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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
東部編 参章『悲しみ嘆く声は』

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其の拾玖

「諦めたらどうだ?」

「諦めるか……そうすればどうなると思う?」


 相手の問いにミキはそっと息を吐き出す。

 解り切ったことだ。いつの世も"敗軍の将"の末路など大きく変わりなどしない。


「ハインハルの国王は脳無しで有名だ。上手く交渉すれば、胴体から頭が別れることぐらい回避できるだろう」

「無理なのだよ」

「なぜ?」

「我々がことを起こしたと同時に王都で政変があった。国王並びに大臣の主だった者は捕らえられ処刑された。現国王は王弟セイアスだ」


 主の言葉に剣を構え隙を伺っていた部下たちにも動揺が走った。

 その様子から彼が、その情報を他の者に伝わらないように遮断していたことが伺える。


 危ない綱渡りをしていたのか……。


 察することの出来たミキは、クーゼラがもう引き下がれない場所に立っていることを理解した。


「王弟は噂に聞く限り、古書漁りの変人だと思っていたが?」

「そうだ。誰もがそう思い彼の動向などに注視していなかったのだろう。だからことを成した。どれほど用意周到に進めていたのか解らないほどにな」

「昔から歴史を学ぶ者ほど狡猾な人間はいないと言っていたな」


 誰の言葉だったかミキは思い出せない。

 義父では無い気がするから殿に仕えていた者の誰かかもしれない。


「だから我には降伏など無い。このまま戦い続けて相手に打ち勝つしかない」

「ここの兵だけでか?」

「いやもう一つ方法がある。強い力を持つシャーマンを手に入れて、もっと強く恐ろしい化け物をハインハルの軍にぶつける。そうすればこちらにも勝機が生まれよう」

「勝機? 冗談は止めておけ。もうお前に勝機なんて無い」

「まだあるさ! やれ! あの男の首を取って女を奪え!」


 一瞬の躊躇いの後、部下たちはミキに向かい殺到する。

 そっとレシアを押して離し、彼は迷うことなく前進した。




「良いか三木之助よ? 一対一ならば強い者、運の良い者が勝つ」

「そうでしょうね」


 義父に叩きのめされ地面に伏す彼は恨めし気に相手を見つめていた。

 本当に強い。何をどう鍛えればこんなにも化け物染みた強さを手に入れられるのか解らない。

 義理の息子の視線に気づきながらも……自称天下無双の剣豪は笑いながら次なる問いを口にした。


「ならば一対多数ならばどちらが勝つと思う?」

「……普通に考えれば多数でしょう」

「本当にお前は面白く無い奴だな」

「義父殿の様に不真面目に生きていませんので」

「何を言うか。儂は真面目ぞ? 真面目に生きることを楽しんでおる」


 カラカラと笑い彼は息子を見た。


「一対多数……数の上では多数が勝つ。でもな三木之助よ? それは囲まれでもすればの話だ」

「……」

「一対多数。一対百としようか……それならばお前でも勝つことが出来るだろう」

「いえ。自分は義父殿の様に強く無く」

「まあ儂の様に強くは無いな。でもその辺の者に負けるほど弱くも無い。ならどうすれば勝てるか? 答えなど簡単だ。一対一を百回すれば良い」


 さあ驚けと言いたそうな相手に、三木之助は大きく息を吐いて答えた。


「そんなことが出来るのは貴方だけです」

「まあそうだな。でもあれはあれでちと骨が折れる。なかなか大変だったぞ?」

「やったんですか!」

「ぶははは! 何事も経験から語られるものぞ?」



 宮本武蔵は京の吉岡一門と一対多数の戦い……と言うより戦をしたと言う伝承がある。

 事実であったかどうかを指し示す明確な証拠は今だ発見されていないが。




 右手に持つ刀を地面へと向ける。

 その先端が今にも土を抉らんばかりだが……その様なことは起きない。

 走りながら僅かな体重移動で相手の先頭に狙いを定める。


 義父の言葉は間違ってなどいない。

 相手が複数であるのなら、それをいかに少数にするのかを考えれば良いのだ。


 走り寄る今など好都合。相手は自分の剣で仲間を傷つけないように考え無意識に距離を開く。それはミキからすれば攻撃される僅かな猶予に他ならない。


 そしてこの世界の剣を扱う者は、大半が振りかぶり振り下ろす動作ばかりだ。

 扱っている剣が粗悪品なのもあるが、右へ倣いで教わった剣術であることが問題なのだ。

 皆がそうしているから誰も独自に工夫して昇華しようとはしない。必要が無いと思っているからだ。


 だから……振り下ろされた剣を体捌きのみで交わして、ミキは地面擦れ擦れから刀を振るう。

 下から上へと走った刃が相手の首を骨ごと断つ。だが止まらない。向ける視線の先は斬った相手ではなく次なる者へ。


 迷うことなく前進する。


 次なる者は、斬られたと言うのに仲間に剣が当たらないよう気を付け、斜め上から振り下ろしていた。

 焦ることもせず半歩横に体を動かし、上に跳ね上げたままの右腕の手首を返して振り下ろす。

 刃が骨を削る感触を得ながら、二人目の首を斬る。


 まだ前進。


 三人目はこちらの攻撃を予想していなかったのか、仲間の体に隠れ見えなかったのか……剣を振り上げたまま棒立ちしていた。

 なら迷うことなく右手一本で下から突き上げる様に相手の喉に剣先を突き入れ捻る。

 ぐぼっと空気がこぼれる音を聞きながら、ミキは一歩下がり相手の溢れ出る鮮血から逃れた。




(C) 甲斐八雲

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