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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
西部編 壱章『旅は道連れ、世は曼殊沙華が多く咲くなり』
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其の伍

「一つ聞いても良いか?」

「ええ」


 布を掻き集め寝床を作ったマリルは、手早く荷造りを始めている。

 それでも荷物は多くないのか、革製の鞄一つで収まる程度しかない。

 女性の旅支度にしては少なすぎる量なのだ。


「服や下着の替えは?」

「旅をするのでしょう? なら手軽な方が良いわ」

「言いたいことは分かる」

「でしょう? だから必要に応じて買えば良い。服なんて洗って乾かす分もあれば十分よ」

「っ!」


 クワッと目を見開いて驚いているのはレシアだ。

 彼女の場合はその服が荷物の大半だ。厳密に言えば服となる布の生地がだが。

 薄手の服を緩く着こなすマリルは、そっと自分の腕を抱いた。


「それに少しこうして女の武器を強調すれば……男なんて尻尾を振って服を恵んでくれるわ」

「お前のその男を下に見るのは……否、良い。聞くだけ疲れそうだ」


 彼女はたぶん興味が無いのだ。

 男どころか人にすら興味が無い。だから自分と言う武器を最大限に使える。

 自分にすら興味が無いから徹底的に冷酷なまでにだ。


「あら? もしかして私に興味でも覚えたの?」

「……がるる」

「そっちの奥さんは素材は良いけど子供っぽいしね。たぶん優しく優しく可愛がっているのでしょう?」

「違います~。私たちだって、こうすっごく激しくですね……すっごいんですから!」


 プンプンと怒るレシアを手招きして、マリルは何故か部屋の隅へと移動する。

 二人で額を寄せ合い話し込むこと少し……ミキが寝床を作り終えた頃に、ボロボロと涙を溢して妻が戻って来た。


「ミキ~」

「どうした?」

「……私はまだお子様でした……」

「そうか」


 何故か勝ち誇った様子で胸を張ってニヤニヤとしている同行者の性格が分かって来た。

 色んな物に興味は無いが、それでも玩具を見れば遊ぶのだろう。

 ある種の猫だ。猫や犬の両極端な性質を持つ者に出会う自分は不幸なのかとミキは悩んだ。


「まあ良い。さっさと寝て明日に備えよう」

「はい」

「あっ寝る前に良いかしら?」

「何だ?」

「やるなら私のことは気にせずに」

「ぬがぁ~!」


 激怒する妻を押さえてミキは視線だけで彼女に警告を発する。

 肩を竦めて従うマリルは、思い出した感じでもう一つのことを口にする。


「それとたぶん明日の朝にでもこの街に居るファーズンの兵が来るはずよ」

「どうして?」

「私が何をしているのかは説明したでしょう? 街を回って殺しているのよ。で、今夜……貴方たちと出会う前にも殺した。それだけのこと」


『じゃあおやすみなさい』とだけ軽く声をかけて来て、マリルは纏めた荷物を机の上に置くと自分の寝床に入り丸くなる。

 それを見つめていたレシアは……夫に視線を向けた。


「そう言うことらしい。なら俺たちも寝るか」

「良いんですか?」

「ああ。どうせ街の門も閉じられているだろう。だったらちゃんと寝ておいた方がいい」

「は~い」


 肝が太いのか何も考えていないのか、レシアは彼の言葉に従い寝床へと向かう。

 軽く頭を掻いて……ミキはどっちの胸に飛び込もうか悩みフヨフヨと宙を漂ってている球体を捕らえ、口の中に手を入れた。


「刀は……これか」

「ぐぅげ~」

「お前も遊んでないで寝ておけ」


 と言っても自分たちの睡眠の邪魔はされたくない。

 ミキはそのまま球体をマリルの方へと放ることとする。


「あら? 飼い主に見放されたの? 可哀想に……私と一緒に寝ましょう」

「コケ~」

「その代り少しその羽根を毟っても良いかしら? 七色の羽根なんて珍しいし……何かに使えるかもしれない」

「ぐぅぉげぇえ~」


 断末魔のような声が響いて部屋の中は静かになった。




「マリルと言う女がここに居るはずだ! 出て来るが良い!」


 早朝……と呼ぶには時間が過ぎていた。

 朝食を済ませた三人の元にようやくやって来た兵を見て、ミキは相手の質を理解した。

 本国よりも遠いこの地に居る兵の質ははっきり言って下の下だ。


「居るが何の用だ?」

「男か。お前に用はない。マリルを引き渡せ!」


 隊長らしい小太りの男が偉そうに胸を張る。

 引き連れてる部下も似たような感じだ。運動不足が見て取れる。

 そんな滑稽な男が五人だ。ミキは内心呆れ果てた。


「渡したらどうなる?」

「その女は我らの同胞を殺害した容疑がある」

「……容疑?」

「ああ。嘆かわしいことに我が同胞は勤務中に女を買い遊んでいたらしい。それで昨夜買った女がマリルだ」


 一応筋は通っているが、どうもニタニタと笑う男たちの表情を見ていると別のことが目的にしか見えない。

 と……背後の戸が開き、自由人の妻が出て来た。


「ミキ~。鳥さんが怯えたまま降りて来ないんです~」

「棒で突っついて落せ」

「は~い」


 クルッとその場で反転して彼女は室内に戻った。

 で、ミキはやる気のない視線を男たちに向ける。鼻の下がこれでもかと伸びていた。


「今のがマリルか?」

「違うぞ」

「……あの女も怪しい。一緒に捕らえて尋問する。引き渡せ」

「そうか。分かった」


 告げてミキは十手を掴んだ。

 念のために準備しておいた刀は……必要無かったらしい。


「お前らじゃ話にもならんな」




 五人の男たちを打ちのめして小屋の中に放り込み、三人は堂々と街の正面門から出て行った。

 商人でもあるミキとその妻レシア。そして唯一の商品である奴隷の娘……衛兵は何も疑うことなく彼らの通行を許したのだった。




(C) 甲斐八雲

 これにて西部編壱章の終わりとなります。


 プロローグ的な感じで作られたと言うか、マリルのキャラが三回くらい変わってしまったが為に『どう出会おう?』と迷走し続けた結果のこれです。

 当初はくのいち系のキャラとするはずでしたが、『あの時代で有名なくのいちって居たか?』と言う自身のツッコミで没。次に考えたキャラはマガミとなってしまい、三度目で毒薬使いとして登場です。

 本来なら活躍する話を書くはずが、『出会いのインパクトで十分だな』と。

 ファーズンに向かう道中で色々と良い味を出してくれることでしょう。


 ここまでの感想や評価、レビューなど頂けると幸いです。

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