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メモリーブラッド0  作者: sibatamei
第1章
16/89

みゆきに対するメグの葛藤、そして決断。

「離してよ!」


「これも何かの縁だよ。事情くらいは聞くよ」


「どうせーお前等もみゆきの力を利用して、悪用する欲深い人間なんだろ」


 悪用って人聞きの悪い事を言う子だなと思いつつ、そういえば最初に会った時に予言がどうのこうの言っていたけど・・・。


「ホーリープロフェットって言っていたけど・・・」


「私は未来を予言する力を持っている。千歳ちゃんを助けるには、『夜の町に徘徊する女救世主に出会え』と出た。

 みゆきには訳が分からなかった」


 千歳ちゃんとは何者か?とにかくみゆきちゃんが深刻な事情を抱えていることは分かった。そしてみゆきちゃんがホーリープロフェットとやらで予言した内容は私には理解できた。


『夜の町に徘徊する女救世主に出会え』


 って。憶測だが、私なのかな?でも私は救世主なんて大した存在ではない。


「まあ、とにかく事情くらいは聞かせてよ。力になれるか分からないけど」


「お前は・・・」


「お前って呼ぶのやめてくれる!?私には川上メグって言う名前があるから、これからはメグお姉ちゃんとか、メグさんって呼んでくれない!」


「メグさんは夜に何をしていたの?」


「ただ私は友達と会って帰るところだったんだけど」


「どうしてあんなに強いの?」


「まあ、私は何て言うか、吸血鬼として蘇って、尋常じゃない力を得て、夜しか活動できないから、夜に町を徘徊しているのかな?」


 するとみゆきちゃんは目を丸くして、


「やっぱりメグさんが予言していた、夜の女救世主?」


「私はそんな大それた人間じゃないよ」


 救世主と呼ばれて、私はあまりいい気分はしない。


「お願い。お礼はいくらでもする。千歳ちゃんを助けて」


「その前にその千歳ちゃんって誰よ。力になるならないは別として、事情を聞かなきゃ分からないし、力になる気にもなれない。

 それといったいあなたは何者なの?」


 みゆきちゃんは事情を話してくれた。

 

 みゆきちゃんは幼い頃、母子家庭でそれなりに幸せに暮らしていたという。


 だが二年前、母親は突然、ホーリープロフェットの力の根元であるビー玉サイズの水晶玉を残して、みゆきちゃんから姿を消し去っていったという。


 そのビー玉サイズの水晶玉は、食べる事には困らなかった。


 競馬の予想をして大人にお金を渡して、買ってきてもらい、見事的中させて、稼げたという。


 でもみゆきちゃんはお金が欲しい訳じゃない。欲しいのは忽然と消えた母親だった。


 そしてみゆきちゃんはそのビー玉サイズの水晶玉を手に母親を探しに旅に出たという。


 水晶玉を握りしめ、未来を頭に思い浮かべれば、その未来はお告げのように脳裏に駆けめぐるみたいだ。その調子で競馬の予想をしていったのだろう。


 でも母親をホーリープロフェットを駆使しても何も答えは出てこない。


 そして寂しさに耐えきれず、みゆきちゃんは施設に行き、そこで友達に出会えた。


 だがその施設は子供を入居させ、国の補助金目当ての事しか考えていない最悪なところだったみたいだ。


 食事もろくに与えられず、栄養失調で死亡した子供は、その事を隠して、病気や事故などと偽って消してしまった。


 そんなある日、施設側はみゆきちゃんの力を知った。


 みゆきちゃんは友達の命と引き替えに、力を使わされて来た。


 その友達がさっき言っていた千歳ちゃんみたいだ。


 みゆきちゃんは千歳ちゃんと約束した。


 施設を抜け出して二人だけの幸せに暮らせる場所を探そうって。


 そしてみゆきちゃんは施設の千歳ちゃん出来ればみんなを助けてくれる人をホーリープロフェットで予言して、私に行き着いた。





 話を聞いた時、みゆきちゃんの気持ちが充分に分かったし、どうやら嘘を言っているようにも思えない。でも、


「まあ、とにかく、警察に連絡したら?」


「したよ。でも施設の連中は警察とも親密な関係になっていて、私たち子供の言う事は何も信じてくれない」


「何とかしたいのは山々だけど、私も余裕がないんだよね」


「メグさんは救世主でしょ」


「それは憶測に過ぎないあなたの予言が言ったことでしょ。私が救世主かどうか、決まった訳じゃないし。さっきも言ったけど私はそんな大それた人間じゃないよ」


 するとみゆきちゃんはポシェットをひっくり返して、そこから札束がドバドバと落ちてきて、それをぎゅっと両腕で抱え込み、


「お願い!お願いを聞いてくれたら、みゆきは何でもする。これでも足りなかったら、みゆきの力を利用してもいい!」


 みゆきちゃんの懇願に私の中で悪魔がささやいた。


 そのお金を手にすれば、血液に困ることもないし、この塾の経営も軌道に乗せられる。


 でもエイちゃんがみんなの気持ちを考えると、それは喜ばれる事じゃない。


 でも。


 私は葛藤している。


 でも。


 私はお金に困っているって言ったら困っている。


 そこで私は決断した。


「みゆきちゃん。悪いけど他を当たってくれないかな?」


 視線を俯かせ、がっかりと肩をすくめるみゆきちゃん。


 そんなみゆきちゃんを見て私も出来れば、何とかしたいと思っている。


 でも、私にはそんな余裕はないし、『みゆきの力を利用して悪用する』って言っていたけど、正直私もみゆきちゃんの力を利用して、悪用に至り、弱い自分にむしばまれて、みんなに迷惑をかけてしまう事を恐れている私自身が存在する。


 だからここは心を鬼にして、みゆきちゃんとの関係を完全に断ち切らなくてはいけない。


 ぼんやりと立ち尽くしているみゆきちゃんに、私は床に散らばっている札束を拾って、緑色のポシェットに入れて、「はい」と返してあげた。


 受け取ろうとしないので、そのポシェットを肩にまわしてあげた。


 そこでみゆきちゃんの最後の手段だろうか、その場で嗚咽を漏らして涙を流してしまった。


 本当に卑怯だ。仮にそれが嘘泣きでも、私の心はみゆきちゃんに対して、いたたまれなくなってくる。みゆきちゃんの涙の魔性と言ったところか。


 でも惑わされてはいけないと思っている。本当にここは心を完全なる鬼にして、聞き流すしかない。

 みゆきちゃんは私にとって危険な感じがしているからだ。


 今日のところはエイちゃんは帰ってこないし、置いてあげて、明日になったら、強引でも追い出すしかないと思っている。


 泣き尽くしているみゆきちゃんをほっといて、私の寝床である押入に入り、夜は眠くないのだが、とにかく眠っているふりをする。


 押入からも、みゆきちゃんの鳴き声が聞こえてくる。


『エイちゃん助けて。エイちゃん助けて』


 私が初めて人に甘えた時の事を思い出す。


 でもこんな私をエイちゃんは命がけで守ってくれ、受け入れてくれて、今の幸せがある。


 人の前で本気で涙を流し、それを受け止めてくれると私は信じてエイちゃんに甘えて、私は強く生きる事が出来た。


 そんなみゆきちゃんの鳴き声が聞こえて、本気で私にSOSを求めている。


 みゆきちゃんもあの時の私と同じなんじゃないかと思った。


 いやダメだ。私の中にみゆきちゃんの力を利用するという邪な気持ちも存在している。


 そこで英治メモリーがよぎる。


 人間誰でもそのような気持ちが合って良いのだと。


 それは誰に対しても言える事。


 人間関係でも恋人関係でも、互いに邪な心の根元である弱虫な気持ちも存在している。


 だから私には信頼できるエイちゃんがいる。聡美ちゃんや里音に、塾のみんながいる。


 その訳を英治メモリーに問いかけたが、意味などない。


 ただ、人間は自分を見失って独りぼっちになった時、弱い自分にむしばまれ、永遠の闇に葬られてしまう。


 まさに今、私に泣いてSOSを訴えているみゆきちゃんがそうだ。


 どうしよう?


 私の中で葛藤が生じる。そして私は、押入から出て、


「分かったよみゆきちゃん。私の出来る限りの事はする」


 するとみゆきちゃんは急に泣きやみ、にやりとした表情をして、『このガキ』と思ったが、目は充血していて、嘘泣きではなく本気で涙を流していたみたいだ。


 小悪魔のみゆきちゃん。本当に締めてやりたい程、ムカついたが、みゆきちゃんを独りぼっちにさせて永遠の闇に葬られる事にはさせたくない。

 だから私は出来る限りの事はしてあげたいと思う。

 まあ、みゆきちゃんの能力でお礼をたんまりと貰いたい邪な私自身も存在している。

 でも英治メモリーは言っている。

 それが人間なのだと。

 人間は不完全なのが当たり前だから・・・もう分かるよ。


「みゆきちゃん。その千歳ちゃんって言う子を助けてあげたいのね」


「うん。千歳ちゃんはみゆきのたった一人の心通わせる友達だもん」


 小悪魔なみゆきちゃんだが、その友達を思う気持ちは本物のようだ。


「じゃあ、早速その施設の場所を教えてよ」


「いや、でも迂闊に飛び込むのは危険だよ。連中は裏の人間ともつながりがあって、拳銃を持っていたりする」


 拳銃かあ、私の体は拳銃に耐えられるだろうか?


 とにかくみゆきちゃんの友達である千歳ちゃんを助けてあげたい。


「みゆき一人では無理だったけど、メグさんとなら」


 そう言ってポケットからビー玉サイズの水晶玉を取り出して、右腕の利き腕で握りしめ、目を閉じて念じているように感じた。


 するとみゆきちゃんの瞳から突然涙があふれ出て、


「千歳ちゃんが今夜に連中に外国に売られてしまう」


「落ち着いてみゆきちゃん。落ち着いて深呼吸してから、今夜中にどうすれば千歳ちゃんを助けられるか、そのホーリープロフェットで予言してみなさいよ」


「分かった」


 涙を袖で拭って、再びホーリープロフェットを発動させる。


「何なの?このとてつもない妙なものは?何か分からないけど、メグさんでは太刀打ちできないけど、みゆきとメグさんとならって出てきた」


 私にも太刀打ちできないって、何か無性に怖くなったりする。


 それでも私はみゆきちゃんの友達である千歳ちゃんを助けたいと思う。


「じゃあ、みゆきちゃん一刻も早く、千歳ちゃんが行る場所まで案内して」




 早速私とみゆきちゃんは表に出て、千歳ちゃんが外国に売られてしまう行き先は、町に隣接する今は使われていない港町だ。


 私はみゆきちゃんを負ぶって、全速力で向かう。


 私が本気で走れば、自動車の最高スピードを凌駕するほどのスピードを出せる。


 みゆきちゃんは私に負ぶられながら、キュッと目を閉じてビー玉サイズの水晶玉を握りしめている。


 そろそろ港に到着する。


「待って」


 みゆきちゃんが叫び、私は急ブレーキをかけるように立ち止まった。


「どうしたの?」


「水晶玉が、ホーリープロフェットがこの港に強大な力の持ち主がいると暗示している。だから迂闊には近づかない方がいい」


 私はみゆきちゃんをおろして、そこから明かり一つ灯されていない真っ暗な港にゆっくりと足を向ける。


 スマホを取り出してライト機能を使おうとすると、みゆきちゃんに、「ダメ、連中に気づかれちゃう」


 すると港の倉庫に明かりがともった。


「あの明かりのところに千歳ちゃんはいる」

 

 と水晶玉を握りしめながら言うみゆきちゃん。


 私とみゆきちゃんはとりあえず気づかれないように明かりのともる倉庫へと近づき、積み上げられたドラム缶に隠れて、遠くから様子をうかがっていた。


 私の肉眼は普通の人間とは大きく異なり、遙か遠くのものをはっきりと見ることが出来る。


 黒服にサングラスをかけた長身の男に連れられた悲しそうに俯いた少女がいる。あれがみゆきちゃんが助けたがっている千歳ちゃんだと言うことが分かった。

 それと髪の毛が白く、黒いマントをまとった男性の姿に、私も見ただけで感じた。あれがみゆきちゃんが言っていた私の力を凌駕する者だと。

 その男は人間とは思えないように得たいのしれない、不吉なオーラーを感じる。

 本当に迂闊に近づけない。


 遠くから白髪の男を見つめていると、何やら取引をしているのか?

 黒服のサングラスの男が白髪の男に千歳ちゃんを引き渡した。

 何をしゃべっているのかまでは分からない。

 するとこの遠距離なのに白髪の男と私の目が合って私は全身が凍り付き、とっさにドラム缶の後ろに隠れた。


 気づかれた?いやそんな事は・・・。


 するとドラム缶が吹っ飛び私はとっさにみゆきちゃんを抱えて後ろに跳躍して、回避した。


 いったい何が。

 

 もしかして気づかれた!?

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