1項 神殿へ
俺は結局転生の道を選んだ。
この世界は魔王がいると聞いていただけあって剣と魔法の世界だ。
そして今日はこの世界での俺の誕生日だ、15歳になる。
日本と違いこの世界は15歳で成人と認められ、納税の義務が発生する。
成人になった者は地域毎に一つ設置されている神殿へ向かい成人の儀を受けなくてはならない。
そして俺、リアムは成人の儀を受けるために神殿へ向かうところだった。
「行ってきます。ネル」
ネルは俺を育ててくれた母親だ。
成人したら家を出る、それは決めていたことだけど11年間育ててくれた母親との別れは寂しい。
「行ってらっしゃい。たまには帰ってくるのよ、あなたの家はここなんだから」
俺は異世界飛ばされた後、ネルという名のブロンド髪のとてもキレイなエルフの女性に育てられた。
昔から見た目はちっとも変っていないがもう120歳になるらしい。
ネルは本物の母親ではない。俺の髪は黒いし種族は人間だ。
ただ、ネルは俺を我が子のように愛情を注いで育ててくれたことは伝わってくるし、俺も本当の母親だと思っている。
そしてネルには俺の起こしたことを伝えている、俺がこの世界の人間ではない転生者であること、俺が原因でたくさんの人を殺してしまったこと、それでも笑顔で育ててくれた。
ネルには感謝してもしきれない恩がある。
「ありがとう、母さん」
別れを惜しみつつ俺は自分の住んでいる場所の最寄りの街の神殿へと向かった。
歩いて2時間ほどだ。
ネルの家はエルフであるためか街から離れた森で暮らしていて結構遠い。
しばらく道沿いに歩いていくとスライムがゴブリンに襲われていた。
ゴブリンとスライムか……
初めて見たときは感動したなあ。
この世界でのスライムはモンスターの括りに含まれはするが通常のスライムは非力で人間に害は与えない。ペットとして飼っている人もいるようなモンスターだ。
俺もひんやりしてて気持ちいいし、プルプル可愛いので嫌いじゃない。
とりあえず、スライム助けるか。
自分の身体の中にある魔力を練り、手の平へと集中する。
俺が使用できる魔法は火属性と闇属性、その中でも難易度の低い魔法をゴブリンに向けて放つ。
「ブラインド!」
この魔法は放った魔力に当たった対象の視界を一時的に奪う闇属性魔法。
驚いたゴブリンはギャアギャア騒ぎながら暴れているので今のうちにスライムを抱きかかえてこの場所から脱出する。
「ふう……ここまで来れば大丈夫かな」
抱きかかえていたスライムを逃がそうとするも、このスライムに懐かれたのか足元に引っ付いてくる。
「ごめんな、俺今から行かなきゃいけないところがあるから」
そう告げ、スライムに自分の魔力を分け与えた。
スライムは主に魔力と水分で出来ているため、ゴブリンに襲われた傷もこれで癒せるだろうと思っての行動だ。
スライムはしばらくプルプル震えているが一緒に行けないことを察したのかピョンピョン跳ねて移動していった。
「俺も向かわないとな」
そうつぶやき、足早に神殿へと向かった。