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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
西部編 壱章『旅は道連れ、世は曼殊沙華が多く咲くなり』
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其の壱

 西部編のスタートです。

 でも現状バトルシーン過多は聖地編になってからかな? それでもそこそこバトル多めで物語は進むはずです。

 ただし今回は……ある人物のせいで少しエロチックな感じになります。

 大陸の西の果て……海のアガンボに属する港町の一画にその一団は居た。

 大陸南部を支配する砂のアフリズムに属する商船だ。こんな場所まで来るのは大変珍しい。


「……ごめんなさい」


 ワハラはその所作の美しさから思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 出会ってから何度となく繰り返して来たのであろう彼女の土下座は、今までの……前を含めてもお目に掛かったことの無い素晴らしさだった。

 所詮土下座ではあるが。


「こうして頭を下げているから許してはくれんか?」

「行き過ぎてしまったことは仕方ないな。海獣が夜を徹して泳ぎ続けるとは考えもしなかった」


 前の時の同胞たる保護者の言葉に、ワハラも自分の配慮の無さを痛感し頭を掻いた。

 試験的に船を海獣に押させた結果……目的地の港を通り過ぎ、大陸の最西端まで来てしまった。

 ここからアフリズムに戻るのは大変だが、普段貿易の出来ない場所で商いが出来るのは行幸かも知れない。


「一応帰りもこれに手配させたからそこまで大変じゃ無いはずだ」

「そうなのか?」

「ああ。コイツは馬鹿だし加減を知らんが」


 チラリと視線を向けた彼は、足を痺れさせて上半身で奇怪な踊りを踊る妻を見た。


「根が優し過ぎる馬鹿だ」

「ミキ……馬鹿が多いです」

「大馬鹿者だ」

「はうぅぅ~」


 夫に足を軽く蹴られ彼女はまた奇怪な踊りを見せる。

 その動きはまるで道中に見たイソギンチャクのようだ。


「まあ俺たちの方は上手くやるさ。ここでの商いももしかしたら王への良い土産になるかもしれない」

「そうあって欲しいがな」


 苦笑し彼……ミキは昔からの仲間に手を差し出した。

 ワハラも笑って彼の手を取る。


「元気でなミキ」

「お前もだワハラ」

「それとこれは王からの伝言だが、『困ったことがあれば頼れ。恩に報いよう』と」

「ああ。その時は頼む」

「それとこれは王妃からの伝言だが、『王にあのこととかそのこととか……余計なことは告げてませんよね?』だと。お前らあの人に何をした?」


 ジロリと睨んで来る相手にミキは視線を斜め下に向ける。

 釣られて見ると、太ももの上で楽し気に転がる球体に苦悩の表情を浮かべる彼女を見た。

 美人が見せる苦悩の表情は悪くは無いが……それでも彼女は、この大陸に二人と居ないシャーマンの巫女のはずだ。ついつい忘れてしまうが。


「全部それが悪い」

「そうか」

「だが本当に言ってはいけないことは言わないよ。本能的に回避する無駄な才能がある」

「……そうか」


 再会してからと言うもの彼の毒舌ぶりには舌を巻く。

 昔はもっと実直で気難しい感じにも見えたが……本来の彼はこうだったのかもしれない。


「改めて……元気でなミキ」

「おう」

「無理はするなよ?」

「分かってる」


 妻を抱え上げ顔色一つ変えない彼に、ワハラは一応辺りに目を配る。


「大陸の西はファーズンの支配下だ。港を出れば彼らの法が支配する息苦しい場所と聞く」

「そうか」


 胸に抱く妻に甘えられる彼は……どこか好戦的な笑みを浮かべた。


「なら騒ぎに巻き込まれないように気をつけるさ」


 別れを告げて立ち去る夫婦を見つめ、ワハラは思った。


『ファーズンも可哀想に』と。


 あの二人が来て静かに終わる訳がない。

 たぶんこの地域は引っ掻き回されて騒乱に巻き込まれるであろうと。

 彼のその予感は的中するのである。ただ唯一の間違いは……この地域では無く、この大陸がであったが。


 商いを終えて王への土産を手にした彼らは、海上で待っていた海獣と出会う。

 が、また加減を知らない生き物の暴走で、大陸の東まで行くこととなり……彼らがアフリズムに戻れたのはしばらく後だと言う。




「ハッ、ハッ、ハッ……」


 息が苦しい。

 それでも彼女は走っていた。

 追いつかれれば……違う。居もしない追っ手に怯えて全力で駆けていた。


「くるっしい……」


 足を止めて建物の壁に手を付く。

 食いしばっていた口からは荒い呼吸が繰り返し溢れ止まらない。

 忘れていた様に噴き出す汗に、薄手の衣装が濡れて肌に付く。


 若い女性だ。年の頃は十五、六か……銀色に見える髪を汗で濡らし背中に貼り付かせている彼女は、娼婦が纏う衣装を着ていた。

 その容姿も悪くない。若々しいが色気のある手足はスラリと長く、齢の割に膨らんでいる胸と細い腰を見れば男たちは黙っていないだろう。


 故に一人で出歩くのは危ない。

 特に日が沈んだこんな時刻に……。


「お嬢ちゃん? どうした?」

「……っ!」


 息を整えていた彼女に声を掛けて来たのは、薄い笑みをその顔に貼り付けた消し薄層な男と仲間二人。


「……次の仕事に遅れそうだから急いでいたのよ」

「そうか。でももうこんな遅くだ。客も違う女を選んでるだろうさ」

「……だから何よ?」

「決まってるだろう?」


 薄い笑みを醜悪にし、彼の仲間も欲望に塗れた顔を見せる。


「俺たちが特別に客になってやると言ってるんだ。良いだろう?」

「……払えるの? 私は高いわよ?」

「「ははは~」」


 男たちは腹を抱えて楽しげに笑う。

 こちらは三人。相手は一人。

 どう見てもまだ客取りをし始めたばかりの小娘にしか見えない。

 はったりだと理解するのに悩む必要すら無い。


「俺たち全員を満足させたら有り金全部払ってやるよ」

「……そう」


 女は月を背に薄い笑みを浮かべた。


「なら相手をしてあげる。丁度興奮していた所だから」


 男たちは気付いていない。

 薄暗い月明りなのも災いして……彼女の衣装が二色であると思い込んでいた。


 白と黒。


 そう見える衣装は、本来白一色だ。

 後の色は彼女が『仕事』で得た色。

 人から発せられる……血液と言う染料だ。




(C) 甲斐八雲

 西部編は予定では4か5章で終え、聖地編へと続きます。

 ぶっちゃけ聖地編との連動なので、ある種の最終章とも言えなくないですが。

 聖地へと至る道筋を……ご堪能下さいませ。


 ちなみに今章は導入なので5話と短めです。

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