3項 祝、冒険者
目を覚ますと見知らぬ天井と銀髪の女性が目に入る。
俺にこのセリフを言う機会が訪れるとは。
「知らない天井だ」
「……起きた」
小さめの声でつぶやく様に銀髪の女の子が言う。
かわいらしい顔つきをしているが眠いのか、ボーっとしたような表情の女の子の瞳からは感情が読み取れない。
「あ、おはようございます。あなたは……」
「……私はミリィ。ウィンクルムで、黒魔法士をしてる。よろしく……」
ウィンクルム……
ッ!! そういえば俺は成人の儀の途中だ!
「確か、魔人化を発動した途端に体が熱くなって……」
つぶやきに答えるようにミリィという女性は言葉を返す。
「……リアムの能力、暴走……した、から私たちで抑えた……」
俺の能力が暴走……
!? 誰かをケガさせてしまったのだろうか、焦燥感が募り前世での出来事を思い返す。
とりあえず状況確認をしないと!
「ミリィさんっ! あ、あのっ!」
表情から心情を読み取ったのかミリィさんは言葉を返す。
「……ミリィで、いい。リアムの能力は暴走した、私から見てもとてつもない闇の魔力が体を駆け巡っていた、けど暴れた、とか危害は加えた、とかはない。その場で蹲って、倒れた。ごめん、言葉が足りなかった」
ミリィはぺこりと頭を下げた。
感じていた焦燥感は安心感に変わる。
「あっいえ、こちらこそご迷惑おかけして申し訳なかったです。看病をしてくださったのですよね、ありがとうございます」
今改めてよく考えるとウィンクルムの黒魔法士は女の子だったのか。
以前はフードで見えなかったが……
「……私は、看病してない。リアムを看病したのは神殿勤務の、医療班」
「そうだったんですね、あとでお礼を言わなきゃ。あれっそうなるとミリィは何故ここにいるんですか?」
「……あなたに言うことが、ある」
言うこと……?
そういえば俺の能力、魔人化は常用に堪えない能力だった。
もしかしたら使用が禁止されて商人ギルドにでも所属させられるのだろうか。
「はい、何でしょうか」
みっともないところを見せたばかりなので出来るだけ表情を崩さないよう返事をする。
「……貴方の魔力はすごかった。でもこのままじゃ、使えない」
やはりそういうことなのだろうか。
どうしても気分が沈んでいく。
「……ので、うちのパーティの下で修行を、積んでもらう」
「えっ?」
「うちのパ―ティの下で修業を、積んでもらう」
え? ということは、冒険者ギルド所属……?
嬉しさと疑問で思考がまとまらない。
うちのパーティの下、というのはどういうことだろう。
戦闘中は素早い指示が必要になる。
パーティは4人がベストだ。すでにウィンクルムは4人いたはず。
「……貴方の能力はすごい。私が、保証する。でもこのままじゃ、使えない」
「……ウィンクルムはクエストを、受けた。期限は、1年間。それで貴方の魔人化、をコントロールできるようにする」
クエストということは依頼を受けたのか? いったい誰に……
「あの、一つ質問です。クエストというのは誰から?」
「……マシューが、能力を見て、学園に推薦したいと、言っていた。今のままだと、危険。なので、1年間でコントロールしてもらう」
学園!? 俺が使用に耐えなかった能力はそんなにすごいものだったのだろうか。
「コントロール、出来なかった場合どうなるのでしょうか」
「……その場合、は、学園の話は無くなる。商人ギルドへの移動にも、なると思う」
なるほど。どちらにしろこれはチャンスと考えよう。
どちらにしろ、魔王が攻めてくるまで5年しかない。
1年でものにできないのなら諦めもつく。
「……ちなみに成人の儀、2日目は、出なくていい」
成人の儀の2日目、か。
そういえば途中だった。
ギルドに所属した後は個人の能力テストが行われ、その中で高い成績を収めた者や特殊な無属性魔法を持つ者、高額の入学金が払った者は国の認可を受けた専門的な知識や技能を研鑽する"学園"に入れるのだが。
随分すっ飛ばしてしまったようだ。
「……やる?」
よし、やる気でてきた。頑張るぞ。
「はい!!」
その言葉を聞いたミリィは少し微笑むと黒のフードを被る。
「……じゃあ、これ」
手渡されたカードにはこう記されている。
名:リアム・ロッド
所属:冒険者ギルド
能力:魔人化
位階:圏外
「……ついてきて」
「はい!!」
今日からが地獄の特訓の始まりだった。