顔合わせ
新キャラがいっぱい出ますが、この章が終わったら4章くらいまで出て来ない人が多いです。
シャワーを浴び終わり、似合わないワンピースを身に纏った頃、十人目がそろったと室内放送があった。
一時間後に顔合わせをするらしい。一人ひとり職員が案内のために向かうと伝えられ、夕はその時をベッドの上で待っていた。
水を吸った制服が乾くのは間に合わないので、そのまま浴槽のカーテンレールに下げている。
この服装で顔合わせに臨むのは、少しばかり不本意だが、仕方がない。
などといろいろ考えているうちに、少しばかり寝てしまったようだった。
肩を揺らされ目が覚める。
光さえも吸収してしまうほどの漆黒の瞳と目が合った。
「わっ」
「おはようございます。顔合わせです。起きたなら立って歩いてくださいさあ早く」
夕が起きたことを確認した彼女は、言うが早いか、手を取って歩き出す。
有無を言わさず行動に驚いたが、それよりももっと驚いたことがある。
(え、この人の髪……地毛、なのかな?)
夕の手を引く彼女の髪は、燃えるような鮮やかな赤だった。
しかもそれだけではない。緩いウェーブの長髪が、動きに合わせて時々輝く――まるで、炎のようだった。
もちろん、地球にこんな髪の色など存在しない。
なお、部屋に来る前に出会った男の容姿については、よく覚えていない。そもそも、よく見ていない。見ていたとしても、記憶に残っていない程度のものだった。
だからこそ、彼女のこの髪の色が不思議で、目を奪われるほど印象に残るというものだ。
「七番目の勇者見習い様、ルーカス様からは何もお聞きしていないのですか?」
「……ルーカス?」
「はあ……またあの人は。まあ、いいです。それも含めての顔合わせでしょうから」
横目で彼女は夕を見たが、返答を聞いて何かをあきらめた表情をした。
疑問を口にする前に「こちらにお入りください」と、目的の部屋についたようだったので、会話は中止となった。
「お疲れ様ブリキッタ。エスメラルダとマロウが来たら、顔合わせという名の値踏み大会を始めるよー」
「ルーカス様、一応勇者見習い様たちの前です。ちゃんとしてください」
「はーい」
ここに来てからであった人物の、耳障りな声が聞こえた。
思わず声の主を睨んでいると、ブリキッタと呼ばれた女性が夕に腰をかけるようにと席に促す。
渋々席に座った時、服、着替えたんですねぇ、とルーカスと呼ばれた男が笑いかけた。
思わず眉間に皺が寄る。
「言いたいことは山よりもあると思われますが、今は何も言わずに聞きに徹してください」
言葉を発するより前にブリキッタに制される。
文句はあとで受け付ける、と解釈しておこう。
釈然としないが、一つため息をついて周りを見る。
円形状の机に、自分を含めず八人の人物が座っている。そのうちの一人が、耳障りな声の主――ルーカスだ。彼は日本で見慣れた黒の髪とこげ茶の目をしていた。
夕の座る席は、姿勢を正して正面を見れば、ルーカスが嫌でも視界に入る席であった。
顔を見ると何か言いたくなるので、今来ている『勇者見習い』に注視する。
ルーカスの左隣りにいる人は、焼けた肌が健康的な、くすんだ金髪をサイドとバッグを刈り込んだベリーショートのとても筋肉質な男性。横に大きいが、マッチョ故大きいのだと思うほど、筋肉がこれでもかと主張している。
右隣の人は逆に、透き通るような白い肌に、白い金髪を肩まで伸ばした、細身の青年がいた。触ったら折れるのではないかと思うほど細く、儚げな青年だった。
この二人の男性は、遠目で見てもわかるほどきれいな青い瞳をしていた。金髪に青い目をした人を見て、外国人がいる!と改めて夕は思ったのだった。
筋肉質な男性の左隣には、茶色の瞳が吊り上がった、目つきの鋭い男性。黒髪をツーブロックにしている。隣がマッチョだからか、しっかり鍛えられた体をしていても、そう感じない。高身長なのもあり、細マッチョに分類されそうである。
儚げな青年の右隣には、目はくるっと丸い緑色の瞳が子供らしい、茶色の強い金髪の青年。この青年と称したが、もしかしたら少年かもしれない。そんな成長途中の年齢の子であった。この茶髪の青年の右隣が空席であり、その空席の右隣が夕である。
そして夕の右隣に座る人物は、角は丸いがスクエア型と呼ばれるシルバーの半分フチ眼鏡をかけた女性は、赤褐色の髪の色を無造作に束ねている、灰色の瞳が特徴的だ。
スーツを着たらかっこよさそうだな、と夕は思った。この女性は夕が選ばなかった、丈が一番短いとワンピースを着ている。すらりと程よく引き締まった白くて長い脚を見て、夕は羨ましいと思った。
眼鏡の女性の右隣は、黒髪ロングのかなり癖のあるパーマをした褐色肌の男性。黒い瞳の先は女性の太ももだ。ガン見である。
これでもかと目を見開き目に焼き付けているようである。失礼な人だな、と感じたが、惜しみなく生足を出しているのは女性の方なので、きっと普段から出している人なんだろうと気にしないフリをする。
褐色肌の男性の右隣は空席だったのだが、その席に二人の人物が近づいて行った。どうやら今来たようだ。
一人は地球の頃では見かけたことがない、深い緑色の髪を肩で切りそろえた女性――エスメラルダと呼ばれた女性。
もう一人はエスメラルダに連れられてきた人物。その人物は大変眠たそうに眼をこすりながらやってきた。夕と同じく寝ていたらしいが、起こされたようだ。
しかし夕と違って、起きたはいいが、眠たいらしい。座った直後に目を閉じて、すぐに舟をこぎ始めた。これにはルーカスも苦笑いをしている。
栗色の髪を後ろは肩甲骨辺りまで伸ばしたウルフカットの青年は、程よく筋肉があり、身長は男性の平均よりは少し高いくらいの青年なのだが、近くにいるマッチョと細マッチョがいるためか、小さく見えるので不思議だ。
目つきの鋭い男性が、その目をさらに鋭くして栗色髪の青年を見ているのだが、その間にいる色白の女の子は、さらに小さくなっている。
そう、女の子だ。十歳くらいの女の子が、アレを経験したのかと思うと心が痛む。そして、幼い女の子に平気で残酷なことをさせたルーカスを再び殴りたくなる――が、我慢である。
光り輝かんばかりの綺麗な金髪と、おろおろと不安を宿した紫の瞳が可愛らしい。庇護欲をそそる少女である。
まるで妖精のようだ、と言えるほど容姿が整った子でもあり、この空間においては目の保養である。
「あ、やっと全員そろいましたねぇ」
ルーカスの声に全員が扉へ目を向ける。
そこには肌も髪も服も真っ黒のモノクル男と、明るい黄土色の髪に右前髪からもみあげあたりまでの毛先に緑のメッシュが入った髪と、左頬に桜に見える花のタトゥーが特徴的な男がいた。注目を集めたタトゥーの男は不愉快そうに碧眼を細め、この場を見透かすように睨んでいた。
「お疲れ様ぁ、マロウ。さて、八番目の勇者見習いくん。空いてる席に座ってくださいね、説明ができませんので」
八番目の勇者見習い――と言われて、自分の左隣が空席であったのを確認する。ルーカスから見て時計回りに、一番目の勇者見習い、二番目の勇者見習い、三番目の……と続いているのかな、と考えた。
全身真っ黒のモノクル男――マロウは一礼をしてその場から去って行き、最後にやってきた八番目の勇者見習いは、不愉快そうに夕の隣の席へと歩いていき、座った。
ルーカスは全員が座ったことを確認すると、パンっと手をたたいて言った。
「――よし、全員揃いましたので、顔合わせという名の値踏み大会を始めまーす!」
誤字・脱字等ありましたら、教えていただけるとうれしいです。
夕が座っている席がちょっとおかしなことになっていたので、修正しました。