表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
西部編 参章『辿り着いたその場所で』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

422/478

其の拾肆

「カカカ……。同じ術を使う者が居るとはな。驚きだよ天草」


 空の上からそれを見ていた老人がツルッと禿げた頭を撫でる。


「だがこれでファーズンは東へ動く。さすれば舞台は聖地となるか」


 また笑い老人はゆっくりと立ち上がった。雲の上でだ。


「閻魔が蘇るか、それともまた封じられるか。此度はどうなるのであろうな?」


 ぴょんと雲を飛び降り、老人は地面へと向かった。




「あれは何だったんだ?」

「理解出来るかは知らんが、幻術……まやかしの類だろう」

「げんじゅつ?」

「ようは幻だ。本来なら無いはずの場所にあんな感じで姿を作り出す」


 城を出たミキたちは焦ることなく歩いていた。

 向こうが宣戦布告をしたのだ。追い打ちなどつまらないことはしないだろう。


 ただ問題は……国対個人だ。戦いにもならない。


「ショーグンよ」

「何だ?」

「何処かに味方になる国は無いか?」

「無理を言うな。西部はもうほとんどファーズンに落ちたと聞く。むしろそれ以外の伝手となると全くだ」

「そうか。そうすると南部のアフリズムぐらいしか頼れんな」

「……砂に伝手があるのか?」

「ああ」


 伝手ならある。たぶん頼めば応じるはずだが、問題は山とある。


「アフリズムへの援軍をどう請えば良い?」

「港町はファーズンによって制されよう。例の東のなんたらに行ってから手段を考えた方が早い」

「そうなるか」


 やれやれと頭を抱えるミキに、背後から馬車が駆けて来る。

 どう見ても制御できてない馬車に目を向けたミキは、そのまま隣の男を見た。


「止められるか?」

「奪うのか?」

「否、連れだ」

「分かった」


 軽く肩と首を鳴らしてショーグンが前に出る。

 グルンと肩を回して……自身の前を過ぎようとする馬の首に腕を回して締め上げる。

 何が起きたのか見ていたミキですら理解出来なかったが、走っていた馬がピタッと止まった。


「良い馬だ」

「馬が良いのか?」


 どう見ても力任せに黙らせただけだが……ふとミキはそれに気づく。

 御者席で目を回しているマリルは色々と驚いただけだろう。だがあれが居る限り馬が暴走するなどあり得ない。


 客車を覗き込んだミキは理解した。

 怒った様子でパンを齧っている馬鹿が居たのだ。


「何している?」

「……今回は絶対ミキが問題を起こしているんだと思います」

「否定はせんな」

「でも私はミキから謝って貰ってません。何より最近は冷たくあしらわれているような気がして」

「そうだな」

「……」


 パンに嚙り付いたままでレシアはジッと夫の顔を見る。

 やれやれと肩を竦めたミキは、頭を振って息を吐く。


「今は慌ただしいから落ち着いたら可愛がってやる」

「……約束ですよ?」

「分かった」


 話を終えた所を見計らって客車に来たマリルに手を貸しミキも中には居る。

 御者席には巨躯の男が腰かけて居た。


「そっちで良いのか?」

「俺だとそっちは息苦しい」

「ならとりあえず東に」

「分かった」


 軽く手綱を動かすと、馬はすんなりと歩き出した。




 追っ手なども無く馬車は順調に東へ向かう。

 途中に兵などの確認を受けるが、ショーグンの拘束具は事前に外し用心棒としておく。

 余りに巨躯な容姿を見て怪しむ者も居るが、『王都に確認すれば良い』とミキが言うと逆に兵たちが折れる。面倒な仕事など抱えたくないのだ。


 そのまま順調に……と、思った矢先にそれが起きた。




「忘れていたな」

「確かにな」


 ショーグンとミキはそれを見つめて何処か嬉しそうな仕草を見せる。

 マリルは呆れて客車に戻り、レシアはクルクルと回っている。


 東に向かえばファーズンと敵対している者たちが居る。

 それはつまりファーズンの兵も居ると言うことだ。


 十重二十重に川にかかる橋を挟んで敵対する二つの勢力。


 こちら側ではファーズンが砦を築いて相手の出方を伺っている。

 向こう側では敵対する者たちが石造りの巨大な壁のような建物に籠っている。


(造りは完全に石垣だな。あれは抜けんぞ)


 確りと積み上げられた石は互いに噛み合い簡単に崩せない。

 こちらに来てから石同士をくっ付ける技法など見たが、目の前に存在する壁は間違いなく石垣だ。


「ミキ~」

「ん?」

「一人多いです」


 妻の言ってる意味を理解出来ず、ミキは辺りを見渡す。

 客車から顔を出しているマリル。隣で腕を組んでいるショーグン。自分に向かい飛びかかってくる気配を見せている妻。そして自分と……禿げた爺。


「キッキッキッ……気づいたか巫女?」

「ん~。見えないなら音を聞けば良いんです~」

「流石に心臓は止められんな」


 最初から居たかのように姿を現した彼にミキは苦笑する。

 怪僧と名高い果心居士だ。


「いつから?」

「数日前からだ。ずっとそこの上に居た」


 ひょいと客車の上を指さす老人は、その客車から驚いた表情で見つめる美人に片目をつぶる。


「ホッホッホッ……実に眼福であった」

「何をしたのかは聞かない方が良さそうだな」


 マリルはマリルでキレると面倒臭い。

 だがここで彼が姿を現したのには意味があるはずだ。


「御老体」

「何だ?」

「お手を……お貸しください」

「良い良い。眼福であったからな」


 カッカッカッと笑って老人は一人歩き出した。




(C) 甲斐八雲

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ