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召喚理由が理不尽すぎる!  作者: キリアイス
一章:召喚~勇者見習い
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束の間の休息

シャワーシーンだけど、裸体については書いてないからセーフ(多分)

「立ち上がれるならば、部屋を移動しましょうか。僕までゲロ臭くなっちゃいます」


 飄々と言ってのける男は、踵を返し、扉を開けた。

 余裕がなくて確認していなかったが、この一室は夕の足下に巨大な魔法陣が描いてあるだけの、天窓から漏れる外の光だけが頼りの小さな個室であった。異臭がこもり、臭いが移るのも時間の問題だ。

 悪かったな、ゲロ吐いて、と心の中で悪態をつき、回復しきっていない体を動かし後を追う。

 廊下に出るが、床も壁も、そして天井も、真っ白だ。


「えーっと、きみは『七人目の勇者見習い』のようですね。あと三人勇者見習いがくるまでは、体力回復に努め――げっ、今二人同時に終わった!?超最悪!!」


 説明をしていた男が顔色を変えた。慌てている様はいいざまだと思う。


「ごめんなさーい、お仕事はいりました!ので、案内できません!えーっと、あと一人勇者見習いの方が現れたら、その方を休憩させた後に招集しますんで!十人そろった時点で放送入れますねぇ。あ、あとこれ部屋の鍵です!ここの廊下まっすぐ行ったら壁にぶち当たるから、右折して三番目の部屋になります!それじゃ!」


 ぐいぐいと背中を押して歩かされる。精神的にも体力的にも消耗しているから、もう少しやりようがあるでしょうに、という文句は疲れから言えない。

 強制的に歩かされ、小部屋から出て廊下の半分くらいまで来た際に、放置される。


 そう、放置だ。


 忽然と彼は姿を消したのだった。いわゆる、前兆のないワープだ。

 押されていたので反発していた体が、抵抗をなくして尻もちをつきかける。寸でのところで踏みとどまれたのは、進行をすべて男に任せていなかったからである。

 たたらを踏んで、ため息一つ。


「――……もう、いいや。考えるだけ、無駄っぽそう」


 心が消耗している夕は素直に従うことにした。休めと言われているのなら、休もう。

 覚束ない足取りで歩き、右折して三番目の部屋を鍵で開ける。

 ホテルのワンルームを彷彿とさせる小部屋だったが、今の夕には嬉しいものがあった。


「シャワールーム……」


 あの男に言われたからではないが、自身の異臭は気になっていた。

 だから、洗い流したい。しかし、服がない。

 制服を水で洗って干す、ということは決定事項である。が、干している間はどうしようか。

 着る服について考えながら部屋の中を見ると、クローゼットを発見する。入口からすると奥まで歩くことになるが、見ておこうと近づいた。


 中を開けてみてまず目に飛び込んできたのは、チェスト。それから、ハンガーパイプにかかったハンガーの山。ハンガーのいくつかには服がかかっているが、右端に寄せられている。現在目に見えている服は、飾りボタンが多くついた七分袖のワンピースだ。

 他の服を見ても、すべてワンピースのようだ。一番手前にあったワンピースが、ほかのワンピースと比べて丈が長いみたいだ。着るならこれだろう。


 次にチェスト。これは上下の二段になっていて、上にはビキニタイプの水着がサイズ違いで同じものが入っていた。下にはバスタオルやフェイスタオルなどのタオル類が詰められている。


 なぜビキニ水着、と思ったが、下着替わりなのだろう。色は黒しかないが、クローゼットの中にあるワンピースは、どれも色が濃い色ばかりなので透けることはないのだろう。

 このビキニも、そしてワンピースも、夕の趣味では着ないタイプであり、自分には似合わないと思っている。

 心情的には複雑だが、下着一枚や生乾きの制服を着るよりはマシなので我慢だ。

 そう言い聞かせ、一番丈の長いワンピースと自分のサイズであるビキニ、それからバスタオルを持ってシャワールームへ戻る。


 シャワールームはホテルのようにトイレとカーテンのある浴槽が一緒になっているタイプだ。トイレは洋式だが、常に水が流れている状態のようだった。

 水が止まらずに溢れるんじゃないかと思ったが、今は考えないことにした。そもそも溢れるような設計だったら、今頃このシャワールームが水で溢れているだろう。

 そう結論付けるとトイレの蓋をしめ、その上に持ち込んだタオルを置き、その隣にハンガーから取り外したワンピースを軽くたたんだ状態で置いた。その上にビキニをのせると、夕は浴槽に入ってカーテンをしめる。


 まずは、汚れを落とすために、制服を洗おう。思うより行動が先で、着たままシャワーを浴びた。

 ――洗うならば脱いだ方がいいね、と思ったのは水を吸って重たくなってからだ。

 どうも頭が働いていないようだ。いろいろあって疲れているらしい。


 汚れを落として、自分もシャワーを浴びたら、寝よう。


 そう決めて、汚れている箇所へ重点的にシャワーを浴びせる。が、血はなかなか落ちないし、臭いもそのままだ。


 ――水だけだと、駄目なのかな?


 洗える制服、というのは知っているけれど、実際洗濯をしたことはない。母親に任せていたので家事の知識はわりとない。それでも少しでも汚れを落とそうと表面を洗っていく。

 洗う前よりはマシ、というレベルにはなったが、それでももう一度着たいかと問われれば着たくない、そんな状態になった頃。


 汚れらしい汚れは目立たなくなったので、もういいや、と思った。新しく買おう。もしくは、洗濯に詳しい人に教えてもらって洗おう、と。


 そう考え、自身がシャワーを浴びることにした。

 シャンプーやリンス、ボディーソープといったものはなかったが、シャワーを浴びて洗い流すだけでも良い気分転換になったのだった。


誤字・脱字等ありましたら、教えていただけると嬉しいです。

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