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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
東部編 参章『悲しみ嘆く声は』

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其の拾捌

「こんな時間に来るとは思わなかったのでな」

「色々あって遅くなっただけだ。何よりここは遠い」

「確かにな。ブライドンからは遠いな」


 思考が纏まらないままクーゼラは、相手の言葉にそれなりの返事をしながら必死に考える。

 意図が全く読めない。本当に"売り"に来ただけなのか?


「買ってくれるのだろう? 破格の値段で」

「ああ勿論だ。今は一人でも多い方が良い」

「そうか。なら売るとするか……この喧嘩を」

「なに?」


 ミキは口元に笑みを浮かべていつでも動けるように構えた。


「まだシャーマンを欲していると言うことは戦う気なのだろう? 悪いな。こっちはもう終わって欲しいんだよ」

「何を言っている?」

「都合の話だ。こっちのな」


 悪びれた様子も見せず肩を竦める相手に……クーゼラは理解した。


 相手の言葉が事実であることを。

 本当に"喧嘩"を売りに来たことを。


「あはは……あははは……これはたまらんな? 一人でここに喧嘩しに来たと言うのか?」

「厳密に言えば二人だな。ただあっちは時間に縛られないからまだ来てないが」

「なに?」

「気づけよ。敵陣の真ん中に一人で来る馬鹿がどこに居る? そんなことをするのは俺の義父(おやじ)殿ぐらいなもんだ」


 言いようの無い不安に駆られクーゼラは手を動かす。

 控えていたはずの弓兵からの矢が……一本も飛んでこない。

 予想もしていないことに狼狽えつつも次の指示を飛ばす。

 歩兵に攻撃指示を出すも……誰一人として来ない。


「何が……起きた?」

「説明すれば簡単なことだ。怖くて動けないんだろ」

「怖いだと? お前一人がか!」

「いや……うちの問題児の友達がだな」

「何を言ってるか!」

「質問に答えただけだが?」


 悠然として隙の一つも見せない青年に、クーゼラは辺りを見渡した。

 何か無いかと目を凝らし、それを見つけた。

 部下がシャーマンの女を引き連れて向かって来たのだ。


「あはは。そうだ。こちらにはまだこれがある!」


 連れて来られたラーシャの胸ぐらを掴み、クーゼラは彼女を自分の前へと突き出した。

 ミキと自分の間……まるで盾か何かにでもするように。


 幻滅した。


 ミキとて元は武士だ。本来の武士道には女子供を尊重する教えは無い。それがあるのは騎士道だ。

 こちらは武士。そして相手は騎士。自分が元居た世界で聞いた話と……どうも違ったらしい。


『幸よ。どうやら武士も騎士も余り変わりが無いらしいぞ』


 そっと胸の中で呟いて……ミキは刀を抜いた。


「さあ笛を吹け。化け物共を呼ぶんだ」

「……」

「さあ吹け!」


 クーゼラに背中を蹴られラーニャは地面に倒れ込んだ。

 それでも体を起こし自分前に立つ青年を見つめる。

 自分には見ることが出来ないが、確かにあの人が言っていた様に不思議な雰囲気のする人だった。


「伝える。『ごめん。済まない……生きてくれ。ラーニャ』以上だ」

「……」

「それとこれだ」


 ミキは取り出した宝石を投げて渡す。

 シャーマンとして大切な横笛を地面に置いて、彼女は放物線を描き飛んで来たそれを両手で抱きしめる。


 いつの日だったか……彼が山で見つけた物だ。

 大きすぎて自分には不釣り合いだと何度も言ったのに、彼は話を聞かずにいつかそれで立派な首飾りを作るのだと誇らしげに言っていた。

 だからそれが出来た時は、ずっと一緒に居ようと……その言葉も添えて。


「何をしている! 呼べ!」

「無理だよ」

「何だと?」

「シャーマンを使うのならまず相手のことを調べるべきだったな」


 宝石を抱いて泣くラーニャの替わりにミキが答える。


「シャーマンは強さの序列がハッキリとしている。彼女は弱い部類だ」

「それが何だ!」

「なら強い者が現れたらどうなる? それも無駄に強すぎて……力を無駄遣いしているぐらいの者が」

「……」

「お前はシャーマンのことを知らずに、知ろうともせずに、道具として使っていた。それが敗因だ」


 一歩二歩と踏み出し、ミキはラーニャの側まで近寄った。

 何一つ言い返せないクーゼラの側で部下たちが剣を抜いて構える。その数は四人。


「白い飾り布を持つ者って言うのはな……俺の常識で言うと、どうやらとんでもなく狂った存在らしいぞ?」


 苦笑と言うか呆れた様子で笑う彼の背後から地響きが伝わって来る。

 ドスンドスンと重量物が移動するそれは、間違いなく"足音"だ。


「ミ~キ~!」

「ここだ」


 反射的に手を振って答えると、地響きがより一層近づいて来る。

 見えたのは巨体の化け物達が団体で迫って来る姿だ。


 巨人……タイタンとも呼ばれ、一匹で兵百人に匹敵すると言われている。

 特に一つ目の巨人は恐ろしく強いと言われ、現れれば災害ほどの被害が出るとも言われる。


 その一つ目の巨人を先頭に、巨人たちが走って来たのだ。


「見つかったか?」

「はい。合流出来ました」


 一つ目の巨人の肩から降りたレシアはミキに抱き付き頬にキスをする。

 それを一つの動作として背後に居る巨人を見上げた。


「あれです。この子以外の子たちは、仲間たちが移動するのに付いて行ったみたいなんです。でも人と戦ってるのを見て『変だな~。何してるのかな~。もう帰ろうか?』と悩んでいたって」

「……頭の中身がお前程度なんだな。納得だ」

「酷いです! 私ならもう少し考えます!」


 プンスカ怒る相手を抱き寄せて……ミキは敗軍の将に目を向けた。




(C) 甲斐八雲

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