ホーリープロフェットの使い手みゆき
あれから一週間、暴走族のリーダーとなった私は龍平君達をつれられ、港のヨットハーバーまでバイクで暴走した。
そこで私たちは私を中心にたむろして、これからの事を語り合うのだった。
私が立ち上がり、
「海は良いね」
何となく呟き、突然激しい風が吹き荒み、スカートが思い切りめくれてしまった。
「今日も純白の白っすね。リーダーは純粋だから白がお似合いですよ」
龍平君がそう言って、仲間達はどっと笑い出す。
私はちょっと憤り、龍平君をうろんな目で見て、
「絞められたい?」
すると龍平君はひどくおののき、「悪かったよ。そんなに怒らなくて良いじゃないっすか。それに風のいたずらだし、俺たちも偶然見ちゃったけど、完全な不可抗力っすよ」
今日の集会で話し合ったところ、龍平君は夜学の学校に入って、バイトに専念し始めた。
その他のメンバーもそれぞれ龍平君と同じようにバイトしたり、中にはボランティア活動したりと、前向きな姿勢を保っている。
龍平君達は前向きに人生を歩もうと思えたのも私のおかげって言われたが、その言葉は嬉しいけど、私は龍平君達に何もしていない。
今日の集会はお開きと言うことで、バイクで街に戻り、解散と言うところだ。
時計を見ると午前三時を示している。
まだ帰るには時間があるから、街の展望台に登って景色でも傍観しながら、これからの事を考えようと私は思った。
歩いて、大通りに出て、信号待ちをしていると、後ろから、何者かに押される感触がして、前のめりになり、何だ?と思って後ろを振り返ると、小さな女の子だった。
その女の子は赤いロングスカートに赤いトップスに髪は栗色で長く、顔立ちが整っていて、すごくかわいらしい。
こんな時間にこんな子供が出歩いているのは、ちょっと何か問題があるかも。
「大丈夫」
尻餅をついて転んだ少女に手をさしのべる。
すると女の子は私の目をじっと見つめて、
「私の予言だと、ここに行けば私は助かるって」
予言?
何を言っているのか?どうやらかなり痛い子なのかもしれない。
このような子とはあまり関わらない方が良いと思って、立ち去ろうとしたところ。
「待ちやがれ」
背後からどすの利いた怒号が聞こえてくる。
その男が姿を現し、女の子は立ち上がり、断りもせず私の背後に隠れた。
「ちょっと」
女の子は震えている。
「さあ、みゆき、こっちに来るんだ」
「ヤダ」
「てめえ」
男の顔を見るとやましさを感じる。だから私は、
「何か知らないけど、こんないたいけな女の子に大の大人がみっともないんじゃないの?」
「お前には関係ねえ!そこを退かないとお前も、どうなっても知らねえぞ!」
「やれるもんなら、やってみなさいよ」
「てめえ」
男は私が女だからと言って甘く見たのだろう。男は首に軽く手とうを与えて気絶させ、女の子を持ち上げて、その場から去った。
とりあえず人目のつかないところまでたどり着き、私は女の子に、
「こんな時間に何をしているの?」
「私は木更津みゆき」
「私は川上メグって、名前を聞いているんじゃない」
「みゆき狙われているの」
視線を俯かせ悲しそうな表情で私に訴える。
何か私の中でこの子を何とかしてあげたいと言う気持ちになり、それは面倒なので、
「今日のところは帰りなさい」
「お願い、メグさん。みゆきの事を守って」
無垢で懇願のまなざしで見つめてくる、みゆきちゃんとやら。
ヤバい。ほおっておけない。彼女の魔性かもしれないが、とりあえず話を聞こうと思ったがそろそろ夜明けだ。
この子は帰るところがないみたいだし、しかもなぜかほおっておけなくて、とりあえず居候している私が厚かましいがエイちゃんの家でとりあえず匿ってあげようと思う。
「じゃあ、とりあえずうちに来る?」
すると、みゆきちゃんはにっこりと笑って私の手をしっかりと握ってきた。
時計を見ると、午前四時を示している。
このまま帰らないとまずいし、何か面倒な事に巻き込まれてしまった気がする。
だったら龍平君達と解散したら、とっとと帰れば良かった。
帰り道、みゆきちゃんは私の手をしっかりと見つめながら、寂しそうに親指の爪をかじっていた。
とりあえず、歩きながらでも話は出来ると思うので、事情を聞く事にする。
「みゆきちゃんはどこから来たの?」
「・・・」
「みゆきちゃん?」
「・・・」
返事くらいはしても良いのに、相変わらず親指をかじったまま黙り込んでいる。
エイちゃんの家に到着して、みゆきちゃんの事をどのように説明すれば良いのか私は困惑してしまう。
「みゆきちゃん!」
私はみゆきちゃんを持ち上げて、みゆきちゃんは「ひゃっ」と驚いて、エイちゃんの部屋の窓に跳躍して入る。
「すごいメグさん。やっぱりメグさんはみゆきの事を守ってくれるって予言で・・・・」
さっきから予言予言って言うけど、いったい何なのだろう?それに私がみゆきちゃんを守るって?
いや待てよ、確かに私は強い。みゆきちゃんの言う通り、みゆきちゃんを守れるかもしれない。
それに予言って言っていたけど、最近様々な不思議な出来事に遭遇しているせいか、この子にも何か秘められた力があってもおかしくはないと思ったが、今日はもう眠いので、明日じっくり事情を聞いて、あるべきところに帰そうと思う。
早速みゆきちゃんを寝かせるが、エイちゃんに見つかるのは時間の問題だし、でも一応隠しておいた方が良いと思って、いつもの私の寝床である押入に一緒に入って寝ることにした。
「じゃあ、みゆきちゃん。私は昼間は眠らなきゃいけないから、とりあえず寝るね」
「・・・」
私が目を閉じて横になると、みゆきちゃんは私の体に必死にしがみつくように震えながらその目を閉じていた。
そんなみゆきちゃんの様子に私は思い出す。
みゆきちゃんは一人ぼっちだったんだろうな。
一人ぼっちで不安だったんだろうな。
私もエイちゃんと巡り会って、その優しさに触れた時、同じ事をした。
とにかく今日はもう朝だ。みゆきちゃんも夜、動き回って疲れただろう。事情は明日聞く事にするよ。
目覚めて、いつもの夜だった。
時計は午後十九時を示している。
寝ぼけ眼をこすって、何か重大な事を忘れている気がして、思い出して、私に震えながらしがみついて眠っていたみゆきちゃんがいない。
どこ行ったのだろう?
それとも私は夢でも見ていたのだろうか?
いやそんなはずはない。
とにかく探そうと思って、一階の塾に行くと、
「かわいい。お人形さんみたい」
聡美ちゃんの声が響き、ゲーム室をのぞき込んでみると、そこにはみゆきちゃんはいた。
「みゆきちゃん。何をしているの?」
聡美ちゃんにちやほやされて、喜んでいたのか?私を目にするとすぐにばつが悪そうに、黙りこくって、聡美ちゃんの背後に隠れてしまった。
「この子、メグちゃんが連れて来たの?」
聡美ちゃんの質問にどう答えて良いか私は困惑してしまう。
すると聡美ちゃんはその鋭い視線を私に向け、
「また何か問題を抱えて来たみたいね」
もやは私はもう本当に申し訳なく、黙って頷くしかなかった。
「ちゃんと話してくれないかな?包み隠さず。洗いざらい全部」
「はい」
返事をしたが、どこからどう話せば良いのか困惑する。
とりあえず、私は龍平君達の事は伏せて置いて、事情を説明した。
「へーなるほど。みゆきちゃんが何者かに襲われそうになったところを、メグちゃんが偶然立ち会わせて、助けたのね。やっぱりメグちゃんは優しいね」
責められるかと思いきや、事情を話したら、ほめられて、話して良かったと本当に思えた。
みゆきちゃんは相変わらず、聡美ちゃんの背後に隠れて、黙っていた。
「みゆきちゃん。事情を話してくれないかな?」
私は冷静になり真摯な瞳でみゆきちゃんを見て言ったが、みゆきちゃんは視線をさまよわせ、何かやましさを感じてしまったので、私は「みゆきちゃん!」と一喝。
みゆきちゃんは肩をびくっとすくめて、「はい!」と返事をする。
「あのね、みゆき・・・・」私の視線を合わせていない事に、私は「みゆきちゃん、私の目をちゃんと見て答えなさい」
するとみゆきちゃんは聡美ちゃんの背後に隠れてしまい「みゆきちゃん!」と再び私は一喝する。
「まあまあ、メグちゃん。相手は子供なんだから、そんなきつく言わなくても」
みゆきちゃんは聡美ちゃんの背後から私にあかんべーをした事に、締めてやりたい気持ちに陥り、
「このガキ!」
「メグちゃん。そんな乱暴な言い方しちゃダメよ」
「みゆき、メグお姉ちゃん怖い」
聡美ちゃんに泣きつくみゆきちゃん。
何て陰険でひねくれた子だ。
「じゃあ、メグちゃんに話せないなら。私に話してくれないかな?」
するとみゆきちゃんはバツが悪そうに、視線をさまよわせ、
「みゆき、お腹すいちゃった」
すると聡美ちゃんは「よし」と手を叩いて、お姉ちゃんがパスタでもゆでてあげる。
「聡美ちゃん、その前に事情を説明して貰わないと」
「まあまあ、メグちゃん。事情は食事の後にじっくり聞くことにするよ。だからとりあえず、お姉ちゃん達とお食事を作りましょう」
聡美ちゃんの手を引かれて、ゲーム室から出る瞬間に、みゆきちゃんは私に舌を出して欺いた。
あのガキ。マジで締めてやりたい。ってあのガキもしかしたら危険なんじゃないか。
ベットに横たわりながら枕をサウンドバックに憂さを晴らすしかなかった。
こんな事になるなら、あのガキ助けるんじゃないかった。
夕食の準備に参加して、みゆきちゃんに目にもの言わせてやりたいが、とりあえずこらえる。
とにかく夕食が済んだら、あのガキの事情を聞いて、またふざけた事をしたら、速攻で追い出してやる。
あーあのガキの事を考えるだけでムカつく。
とりあえず夕食が済むまで、私はじっとエイちゃんの部屋で待っていた。
それまでテレビでもマンガでも暇つぶしをしたいところだが、あのガキのことが頭から離れず、何にも没頭できず、わずか三十分だが、待っているだけの時間ってすごく長く感じるのはなぜだろう。
そして時計は午後八時を示して、食事が終わった頃だと思って、一階に降りて、私は調理室のドアを開け、怒りを通り越した、満面な笑顔で「みゆきちゃん」と呼ぶ。
だが、みゆきちゃんは調理室にある長いすのソファーに寝そべっていた。
たたき起こしてやろうと思ったが、聡美ちゃんが、
「今、眠っているから」
「早く事情を聞いて、ここから叩き出してやろうよ」
「何言っているの?」
私は聡美ちゃんに言われて頭を冷やし、「ごめん」と謝った。
そうだよね。相手は子供。何か深刻な事情があって妙な連中に狙われてしまったのだ。
聡美ちゃんの背後にみゆきちゃんはソファーで寝そべっている。
みゆきちゃんの顔をのぞき見ると、みゆきちゃんと目があって、とっさに舌を出して私をバカにしてきた。
「このガキ」
私の堪忍袋の緒は切れて、締めてやろうとすると、
「メグちゃん。どうしたの?」
事情を知らない聡美ちゃん。
「聡美ちゃん。このガキ危険だよ。一刻も早く追い出した方が良いよ」
「どうしてそんなひどい事を言うの?」
哀れむような目で私を見る聡美ちゃん。
私はもう怒りを通り越して、みゆきちゃんを泣かしてやりたいが、逆に泣かされて、調理室から出た。
そんな私を聡美ちゃんは心配じゃないのか?追いかけてこなかった。
すごく寂しく重い。
とりあえず、いつもパソコンで作業をしている豊川先生に話を聞いて貰おうと思ったが、パソコン室には豊川先生はいなかった。
「何なんだよあのガキ」
人知れずつぶやき、私はこの憂さをエイちゃんに聞いて貰おうと、帰りを待った。
そういえば今日はちょうどキャバクラがない日だ。
このたまりにたまったあのガキの鬱憤を私は聞いてもらい晴らしたい。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
帰ってこない。時計は午後十一時を示している。
そんな時私のスマホが鳴り、画面を見てみると、エイちゃんからだった。
「メグか」
「エイちゃん。実は・・・」
「今日は悪いんだけど、バイトで欠勤した奴の代わりにならなきゃならなくてさあ、悪いけど、今日は適当に輸血バンク吸って、大人しくしててくれ。じゃあな」
プッツリと通話が切れ、無情な機械音が私のやるせなさが膨らんだ。
「何よ。もう」
私は一人で涙を流して嗚咽を漏らしていると、
「情けないね」
嫌みったらしい声が響き、振り向くと、みゆきちゃんがベットに寝転がって泣いている私を見下ろしていた。
みっともないところを見られたが、その原因は全部こいつ。
「みゆきちゃん。覚悟は出来てる?」
するとみゆきちゃんは開き直るように、
「みゆきが悪かったよ。謝る。それにメグさん達には迷惑をかけられないから、みゆきはこれでおいとまするよ」
すごく拍子抜けしてしまい、逆に何か心配になり、
「迷惑をかけないって」
みゆきちゃんは緑色のポシェットから、札束を取り出して、
「これは助けてくれたお礼」
私は札束を見て、みゆきちゃんが何かヤバいことに関与しているんじゃないかと心配で不安になり、
「どうしたのこのお金」
「別に悪いことをして手にしたお金じゃないから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃない。それにこのお金は受け取れない」
「言うと思った。メグさんみたいな人を何人か出会ってきたけど、決して受け取らなかった。でもみゆきの能力を知って・・・」
「能力って?」
「ごめん。聞かなかったことにして。何のお礼も出来なかったけど、とりあえずありがとう。みゆきは行くよ」
背を向け立ち去ろうとしたところ、
「待ちなさい」
それでも黙って立ち去ろうとするみゆきちゃんに、力付くで、
「待ちなさいって行っているでしょ」
「離せ。みゆきはだまされない。そんな風に優しくしてみゆきのホーリープロフェットを悪用して・・・」
ホーリープロフェット!?