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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
東部編 弐章『伝えるべきこと』
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其の拾捌

「ん~」

「のんびりだなミキ?」

「……いつも何かを考えている訳じゃないさ」

「そうだな。俺も商売のことを忘れてのんびりしたくなる時は結構ある」

「結構あるのか」


 クックマンの商隊は移動の足を止め休息していた。

 面倒を見ることになっている新人護衛には、適当に雑務を割り振らせて近づかない様にしてある。

 周りで騒がれるのが煩わしいのと、何故か彼が側に来るとレシアの機嫌が悪くなるのだ。

 焚火を起こしたミキは、棒にカチカチのパンを刺して炙っていた。


 おかしい。パンの焼ける匂いが漂っているのに。


 普段なら近くに居て食べ物を狙っているレシアが飛んで来ないのだ。

 また厄介事でも拾いに行ったのかと、ミキは内心何とも言えない気持ちになった。


 ゆっくりと地面に寝そべり、彼は手の中に在るものを確認する。

 アーチッンに向かう道中で息絶えた男から渡された物だ。

 どうしたものかと悩みもするが……何かしらの縁があれば繋がるだろうとも思う。

 預かった以上、縁は結ばれたはずだ。ならば後は運命とやらに任せれば良いはずだ。


 青く澄んだ空を見上げていると……ふと覗き込んで来た。

 馬車が止まったと同時にぴょんと荷台を飛び降りて消えたレシアだ。

 お手洗いかとも思っていたが、彼女の表情からしてどうやら違う様子だ。


「ミキ。一緒に来てください」

「……パンを持って行けよ」

「は~い」


 会話をしながら焚火の方へと視線を泳がせていた彼女にパンを勧めて立ち上がる。

 パンパンと服に付いた土ぼこりを払っていると、レシアは真っ直ぐパンの元へと走って行き……熱々のそれを手で掴んで目を回している。


 そんな相手の様子に呆れつつもミキは腰に刀を差した。


「クックマン。ちょっとその辺を見て来る」

「……分かった。もう少し休んでから今日の野営地に向かう。余りのんびりしてると置いてくぞ」

「分かった。何かあったら走って追い駆けるさ」


 軽く手を振って歩き出し、レシアと合流して街道脇へと入って行った。




「それで一体何なんだよ?」

「困ってるんです」

「お前がか?」

「私は何も困ってません」

「……」


 パンを食べ終わり軽い足取りで前を歩いている彼女と……会話が成立しない。

 だが爪先立ちで雑草を避ける様に進んで行くレシアは、踊る様な気軽さで歩みを進めていた。

 目的地に着けば分かるだろうと思い彼は口を閉じる。


 しばらく木々の間を歩いていると、ぽっかりとした空間に辿り着いた。

 と、ミキは一気に足を動かし彼女の前に出た。左手を刀の鍔に当てて、


「待ってください!」


 その声に左手の動きを止める。

 この状況で何を待てと言うのか……内心そう思いながら、ミキは目の前のモノに対して警戒を厳にする。


 座って居た。両膝を抱きかかえるようにちょこんと座って居た。

 視線を向けるが、一つ目の相手はどこを見ているのか微妙に分かりにくい。

 ただ人の倍ほどの大きさの相手だ。座って居ても頭の位置はこちらより高い。


 刀を抜いて目一杯腕を伸ばしたとしても、その目を斬るのも難しいだろう。

 相手を知らずに戦いを挑むことがこれほども愚かしいことだったとは……ミキは義父の教えを改めて思い出した。


『危ない立ち合いは十分に備えろ。必要ならば例え決闘でも兵を隠すことを恥じるな』


 いくら常勝を求める義父でも1対1の立ち合いで伏兵とかしないはずだ。

 常にそれぐらいの覚悟を持って戦いに臨めという言葉なのだろう。


 いつでも襲いかかれる状態の彼の腕に、レシアが抱き付いた。


「ダメですよミキ。彼は困っているのです」

「……アイツがか?」

「はい。そうです」


『良し。一回、徹底的に話をしよう』とミキは覚悟を決めた。


「レシア。お前の頭の悪さは理解しているが、そろそろ心配な域に来たぞ?」

「はい? ……私は頭の悪い子じゃありません! 心外です! 酷過ぎます!」

「そう思われたくないならちゃんと一から説明しろ」

「ぶー。ミキはあれです。頭が良いんだからもっと私の言葉を理解して欲しいです」


 交渉は決裂だ。

 ミキは抱き付いている相手を引き剥がすと、両の拳で相手の頭を挟みグリグリとした。


「ふにゃ~」

「自分で努力しろ」

「うにゃ~」


 必死の抵抗で彼女は逃げ出した。そのまま真っ直ぐ一つ目の巨人の元へと駆け寄った。


 正気か?


 相手の行動に肝を冷やすが、彼女は巨人の背後に隠れて彼に向かい舌を出していた。

 どこを見ているのか分からない巨人は……レシアの壁となっている。


 ため息を一つ吐き出して、ミキは頭を掻いた。


「なあレシアよ」

「何ですか?」

「……お前はそれと話せるのか?」

「ミキも冗談を言うんですね。話せる訳無いじゃないですか」

「後で俺の気が済むまでお前の尻を叩く」


 とても低いその言葉に……軽く怒った様子だった彼女は、一気に顔色を青くした。

 相手が本当にやりかねないと察したのだ。


「……あわあわ。あれです。シャーマンには"言葉降ろし"と言う御業(みわざ)があるんです」

「言葉降ろし?」

「はい。シャーマンが使える特別な御業です。この子たち相手なら話すことは出来ませんが、意識を通わせることで相手が思っていることを共有するんです。私みたいに力が強いと、"人"の心の中も見れたりします」


 レシアの言葉は必死だった。

 怒っている相手の気持ちを和ませないと、今夜間違いなく自分のお尻が叩かれてしまう。

 だから素直に全てを話をした。他人に言ってはいけないことまでも。


「レシア?」

「はい」

「俺が今、何を考えているか解るか?」

「待ってください」


 ジッと彼の目を見つめて彼女は力を使った。そして理解した。


「どうして許してくれないんですか!」




(C) 甲斐八雲

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