値踏み大会 ~自己紹介~
名前あるけど、一章が終わったら出て来ない人ばかりです……。
わざとらしくコホン、と咳をして、ルーカスが名乗りを上げる。
「名乗った人もいるけど、改めまして!僕はルーカス!身分はそれなりに高いけど、まあ御上の人はたくさんいるような、ちょっと微妙な身分です!この度、僕と僕の十人の弟子が、御上の人の圧力によってきみたちを召喚しました!責任者は僕ですので、弟子たちは許してやってくださいねぇ、よろしくお願いしまーす」
テンション高めの自己紹介をされた。文句と一緒に召喚と弟子、あと御上の人について訊こう。
はい次、一番目の勇者見習いの方、どうぞ!とテンションそのままに話を振られた男――ルーカスの左隣にいた筋肉質の男の表情はどことなく困惑している。
それでもルーカスから席を立って、と言われて従うあたり、名乗るつもりはあるようだ。
つまり、彼は心の準備ができていなかったのか、それとも何を言えばいいのかわからないのか。何事も一番というのは大変だなと夕は同情した。
「そんな顔しないでくださいよぉー、名前と住んでたところだけで言いですからぁ」
「あー……はい、では。ジョナサン・オルブライトです。アメリカのフロリダ州に住んでいました、が……んーちょっと頭整理しきれないので、喋るのやめときます。えーっと、よろしくお願いします」
そう言って困った表情で笑う筋肉質の男――ジョナサンは席に座る。喋り慣れてはいない人なのかもしれない。丁寧な口調だったのが少し意外だったが、最初の印象は大事だから敬語なのかも、と思うことにした。
ルーカスは満足げに、しかし義務のように拍手をしながら、次の人へと催促を始める。
「どんどん行きましょう!次は二番目の勇者見習い様、その次三番目、と前の人が座ったら次の人が立って自己紹介ちゃちゃっと終わらせてください」
テンポよくどうぞ、というルーカスの言葉を聞いて、ジョナサンの左隣の目つきが鋭い男が立つ。
「二番目の勇者見習いらしい、凰 明暁……です。中国の香港に住んでた……です。まあ、勇者同士仲良くしてやるぜ。……です。よろしく」
どうやら敬語に慣れていないらしい。そっぽを向いてすぐに座った。
拍手が鳴り止まないうちに、待ってましたとばかりに女の子が席を立つ。
「エレーヌ・クララックと申します!フランスのカンヌってとこに住んでました!三番目の勇者?の見習いさん?らしいです!えっと、あの、たくさんおしゃべりしたいので、仲良くしてください!」
かわいいなぁ、癒やされるなぁと、頬が緩んだと思う。隣の眼鏡の女性も微笑ましいものを見る目をしていた。
エレーヌは席に座る前に軽くお辞儀をすると、隣の青年の肩を軽く揺する――この人、寝てたのか。
栗色髪の青年はエレーヌにお礼を言って立ち上がる。
「うーん、ごめんねぇ。一度寝るとなかなか起きれなくてねぇ……あー、おれの名前はニールだよぉ。ニール・ネチャエフ。国籍はロシア。変なのに巻き込まれたけど、ま、みんながんばろ~」
ぱたぱたと手を振りながらニールは席に座る。今度は姿勢正しく座っていた。
喋ったら目が冴えたとかいうやつなのだろうか、今は空色の瞳が確認できる。もしかしたら、今までが寝たふりだったのかもしれないが。
そんなニールの様子を見て、褐色肌の男がやれやれ、といった体で立ち上がる。
「ラメッシュです。姓と出身国は勘弁してください。そして語ることは何もないです。よろしく」
ラメッシュという褐色の男は、秘密にしたいことがあるようだ。どこの国の人か気になるが、勘弁してほしいと言っているから聞かない方がいいだろう。
姓は日本で言う『御手洗さん』みたいな感じかもしれない。教えても『おてあらい』と読まれる人がいるのだし、それなら言わない方がマシ、というやつだ。
「フィオナ・ドイルよ。実家は違うけど、私はロンドンに住んでいたわ。何が起こったかよくわかってないのだけれど、皆さんよろしくね」
眼鏡の女性――フィオナが席に座る。その際夕と目が合うと、頑張ってね、と目を細めて笑いかけてくれた。いい人だ。
「七番目の勇者見習いに選ばれました、庵戸 夕です。日本に住んでいました。よろしくお願いします」
腰を折り、礼をしてから座る。少し緊張した。ほんの三文なのだが、精神的に疲れる。
「名前、ミキ。日本人。以上」
ぎょっとした。なんて挨拶だ。
立ち上がることもせず、座ったままタトゥーの男――ミキはそう言い捨て、隣の青年に「次ドーゾ」と喋りかけていた。
緑の丸い瞳をさらに丸くさせ、驚いた表情でミキを見ながら青年は立つ。
「九人目の勇者見習い、リヒャルト・ブレーメです。ドイツのドレスデンに住んでいました。えっと……あー……言いたかったこと、飛んじゃった……。うぅ、その、よろしくお願いします」
ミキの衝撃が強すぎたようだ。リヒャルトは用意していた脳内原稿を真っ白にしたらしい。
落ち込んだ様子で座るリヒャルトに苦笑いをしながら、最後の一人――触ると折れそうなほど細身の青年が立ち上がる。
「私で最後のようですね。初めまして。十人目の勇者見習いに滑り込みました、クレメント・シーガーです。カナダのノース・バンクーバーに住んでいました。よろしくお願いします」
にこっという擬音が似合いそうな笑顔を向けられる。クレメントは顔立ちが女性寄り――美人なので、破壊力がすごい。
儚げな青年と思っていたが、落ち着いて喋っているのを見ると、芯はしっかりしていそうである。
拍手を義務的にしていたルーカスが最後に大きく手をたたき、注目を集める。
「はーい、自己紹介ありがとうございましたぁ!名前は覚えなくてもいいけど、同僚ぐらいは覚えてくださいねぇ。それでは次に、この世界についてお話しまぁす」
名前はここで覚えなくても大丈夫なように書けていけたらと思います。
誤字・脱字等ありましたら、教えていただけるとうれしいです。
フィオナの一人称にルビを振りました