メグとエイジ
「何ここは?真っ暗で何も見えない。体は動くけど何か狭い場所に閉じこめられているの?」
無性に怖くなって私は狭い空間に閉じこめられている私は必死にもがいた。
すると木のふたみたいなのが吹っ飛んででとれた。
何?真っ暗で何も見えない。
どうやら私は棺桶みたいな木の箱の中に閉じこめられていたみたいだ。
目を凝らして次第に辺りが露わになり、ここは私の部屋だと言うことが分かった。
お母さんが入るのかと思って恐る恐る階段を下りて行ったが、とりあえず居ない事に安堵の吐息が漏れた。
暗闇には慣れたが真っ暗だと不便なので、リビングの明かりのスイッチを入れたが、電気はつかない。
何だろう。
そこで私は何か名案が思い浮かびそうで、考え巡らしていると、私の恋人のエイちゃんのところに行こうと思いついた。
こんな時間に行ったら、少し迷惑かも知れないが、とにかく今はエイちゃんを頼る事しか出来ない。
私の体も少し臭うが、エイちゃんのうちでシャワーを借りようと思う。
本当にうちには誰もいない。
あんな母親でも、いないと少しだけ不安になってくる。
でも私には恋人のエイちゃんがいる。
早速外にでて、エイちゃんの家へと走って向かった。
私は恋人のエイちゃんの早く会いたいと胸を大きく膨らませて走る。
何だろうか?かなりの早さで走っているが息切れなどしないことに不思議に思ったりもしたが、あまり気にすることじゃないと思って、とにかく走って向かった。
そしてエイちゃんの家に到着した。
エイちゃんの家は父親の豊川先生が経営するフリースクールで一階がその経営しているフリースクールであり、二階三階からは豊川先生とその息子の私の彼氏のエイちゃんと妹の聡美ちゃんの部屋だ。
エイちゃんの部屋にはちょうど電信柱が設置されていて、これを登って、エイちゃんの部屋にこっそりと入れてもらうのだ。
早速私はエイちゃん電信柱をたどってエイちゃんの部屋の窓の外からコンコンとノックした。
エイちゃんはそんな私に気がついたのか?部屋に明かりがついてカーテンが開き、窓の扉が開いて、エイちゃんは私を見て、どうしたのか?すごく驚愕している様子だ。
「エイちゃん。こんばんわ。突然で悪いけど、今日もエイちゃんの家にこっそり泊まらせてくれないかな?」
するとエイちゃんは頭を抱えて、
「ああ、俺はまた夢を見ているんだ。またメグが俺の前に現れるなんて」
とりあえず開いた窓からエイちゃんの部屋に飛び移り、中へ入っていった。
「どうしたのエイちゃん」
「メグ、俺はおまえの分まで生きる事を決めたよ。お前が死んだって聞いたときは俺もお前の後を追って行こうなんてバカな事を考えたよ。
でも俺が死んだら悲しむ人間はいるんだ。
だから俺はお前分まで強く生きる事を決めたよ」
「はあ、何を言っているの?私は生きているよ」
「お前が現れるのは決まって夢なんだよ。お前が死んでから、俺は毎日のようにお前の夢を見る。きっと俺の中でお前が死んだことが相当にショックだったんだろうな」
だんだんいらいらして来て、
「だから私は生きているって」
「せめて夢の中でも」
私の胸を鷲掴みして、
「いきなり何をするのよ」
エイちゃんの頬を思い切りはたいてやったら、エイちゃんは二メートルくらい吹っ飛んでいって、のけぞった。
そういうことは結婚してからの約束だったことをこのスケベ大王は忘れたのか?
「痛い」
と言ってエイちゃんは、私をじっと見て、
「これは夢じゃない。メグ生きていたのか?」
泣きながら私を見るエイちゃん。
「私は生きているよ」
と言ってやったら、エイちゃんは私の胸に抱きついてきた。
「メグぅぅー、生きているんだな。これは夢じゃないんだな」
私は生きているが、なぜか分からないが、死んだことになっているみたいだった。私に抱きついてくるエイちゃんに何か愛おしく思い、「私はここにいるよ」と言ってエイちゃんを慰めている。
エイちゃんの涙が落ち着いた頃、事情を説明してくれた。
私が死んだと知らせを聞いたのは三ヶ月前のことだった。
原因は私の母親に酔っぱらった勢いで瓶で頭を殴られた事による打撲死だったみたいだ。
やるせない気持ちでエイちゃんも妹の聡美ちゃんも塾の友達の奈美ちゃんもなるちゃんも、みんな悲しみに打ちひしがれたみたいだった。
そう、私はいつも母親に虐待を受けて、時には殺されそうになったこともあった。
母親は仕事から帰ってくると、お前なんか生むんじゃなかったとか、お前さえいなければ、私の人生はもっと充実していたとか、あの男はメグを押しつけて他の女に乗り換えたとか。
など言って、私は母さんに邪険にされていた。
それで私は少しでも母さんの機嫌をおさまるようにコンビニで働いて生活費を稼いでいた。
そこで私はエイちゃんに出会ったのだ。
そして出会い、つきあい始めて、私の世界が少しずつ明るい兆しが照らされてきたのだ。
それで母さんの虐待がひどいときにエイちゃんに助けてもらっていた。
本当にエイちゃんには感謝している。
もしエイちゃんとつきあってくれなかったら、絶望の砂漠をさまよい歩き、力果て、誰も気づかぬところでのたれ死んでいたかもしれない。
でも私は母親に殺されたと、言われてるがこうして生きている。
とりあえずそんな私にエイちゃんは「まあ、とにかくお前臭うから風呂にでも入って来いよ」
「ありがとう」
シャワーを浴びさせてもらって、私は不安に思う。
あんな母親でも私の身寄りで私にはもう行くところはない。
恋人のエイちゃんは私に優しくしてくれるが、その優しさに甘えてばかりではダメだ。
色々と不安な思いを抱き、お風呂から出て、エイちゃんの妹の聡美ちゃんの服を借りてエイちゃんの部屋に戻った。
「おう。戻ったか。じゃあ明日に備えて今日は寝よう」
「エイちゃん。私お腹が空いちゃった」
とエイちゃんの腕や太股を見つめて、なぜか恍惚とした気持ちになってきた。
「分かった。何か適当なものを持ってくるよ」
と部屋を出ようとしたところ、
「待って」
エイちゃんの腕をつかんだ。
「どうしたメグ」
自分でも分からず私はエイちゃんの腕にかみついて、血を吸おうとした。
「いってえええー!何するんだよ」
かみついた手を引っ込められ、私は自分でも何をしているのか分からない感じだ。
「ごめん」
自分でも本能的に血を求めるなんておかしいと思った。
エイちゃんはそんな私をじっと見つめて、
「お前もしかして吸血鬼」
「そうかも」
と肯定した。
もしかしたら信じられないことだが、私は何らかの理由で吸血鬼として蘇ったのかもしれない。
そう思うと心が不安に染まり、瞳から頬を伝う涙がポロポロと流れ落ちてきた。
しまいには嗚咽さえ漏らしてしまい、その声に反応して、妹の聡美ちゃんがエイちゃんの部屋に入ってきた。
「どうしたのお兄ちゃん」
と中に入ってきて、私を見て目を丸くして驚いた表情をしていた。
「メグちゃん。生きてたの?」
「うん」
と私は涙を拭いながら笑顔で頷いた。
「本当にメグちゃんなの?」
信じられないと言うような表情で私を見つめる聡美ちゃん。
そして聡美ちゃんの瞳から、あふれるばかりの涙がこみ上げてきて、
「メグちゃん」
と聡美ちゃんは私に強く抱きしめてきた。
「メグちゃん生きていたんだね。本当によかった」
聡美ちゃんは私の胸元に顔を埋めて、嗚咽を漏らしながら涙を流していた。
私はどんな理由であれ、死んではいけない人間だと改めて気づかされる。
そして聡美ちゃんの涙が落ち着いた頃、
「どうしてメグちゃんは蘇ったの?」
「何て言うか聡美、メグは吸血鬼として蘇ったみたいなんだよ」
すると聡美ちゃんは納得のいかない顔をして。
「何それ、訳が分からない」
「まあ、信じられないのも無理はない。それにメグに先ほど血を吸われそうになったよ」
と先ほどエイちゃんの腕にかみついた痕を聡美ちゃんに見せ、私は吸血鬼のようなとがった刃を聡美ちゃんに見せて信じて貰えたようだ。
「聡美、この事は俺と聡美だけの秘密にしておこう。あまりメグが吸血鬼だと言う事を公にしない方がいい」
「分かった」そして私に視線を向け「メグちゃん困った事があったら何でも言って。協力するから」私は聡美ちゃんに抱きついて「ありがとう」とお礼を言った。
話は終わって聡美ちゃんは明日部活で朝早いからと言って、部屋に戻って行った。
聡美ちゃんが来たことで忘れていたが、本能がそういっているのか?私は思い切り血を欲していた。
我慢できず、エイちゃんに目で甘えるように訴えた。
それを悟ったエイちゃんは、
「分かったよ。メグ。俺の血でよければ吸え。でも死なない程度に頼むな」
「ありがとう」
私はエイちゃんに優しくかみついて、エイちゃんの血を吸わせてもらった。
すごくおいしい。
もっと吸いたいと思ったが、これ以上吸うとエイちゃんの体に支障が出ると思って、いったん吸うのをやめて、エイちゃんからの腕から離れて「ありがとう」とお礼を言った。
「満足か」
「うん」
まだ物足りないと言うのが正直な気持ちだったが、そう言っておいた。
****** ******
エイちゃんも明日朝早い。
私は眠れずにいてすごい不安に苛んでいた。
私は人とは違う吸血鬼。
これからどうなってしまうのだろう。
不安で不安で隣で眠っているエイちゃんの腕をぎゅっとつかんで、不安から気持ちを遠ざけるように、その目を閉じて眠れ眠れと言い聞かせた。
そして必然的に朝はやってくる。
エイちゃんが体を起こして私も目覚める。
するとエイちゃんはカーテンを開けた瞬間に私は太陽の光をもろに浴び、体中が燃えるように熱かったので、思わず「きゃーーー」と叫んでしまった。
「どうしたメグ」
エイちゃんは恐ろしく心配だと言わんばかりに私に駆け寄り、私は、
「太陽が太陽が」
「そうか。お前は吸血鬼。吸血鬼と言ったら太陽は天敵だ」
そういって私を太陽の光に当たらないように布団にくるんでそのまま持ち上げて、押入に私を入れた。
太陽の光を浴びて激しいやけどのような痛みが生じたが次第に治まってきた。
「大丈夫かメグ」
押入越しに、私に言い掛けるエイちゃん。
「大丈夫」
だと、大丈夫じゃないのにそういっておいた。するとエイちゃんは、
「大丈夫じゃないだろ。メグはそうやって無理をするからな」
「・・・」
そんな私の気持ちを察するエイちゃんの優しさに複雑な気持ちだった。
「ちょっと待っていろ」
私は言われた通り、待っていた。
もうやだ。私死にたい。
こんな体で生きていたくない。
こんな体で生きていたら、みんなに迷惑がかかってしまう。
私はどうすればいいの?
こんなのやだ。
死にたい。
私は誰にも迷惑をかけたくない。
色々と悲しい言葉が頭に思い浮かぶ。
そして襖が開き、ニコッとした笑顔でエイちゃんは、
「メグ出てこいよ」
私は言われた通り出た。
すると部屋は昼間なのに真っ暗だった。
よく見ると、窓にベニア板が張られて、私の天敵である太陽の光が遮断されていた。
きょとんとする私にエイちゃんは。
「メグ、また泣いていたんだろ。みんなに迷惑をかけるんじゃないかと思って」
「どうして分かるの?」
「俺は何でも知っているんだよ」
とエイちゃんは意気揚々に言う。
そんなエイちゃんは何か頼もしく見える。
でもやっぱり自分を攻めるなって言うけど、攻めずにいられないほど私は切羽つまった状態だった。
エイちゃんは大学に出かけて、私はなぜか朝は無性に眠いので眠りについた。
これからどうなってしまうのか分からないけど、私は強く生きたい。死にたくなんかない。だからもし出きるなら、エイちゃん。聡美ちゃん。みんな。
私に力を貸して。