プロローグ
初投稿です。
見切り発車でいたらないところがありますが、よろしくお願いします。
彼女は、覚えのない真っ白な天井に疑問を持つ。
どこだろう、と首を傾げる思いと共に上体を起こし、ぐるりと見回す。
――四方八方、真っ白だ。
正確に言うならば、真っ白すぎて立体感がない。
四方と表現したが、角という角が見当たらないので、真っ白な空間がただ広がっているだけだと思われる。
天井――といえるかは不明だが、頭上も真っ白だ。
視線を下に落とし、影はあるんだな、と場違いな感想を抱く。
そして、未だに座って呆けている自身のことに気が付き、彼女はのろのろと立ち上がった。
光源もないのに真っ白であると認識できるのは一体どういうことだろう。
そんな答えのない問いも浮かぶが、頭はまだ寝起きのようだ。
思考がまとまらない。
それでも、今置かれている現状について、考えずにはいられなかった。
彼女の名前は庵戸 夕。高校二年生で、生徒会役員(書記)である。部活はフェンシング部に所属している――が、今では幽霊部員だ。
中学生までは剣道をしていたが、ちょっとした事情からフェンシング部へと入部した。
今思えば、男子は剣道、女子はフェンシング、と入部の制限はしていないものの、なぜか男女が綺麗に別れていたので、“ちょっとした事情”がなくとも剣道部に入ることはなかっただろう。
それでも生徒会活動が思ったより忙しく、最近は部活に行けていない。
いや、生徒会は本来そんなに忙しくはないのだが、勉強会という名のデートに忙しい先輩方に仕事を押し付けられるから忙しい、が正しいか。
どちらにせよ部活動にも生徒会の活動にも、精一杯頑張っているとは言えない現状だ。
生徒会の仕事を押し付けられ、やらされている現状には不満を抱いていた。
部活の方でも、すっかり幽霊部員になってしまうくらいには興味も薄れてきている。
夕は現在、学校の制服を着ている。制服を着ているから、多分学校に行っていたのだろう。
制服を着ている自分に疑問を覚える。
思い出そうと頭を捻るが、靄がかかっている感じで思い出せない。
――そう、一日の記憶がはっきりしないのだ。
いや、一日だけではない。
学校に通っていた、というのはなんとなくわかるのだが、思い出せない。
そして、ここ数日間、どのように学校で過ごしていたのか。それすらも思い出せない。
だから、もしかしたら寝ている間、または休日にこの真っ白な空間に連れてこられた可能性もある。
しかし、そうなると制服に着せ替えられたことになる。
人に着せ替えさせられたと考えるのは勘弁願いたい。ので、制服を着ていたのだからきっと登校中、または学校生活中、下校中のいずれかにここに連れられたのだろうと希望する。
――誘拐?
と、その二文字が浮かぶ。
頭に靄がかかっているのは、薬品を盛られたならば説明もつく。
しかし、誘拐ならばもっと可愛い子がいただろう、とも思う。
夕は自分の容姿については、平均暗いだと認識している。不細工、ではないと信じたい。
ベリーショートの髪が伸び始めたな、と感じる黒髪は、後ろから見たときに男だと間違われる時もあるが――せめてもの救いは、162cmと女性の平均的な身長であり、人並みに胸があり、くびれがあることだ。
ただし、運動部特有の筋肉はついているし、腹だって割れているのだが。
故に、夕自身は誘拐する価値があるほどの容姿ではないのだが、と評価を下している。
一般家庭の、普通の女子高生だし、と頭の中で呟く。
夕がそんな思考に没頭し始めた時、真っ白な空間にわずかな変化が訪れた。
夕の正面から約十メートル程離れたところに、人ひとり分通れるような長方形の縁取りが現れたのだ。
突如出現したそれは、どうやら影を落としているように見えた。
――これは、出口だ。
直感が、出口だと伝えている。なぜ出口と思ったのかはわからない。ただの勘だ。
それと同時に、この出口から『この空間から出なくては』という思いが不意にわく。
突然わいたその思いを訝しく思うが、夕はじっと目を凝らしてその出口を見る。
出口の先に見えるはずの風景は、この空間と同じく真っ白であり、人の気配すらない。
急にできた出口。まるで夕が起きたことを把握しているかのようであり、不気味だ。
――誰かに見られている?
だとしたら、やっぱり誘拐なのだろうか。しかし誘拐でもこの空間はあまりにも現実離れしている。
ためらいはしたものの、ここで立ち止まっていても何も変わらないのは事実。
決意して、でも警戒して出口に近づく。
近づいたからとて、出口から見えるはずの景色は、やはり真っ白のままだ。
この時、先程の『この空間から出なくては』という思いが少しだけ強まった。
その思いは、やはり不自然だ。でも、状況が変わることはない。
不安を覚えながらも、目の前の出口へまっすぐ腕を通してみる。
すると、どうだろう。
壁の向こう――出口だと思われたところの先から、腕が消失している。
夕は慌てて腕を引っ込める。
外傷はない。腕は、無くなっていない。存在している。
――なるほど、この先の景色が見えないのは、何かカラクリがあるのだろう。
そう判断し、腕が無くなっていないということは無害なんだろう。
けど、不気味なものは怖い。
少しの間、不安と焦りから一人問答をしていたが、埒が明かないと結論付け、夕は一歩踏み出した。
――視界が真っ白に染まる。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら教えていただけるとうれしいです。