帰ろうか」


「・・・」


「みゆきちゃん?」


「もう、みゆきに関わらない方が良い」


「それでみゆきちゃんはこれからどうするの?」


「とにかくみゆきは千歳ちゃんを助けに行くよ」


「みゆきちゃん。その事に関してだけど、とりあえず今日のところは帰って、ゆっくりと話し合おうよ」


 みゆきちゃんは迷っている。


 みゆきちゃんはみんなを巻き込んだ事に蟠り、でも一人では不安なのが感じ取れた。


 そんなみゆきちゃんを私は背後から抱きしめて、


「みゆきちゃん。一人で不安なんでしょ」


「でも、みゆき」


 私は本当の独りぼっちの悲しさを知っているので、みゆきちゃんに言葉ではなく態度でその意を伝えた。


 ただみゆきちゃんの小さな体をただ優しく抱きしめる事だって。


 昨日一昨日出会ったばかりのみゆきちゃんに、心が通じ合った。


 きっとそれは私もみゆきちゃんも本当の孤独の悲しさを知っているから、思いが通じ合ったのかもしれない。


 みゆきちゃんの瞳から大粒の涙が頬を伝うのを見た。


 そんなみゆきちゃんに私は、


「帰ろう」


 するとみゆきちゃんは止めどなく流れ出る涙を袖で拭って、


「うん」


 と頷いてくれた。


 私とみゆきちゃんは手をつなぎ歩いてエイちゃんの自宅に帰った。


 自宅に到着して、普通に玄関から入り、そこで豊川先生が私とみゆきちゃんの帰りを待つように迎えてくれた。


「メグちゃん」


 いつもの穏やかな笑顔だが、何か重大な話がある感じがして、緊張が走る。


「誰」


 みゆきちゃんが言って。


「みゆきちゃんかな、ちょっとゴメンね」


 豊川先生は紐で通した五円玉を取り出して、弧を描くように振り回し、みゆきちゃんは倒れてしまった。


「みゆきちゃん。どうしたの?」


「メグちゃん。試練を受ける時が来たんだ。吸血鬼としての。これは偶然が引き寄せた宿命みたいなものだね」


 試練?


 どうして豊川先生が私が吸血鬼だって事を知っているのか?

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