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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
東部編 参章『悲しみ嘆く声は』

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其の玖

「……」

「怒って俺を睨むのはどうかと思うぞ?」

「だって……あんなに臭いがキツイとは思いませんでした」

「確かにな。非常時にしか食べないって噂の理由が分かっただけ学んだと思おう。味も悪いしな」


 切り出した肉食獣の肉を焼いた結果……二人が学んだことは、食べられるものでは無いと言う事実だった。


 ミキは二切れ食べて終わりとし、レシアは五切れ食べて諦めた。

 残りの肉は全て巨人に渡し、彼は律儀にこちらに背を向けて食べ始める。


 ただその音が生々しくて、聞くに耐えない物だ。

 丸齧りなのか、骨ごと噛み砕く音が食事の終わるまでの間鳴り響いていた。


「も~。ミキはズルいです。自分だけ口直しにお酒とか飲んで」

「お前も飲むか?」

「嫌です。それは寝て起きた時に頭が痛くなります」

「飲み過ぎなだけだと思うが」

「それでもです。何より美味しくないです」


 プンスカ怒っているレシアは、話し相手である彼に抱き付いたままだ。


 簡易用の小さな天幕だから、寄り添って眠らないと体が天幕の外へと出てしまう。

 外気くらいなら問題は無いが、この様な場所ではどんな虫が居るか分からないから用心もしている。

 焚火には虫よけの草なども入れてはあるが、その効果がどれほど持つかは未知数だ。


 文句を言って怒りが収まったのかレシアは幸せそうな表情を見せると、その顔をミキの胸に押し付けて来た。


「ん~」

「どうした?」

「やっぱり私は、こうして二人で寄り添って寝るのが一番好きです」

「ベッドがあれば『幸せ~』とか言って寝てるのにな」

「そうですよ。ベッドは気持ち良く寝れます。でもこっちは色んな物を感じられて眠れます」

「色んな物?」

「はい。土や葉っぱや草や虫の鳴き声まで……全てを感じられて眠れます」

「そうか。シャーマンとしてはこっちの方が良いのか」

「はい。でも今はミキが一緒に居てくれるのが一番の幸せです」


 ふにゃっと胸の上で気の抜けた表情を浮かべる相手の様子から、冗談などの気配は感じられなかった。本当にそう思って包み隠さずにそう告げているのだ。


 素直で真っ直ぐだから……受ける方のミキだってたまった物では無い。

 そっと相手の体に手を回して、抱き寄せる様にしてその顔を近づける。


「明日の朝も早いからな」

「は~い」


 だから何回もさせない。一回で終わりにしようと彼女の桜色の唇に封をする。


「ん……んん」


 いつもとは違ってすぐに離さない。

 その細い背中に手を回して、強く抱き締めて唇を交わし続ける。

 息苦しくなったのか……レシアが小さく握った手で彼の胸を打った。


「……ミキ?」

「どうした」

「ミキはやっぱりズルいです」


 上気した頬を緩めて、レシアはその顔を彼の胸に押し付けた。

 恥ずかしくて相手の顔を見られなくなったのだ。


 こんな気持ちは今までに無かった。


「お休みレシア」


 ポンポンと優しく相手の髪を撫でた。




 微かに聞こえて来た音にミキは目を覚ました。


 寝坊助な彼女が天幕の中から消えている。

 場所が場所なだけにお手洗いに行く時も声を掛けろと言っておいたのだが。


 刀を掴みミキは天幕の外へと出た。

 と、レシアが居た。巨人の隣に立って……どこか遠くを見つめている。

 声を掛けようかと思ったが、そんな気配では無いと察しミキは黙って彼女の背中を見守る。


 耳を澄ませると、やはり何かの音が聞こえる。微かに響くそれは……楽器の音色か?


 不意にレシアの首がちょっと斜めになった。様子からしてご不満のようだ。

 聞こえてくる音色に不満を抱くのはどうかと思うが。

 何より踊ってばかりで、レシアが楽器の音色などに詳しいとは思えない。


「楽器だよな?」

「そうです」

「何か気になるのか?」

「気になると言うか……たぶん音からして、シャーマンが使う御業の一つです」


 集中力が切れた様子で彼女はミキの元へとやって来る。

 ミキも消えかけている焚火に薪を足して、火の勢いを強めようとしている所だった。


「今の音色がシャーマンの技か?」

「はい。シャーマンには、自然との対話で使うのに色々と種類があります」

「種類?」

「はい。私は踊りです。踊りは御業の中でも最も優れていると言われます」

「まあお前は自称凄いシャーマンだしな」

「自称じゃありません。白です。白の飾り布を貰えるのはごく一部だけなんです!」


 背後から抱き付き噛みつかんばかりに文句を言う。解ったとばかりにミキは肩を竦めた。


「楽器を使う御業は、力の弱いシャーマンです」

「そうなのか?」

「はい。踊り、歌、楽器と区別されます」

「つまり今聞こえていた音色はシャーマンの技なんだな?」

「間違いありません。あまり上手くなかったですけど」


 どうも偉そうに言う相手の様子に彼はカチンときた。

 そもそもの質問を正直にぶつけることにする。


「お前は他人の楽器に対して文句を言えるほど上手いのか?」

「楽器なんて私は扱えません。必要無いですから。私には踊りがあるから良いんです」

「なら楽器を弾く人のことを悪く言うな」

「そうですね。でも今の音では心が通わないです。もっと気持ちを込めて自然を呼び込んで奏でないと……どんなに良い音を発してもそれはただの演奏です。御業とは呼べません」

「……お前は本当に言葉が足らない奴だな」

「どうしてミキが怒るんですか? いや~! 朝から頭をグリグリとか嫌です!」




(C) 甲斐八雲

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