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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
聖地編 後章『いずれまた逢う時まで』
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其の弐拾弐

 封印されし存在が表に出た今、本来であればレシアが踊る意味など無い。しかし彼女の踊りは止まらない。

 他のシャーマンや若き狼たちが現れた存在の余りの力に呼吸すら苦しくしているのにだ。


『我を見てまだ踊るか? 今代の巫女よ』

「踊りますよ~! 今日の私は全力で踊れって言われているんです! だから踊り続けます!」


 全身から汗を滴り落とし、それでもレシアは踊る。


 白い不思議な衣装を身に付けた少女は、神々しいまでの力を発している。

 初代の清らかな踊りとは違い、今代の荒々しいまでの踊りは力強い。

 レシアの踊りを見つめるそれは、ゆっくりと舞台へと自身の本体となる光球を近づけた。


『巫女よ』

「はい?」

『お主に取って踊りとはなんだ?』

「生き甲斐です! 私の全てです!」

『……』

「だって私は踊りと共に生きて来ました! 踊って踊って……ちょっと失敗して奴隷になったりしましたが、でもミキに出会ってそれからずっと踊ってます! そしてこれからも踊り続けます!」


 迷いの無い真っすぐな言葉だ。

 本心からそう言っているのが分かるだけに、それに人の顔でもあったら苦笑ぐらいしていてかもしれない。


『生き甲斐と言うか?』

「はい」

『ならば今から踊れなくなったとしたらどうする?』

「踊ります!」

『我の言葉を』

「踊ります!!」


 踊りながらレシアは相手を見つめた。迷いの無い真っ直ぐな目で。


「踊れなくなったら? たとえ足が無くなっても手で踊ります。腕を失っても頭を振って踊ります。体の全てを失っても霊になって踊ります!」

『……なぜそこまでして踊る?』

「馬鹿ですか? さっき言いました。踊りは私の全てです! 踊っている私をミキはずっと見てくれるんです。暖かな視線で優しく笑いながら!」


 全力で吠えてレシアは踊る。


「私は彼と誓いました。一緒に誰も届かない天辺を目指そうと! 私は踊りで、ミキは剣で……進む道は違くてもお互いに一番高い場所を目指そうって! だから私は踊ります! だってミキに負けるのは一番悔しいですから!」

『……負けたくないから一番を目指すというのか?』

「あまり前です! やるからには絶対に負けません!」

『何とも我が儘な娘であるな』


 禿頭の老人の言葉を思い出し、それは言葉を止めた。


 数瞬の間思考し……そして巫女の内を探る。

 愛して止まない相手に向けられたその視線を覗き見し、理解した。


『だがお前が愛している』

「ミキは負けません!」

『……何故そう言い切る?』

「馬鹿ですか? 私の夫は誰にも負けないんです!」

『ならばお主にも負けぬことになるな』

「……私が勝ちます! こっちの勝負は私が勝ちます! でもあっちの勝負はミキが勝つんです!」

『……無茶苦茶であるな』

「良いんです! どんなに私が馬鹿なことを言っても最後はミキがどうにかしてくれます」

『愚かしいほどの盲信であるな』

「難しい言葉は分かりません。でもミキならどうにかしてくれるんです!」

『何故そう言い切れる?』

「……私が愛している人は、強くて優しくて意地悪な人だからです」

『理由にならんな』

「それに言いました」

『……』

「これが終わったら二人目でも三人目でも産んで良いって! だからミキは勝って帰って来るんです! 負けるなんてことは無いんです!」


 圧倒的な存在感を発する"それ"を前に……レシアは一歩も引かない。

 それどころか自分の意見を前面に押し出して暴言すら口走っている。


 若干、『巫女としてよりも人として難があるのでは?』と疑いたくもなるが、持っている力や踊りの技量は一級品である。故にそれはこれ以上の問答は無意味だと諦めた。


『我も少し寝ぼけていたらしいな』

「はい?」

『お主のような者には問答など無意味。最初から確信を告げるべきであるな』

「……」


 全身に嫌な気配を感じ、レシアは深く息を吐いた。

 踊っている踊りを別の物へと変えて……身構える。


『問おうか巫女よ』

「くっ」


 全身に感じる嫌な気配の質が変わった。

 まるで数えきれないほどの針で刺された様な痛みを感じレシアは眉をしかめる。

 相手の様子など気にもせず、それは言葉を続けた。


『人間とは生きるに値する生命であるか?』


 何度となく人間に問いかけて来た言葉を、それはまた発した。




「シッ!」


 発した息と同時に振るった剣の先が相手の首を捉えて斬り裂く。

 剣を落とし喉を押さえた相手に追い打ちをかけて……ミキはたぶん百人目であろう最後を斬り殺した。


 パチパチパチ……


「素晴らしいな武蔵の子よ。父親の偉業に達したか」


 拍手をし嫌な笑みを浮かべているアマクサに、ミキは唾を吐いて呼吸を整える。

 深く一つ息を吐いてから……ゆっくりと口を開いた。


「……下らん」

「なに?」

「義父であれば、俺の半分の刻限で全員斬って捨てただろう」

「……冗談か?」

「事実だよ」


 縛り付けている両の刀を振るってミキは血糊を飛ばす。


「弱すぎだ」

「……」


 視線を向けて正面からアマクサを睨みつける。


「子供に真新しい玩具を与えたのと同じだ。誰もが見知らぬ技術にその目を輝かせてヨシオカの剣を真似たのだろうな」


 また両の腕を軽く開き、切っ先を地面へと向けて『ハ』の字を作る。


「ふざけるな。お前も武士の出であれば知っていよう? 剣術は長きに学んで自分の血肉に沁み込ませるものだ。一年二年学んだ程度の剣が宮本の名を継ぐ者に敵うとでも思ったか?」


 一歩踏み出しミキは正面から相手を睨みつけた。


「幼少の頃から剣を振るい、今も尚振るい続ける。そして死ぬまで振るって……運が良ければたどり着けるだろうな」

「何が?」

「決まっている」


 笑いミキはその体をゆっくりと前へと倒す。


「誰も知らぬ頂の向こう側だ」


 地面を蹴って相手に襲いかかった。




(C) 甲斐八雲

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