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召喚理由が理不尽すぎる!  作者: キリアイス
一章:召喚~勇者見習い
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困惑

※血が出ます。首ちょんぱも少しだけ

 真っ白だった視界は、いつの間にか消え失せ、取り戻した視覚と共に他の感覚も取り戻す。

 戻ってきた感覚から初めて得た、人の気配と他人の声。

 良かった、私だけじゃなかった、と夕は安堵した。が、視界に収めた人々を見て、再び混乱することになる。


「あら、見ない顔を発見。三十人目かしら。いったいどれだけ集まるのやら……」

「ん、どの子?」

「えーっと、ああ、あの子ね。制服着てるから学生さんかな?」


 人は、いろいろだ。

 白い肌の人もいれば、黒い肌の人もいる。年齢も様々で、下は十歳くらいで上は定年退職を迎えていそうな年齢だ。

 この状況に夕は混乱する。外国人との会話は、そんなに経験がない。でも、なぜかすべて、日本語で聞こえる。

 ここにいる人たちが日本語で喋っているのだろうか、と思ったが、口の形が聞こえてくる音と明らかに違う。自分の耳がおかしくなったのだろうか、と考えてますます混乱している。

 状況把握のために周囲を観察し、会話を聞いている間にも、一人、また一人と人が増えている。増える瞬間を見ていないのだが、明らかに最初見た時より増えているのだ。

 どうして人が増えたかわかったのかを、人数を数えていた人に訊く。曰く、


「今いる人の顔は、覚えているからね。いきなり人が減ってもいいように、ちょっと警戒中なのよ」


 とのことで、人が増えた瞬間を把握しているわけではないようだ。

 会話をしたことで少し落ち着きを取り戻す。

 よくはわからないが、言葉が通じるらしいので、年齢が近そうな人と会話をする。

 話は弾まないが、不安を共有することで徐々に心を落ち着かせる。


 そうやって心が落ち着いた時だった。

 人数を数えていた人が「五十人目ね」といった時――直接頭に響くような、そんな不思議な声が聞こえた。


『ようこそ、【リアンユ】へ! 突然ですが、“異世界人”である皆さんには“勇者”となってもらう試験を受けていただきます! 試験はいたってシンプル、『魔物と戦って、最後まで生き残ること』! 即戦力にならない“勇者”なんていらないので、頑張ってくださいねぇ。武器は【具現武装】と言えば出てくるので、頑張ってくださいね。ご武運を!』


 そんな一方的な声が途切れると同時に、集まっていた人たちの周りには異形の生き物――魔物と呼ばれた生き物が、突如として現れた。

 二足歩行の棍棒を持った緑肌の小人――ゴブリンや、色とりどりの毛をした赤い瞳と額に角を持つ狼だ。

 突然のことに反応できずにいると、一人、また一人と、吹き飛ばされ、血を吹き出し、動かなくなる。


 夕は、足元まで流れてきた鮮血を見て、言葉を失う。

 呆然と、その殺戮を見届ける。

 あまりにも理不尽で、現実離れした光景で――脳の処理が、追い付かない。


 ただし、魔物の理不尽は平等である。

 受け入れきれずに硬直している人へ、これ幸いに襲い掛かってくる。もちろん、夕も例外ではない。

 眼前に迫る死の予兆――ゴブリンが棍棒を掲げてこちらへ走ってくるのが、わかる。


 ――こんな、訳の分からない最期、認めたくない。


 死にたくない。

 そう切に思う。それと同時に思い出すのは先ほどの言葉。

 勇者とか試験とか、そういうのは頭おかしいなと思ったが「戦って」と言われたのだ。


 胡散臭いが、駄目で元々。死ぬ確率が減るならば悪あがきもよいだろう。

 未だに頭は追い付かないが、夕は死にたくない一心でその言葉を紡ぐ。


「――【具現武装】……!」


 夕がそう発言した途端、何かごっそりと抜け落ちた感覚がした。

 それでも意識は保たれて、訪れた変化を視認した。


 まず一つ。【具現武装】と言葉を紡いだ瞬間に、光が集い、襲い掛かってきた魔物の視界を奪った。

 そのおかげで魔物の歩みは止まり、迫りくる死は少しだけ遅くなる。

 次に見たのは、その光が一本の剣となり、夕の手に収まっていること。

 そして光の帯を、まるで天女の羽衣のように夕は纏っていた。


 ――武器、というのはわかった。剣のことだ。しかしこの光の帯は、なんだ?


 夕はそこまでサブカルチャーに強くない。

 せいぜいTVCMで見たもの、学校でちょっと話題になったものくらいしかわからない。

 よって、夕のオタク的知識は、幼少の頃に見たアニメ、話題になった小説、漫画くらいだ。ゲームもほとんどやらないので、ゲーム的な思考もない。

 さらに言うなら、インターネットは調べ物をする時に少し使うくらいで、スマホの使用だってメッセージのやり取りや電話、音楽を聞くための操作くらいだ。

 夕は女子の話題に出すドラマ、TV番組や雑誌を見て、貸してもらった漫画、オススメされた小説を読む。あとは専ら学業だ。オタクになる暇がない。


 いくら死にたくないからと思って実行したわけだが、この魔法的現象には思考が追い付かなかった。

 とうとう脳がフリーズしている。

 度胸も適応力もわりとある夕なのだが、不可思議な力には初見で対応ができるはずがなかった。


 しかし呆けている間に、視界が回復したゴブリンが迫る。

 そのゴブリンは怒り狂っているように見える。

 掲げられた棍棒を振り下ろす先は、右手にある剣と周りにある光の帯を見て固まる夕。

 振り下ろさんとした棍棒を見て我に返り、避けるには手遅れだと悟る。

 それでも反射的に頭を庇うように腕を上げる――と、そのまま流れるようにゴブリンの首を刎ねたのだった。



 首が、舞う。


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