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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
西部編 弐章『偽ることが事実となりけり』
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其の参

「良い? 男性にも色々な人がいて……大きな声を好む人も居れば、声を出さずに我慢する様子に興奮する人も居るのよ」

「知りませんっ! 何の話ですかっ!」


 今日も今日とてマリルの遊びは終わらない。

 本日はレシアに対しあっちの知識をぶつけてからかう方向らしい。


 前を行く二人の背を見ながら……まあ仲良くやっている様子だから、ミキは特に何も言わない。


「声以外でも仕草とかに興奮する人も居るしね」

「……」


 顔を真っ赤にして俯き加減に歩く妻の耳に口を寄せ、マリルが甘く囁き続ける。


「複数の女性とすると燃える人も居るわね」

「……」


 何故か同時にチラチラと視線を寄こす二人に対して、ミキは肩を竦めて返事とする。

 ただ近くを漂う球体が……小さい羽根を動かし自分を指し示しているのは無視することにした。


「それに胸をね。ごにょごにょごにょ……」

「……ふぇえっ! そんなことをするんですか?」

「ええ。こうしてこうすると」

「本当だ。出来ます」

「貴女だってそんなに小さくないんだから、こうして……」

「うわっ! うわっ!」


 立ち止まり何か始めた二人を追い越しミキは先に進む。

 だが球体は急停止して二人の輪の方へと突撃して行った。


「こうしてこう」

「こうですか?」

「そうそう。でこう」

「嘘……」


 何か価値観でも崩壊したのか、妻の絶望染みた声を耳に収めつつミキは足を止めずに前へと向かう。

 たぶん今更妻の耳を塞いでも遅い。それが分かっているから無駄なことはしない。




 数日街道を進むと関所があった。

 簡単な木製の壁が横たわる簡易的な物で、数名の兵が荷物などの確認をしている。

 事前にレシアのお陰で関所の存在に気づいていた一行は、奴隷商人の夫婦と商品とに別れ準備万端で関所に訪れた。


「入国の目的は?」

「はい。商人ですので商売に」

「そうですか」


 チラリと"商品"に目を向けた兵は、売り物の美しさに息を飲んだ。

 幼く見えるが整った顔とその容姿に目を奪われる。それに商人にしな垂れかかる妻もまた美人だ。妖艶さを醸し出して豊かな胸につい目が行く。


「何か問題でも?」

「いいえ。ございません」


 告げて兵は入国を許可し、簡単な説明をして来る。


「我がクロージットの国土の大半が沼や湿地となります。街道沿いでしたら特に問題は無いのですが、それでも湿地に暮らす化け物が姿を現し人を襲うことがあります。野営の際は決められた場所で過ごしていただければと思います」

「分かった。ご忠告感謝します」


 それから簡単なやり取りをして三人は沼のクロージットへと入国を果たした。




「で、早速か」

「ですわね」

「……」


 奴隷の衣装を着たことで何かを思い出し沈黙している妻はそっとしておき、ミキは近くで浮かぶ球体から武器を取り出す。

 二本の刀を腰に差して前へと出る。


 自分たちの前を進んでいたらしい隊商が襲われ、食い散らかった状態だ。

 一番厄介なのは食事に集中していればいいのに……新しく来たミキたちに目を向けて来る。

 相手は地を這う四つ足の鱗を持つ生き物だ。


「トカゲにしては大きいな。何より顔が長いし」


 打刀を抜いて構えたミキに、巨体を動かし相手が近づいて来る。

 その巨体から動きが鈍いだろうと思っていたミキが一瞬慌てるほどの機敏さで距離を詰めて来た。


「デカい割には早いな」


 大きく開かれた口から逃れて足捌きで相手の横に立つ。と、そのまま止まらず突き進んだ巨躯の化け物の尻尾がミキを襲う。

 呼吸を整え振り下ろした刃が……硬い皮膚を裂いて一太刀浴びせた。


「早いし硬いと来たか。厄介だな」


 致命傷とはとても思えない傷だが、それでも傷を負った巨躯の化け物が痛みで転がりミキに血走った目を向けて来る。

 相手に"敵"と認識されたことを理解し、ミキは改めて構えた。


「まあ厄介だが殺せないほどの強さでもない。丁度良い……少し遊べ」


 狩人の一方的な攻撃に……地を這う化け物は斬られ続けるのだった。




「悪くは無いな」

「意外とさっぱりしてて美味しいです」

「ただ泥臭いな」


 襲撃されていた隊商に生存者は無く、ミキたちは使えそうな物を拝借すると……残っている物を端に寄せて火を点けた。

 流石に人を食った化け物の胴体部分を食するのは難しく、手足だけを残し胴体は街道の脇に転がす。

 いずれは自然に還るはずだ。


「食わんのか?」

「……無理言わないで。沼トカゲを食べる人なんて初めて見たわ」


 調理はしたが自身は食する気が無いマリルは、パンと水を手に簡単な食事にする。

 沼トカゲと呼ばれる足を一本食べ尽したレシアは満足気にお腹を叩いた。


「久しぶりに美味しいお肉を食べました」

「そうか」


 2人分としては量が多過ぎたので、残った肉を七色の球体に押し付ける。

 綺麗に食べ尽したナナイロは、これまた満足気に地面を転がった。


「さあ……久しぶりに全力で行きますよ~」


 満腹と言いつつも軽い身のこなしで立ち上がったレシアは、呼吸を整えると踊りだす。

 てっきり食後の運動かと眺めたマリルは……その踊りに引き込まれた。

 旅を続け経験を重ねるレシアの舞は誰が見ても虜になるほどの物となっていたのだ。



 レシア本人は軽い気持ちで鎮魂の舞を踊っていたが……それに気づいた存在を呼び寄せることとなるのだ。




(C) 甲斐八雲

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