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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
東部編 参章『悲しみ嘆く声は』

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其の拾参

 小屋は助けた女たちに使わせているので、ミキはその近くで天幕を張って使っていた。

 横になった時は一緒に居はずのレシアが、少し寝落ちし目を覚ますと消えていたのだ。


 周りは彼女の友達に囲まれているし、危険はほぼ無いと思う。

 ならば手洗いか、水浴びか、月を見て踊りたくなったかのどれかだろう。


 久しぶりに一人きりとなって、のんびりと腕を組んで枕として天幕を見上げる。

 何度か考えてはみたが、どうやってガギン峠に向かいラーニャと言う女性に会えば良いのかと云う問題が解決できない。


 敵陣のど真ん中に居るであろう相手に会いに行く方法。

 そんな手立てがあるのなら是非とも教えて欲しいものだ。


「困ったな。どうすれば良いんだか」




「……シャーマン?」

「そうですよ。ほらほら」


 自分の手首に巻かれている飾り布を見せつける。

 白い飾り布。それは自分とは違い……ごく一部の者にしか巻けない聖なる色だ。


「……白い飾り布ですか?」

「そうです」


 相手の驚いた様子が少し嬉しかった。

 日々シャーマンとしては、ぞんざいに扱われているレシアからすれば特にだ。


 それ理解した女性は、椅子にしていた石から降りて地面に膝を着き首を垂れる。

 両手を腰の後ろに回して、決して逆らわない……逆らえない力量差を認める体勢だ。

 白い飾り布を持つ相手は、力の弱い自分からすれば直視するのも場違いな存在なのだ。


 ただ"正式"な作法に慣れていないレシアはあたふたと慌てた。

 ぞんざいな扱いに慣れ過ぎているのも一因だが。


「そんな畏まらなくて良いですよ」

「いえでも、これが正しき作法ですから」

「平気ですから。ほら今はあれです。話をしに来ただけですから」

「……はぁ」

「顔を上げてください。目立ちますから」


 兵士が集まっている場所のど真ん中に単身で乗り込んで来た人物の言葉では無い。

 女性は地面に膝を着けたまま上半身だけを起こす。だが視線は伏目がちで腕は後ろに回したままだ。


「貴女がラーニャさんですよね?」

「はい」

「えっと……少し話を聞きたいのですけど良いですか?」

「はい」

「ここは目立ちますよね?」

「ならあちらへ。でも……」


 木々の茂る方へ視線を向け、ラーニャはあることを思い出し言いよどんだ。

 そこは"仲間"たちが居座っている一区画で、兵士たちは怖がって近づきもしない。

 唯一近づくのは"餌"を投げ込む時だけだ。


 出来れば止めて欲しいと言っているのだが……死んだ者の遺体などを投げ込み人の"味"を覚えさせている。おかげで最近は狂暴化し操ることが難しくなっている。

 彼らの食欲が彼女の能力を越えつつあるからだ。

 それを知るからこそラーニャも極力近づかなくなっていた。


 何気なく視線を向けたレシアは、足元でじゃれる化け物を従えて迷うことなく歩き出した。


 ラーニャも急ぎ立ち上がり後を追う。

 生まれて初めて見る白を持つ者の実力。木々の中に入った彼女の姿を見て……本物のシャーマンを、自分とは次元の違う力量を、まざまざと見せつけられる。


 何する訳でもなく自然と歩いて行くのだ。

 自分でも木々の間に入る前は笛を吹いて相手に『今から入ります。襲わないで下さい』とお願いしなければ餌になりかねないと言うのに。


 手近なモノの頭を撫でながらレシアは辺りを見渡す。


 どんなに暗くてもその目には命の形が見て取れる。

 自然の中であれば、彼女にとって暗闇など昼間と大して変わらない視界を得る。


「ここの子たちはだいぶ気が立ってますね」

「はい」

「ん~。食べ物が良く無いです。嫌な気配です」

「兵士たちが戦いに備えて人の遺体を与えるのです」

「だから私にもこんな目をするんですか……めっ!」


 その言葉で木々の中に居た化け物達全てが地面に座った。

 一度命じれば……いや気が立っていれば、迷うことなく人を襲う化け物達が、レシアの前では飼い慣らされた家畜の様な振る舞いだ。

 足元でじゃれている犬など、腹を見せて服従の姿勢を取っている。


「与えられる食べ物を変えることは出来無いから……もう。何でこんな時にミキは居ないんですか!」

「ミキ?」

「はい。ミキが居ればきっと良い解決方法を教えてくれるのに……」


 知らぬ名に首を傾げて不思議がるラーニャをよそに、レシアは自分の頭をフル回転させた。


 たぶんミキなら餌を食べるなとは言わないはずだ。たぶんきっと。

 お腹が減ればもっと危なくなるのは人間だって同じなのだから。


 だったらどうするか?


 ここをビシッと解決すれば、後でミキに褒められるかもしれない。

 それに気づいたレシアのやる気は溢れんばかりに沸き立った。


「この人の言うことを絶対に聞くんですよ。良いですね」

「……」

「約束を破ったら、『めっ!』ですからね」

「……」


 一瞬全ての視線が自分に向けられてラーニャは腰が抜けそうになった。

 だが今までとは違い、その視線からは『仕方なく』の気配が消え、『必ず』の気配に溢れている。


 これがシャーマンの中でもごく一部の者にしか許されない"白"を与えられた存在なのだ。

 レシア本人は全くそのことを自覚しているとは思えないが。


「さてと。お話ししましょう」

「はい」

「で……私は貴女から何を聞けば良いんでしょうか?」

「……」


 迷うことなく真面目に聞いて来る彼女に、ラーニャは初めて全力で人を殴り倒したくなった。




(C) 甲斐八雲

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