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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
東部編 弐章『伝えるべきこと』

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其の拾参

 夕食の時間となり、ミキたちは一階の食堂へと降りて来た。

 クックマンが手配していた宿は、この街でも上位に入る店だ。

『良くされ過ぎだな……』と思いながらも、ミキは相手の気持ちを素直に受け入れる。

 少し遅れて街の顔役などとの挨拶を終えたクックマンも合流し食事とする。


 レシアは切り分けた肉を山のように積み上げておけば黙って食べ続けるので、ミキは何も言わずにそれを実行する。

 正直クックマンとの会話を邪魔されたくなかったのだ。

 シャーマンを買いたがる男の話をどうしても聞いておきたかったのだ。


「なるほどな」

「そっちは何か?」

「ああ。同じ男かは分からないが、こう血なまぐさい感じのする奴が訪ねて来たよ。『シャーマンを扱っていないか』ってな」

「たぶん同じ男だろう。それでなんと?」

「素直に話したさ。『居たけど売っちまった。護衛としてこの街に一緒に来ている男だから……街のどこかに居るんじゃないのか?』ってな」

「素直に言ってくれてありがとうな」

「そう皮肉るな。仮に噓を言っても、部下に小銭でも掴ませてバレたらことだ。だったら素直に言ってしまった方が問題にはならない」

「その通りだな。それで俺を探して交渉を持ちかけたのか」


 ミキは腕を組んで目を閉じた。最近食事の時間ばかりに頭を使っている気がする。

 幸せそうに肉を頬張っている少女が隣に居ることを考えると特にだ。


 あとで少しイジメてやろうと……違うことを考えている事実に気づいて頭の中を整理した。


「シャーマンを買い求める理由が分からないな」

「確かにな。俺たちの間では"シャーマンは不幸を招く"という言葉は有名だ。有名すぎて買い取りをしない商人だって居る」

「……良くレシアを買い取ったな?」

「……商品が足らなかったのと、とにかく見た目は悪く無いからな。最悪"娼婦"として売れると判断した」


 二人はそっと話の中心である少女を見る。


 両手にフォークを握り満面の笑みで肉を頬張っている少女が居た。

 本当に幸せそうだ。見てて気持ちが和らぐ。おかげで微塵も"色気"など感じさせない。


「……綺麗にして黙って立たせていれば、買う奴も居るかと思ったんだ」

「質問する前に本音を言うなよクックマン」

「現にお前は買っただろう?」

「金を払ったのはシュバルだけどな」


 レシアが欲しくて舞台に上がった事実は認めるしかない。


 普段()こんな感じ……普段から(・・)こんな感じだが、踊っている時の彼女は全くの別人だ。

 正直に言えば、レシアの踊りに魅入られたからこそ彼女を手に入れたかった。


『独占欲』


 そんな感情を抱いてしまうほどの踊りであり、何より存在なのだ。

 輝いている。踊っている時の彼女……特に気持ちが入っている時の踊りは目が離せない。


「クックマン。それ以外に何か面白い話は?」

「……そうだ思い出した。ミキに頼みがあった」

「頼み?」

「ああ。ググランゼラに一緒に行って欲しい」

「理由は?」

「何でもググランゼラに向かう街道に"一つ目の巨人"が出るらしい」


 本題も終わらせたから、食事でも……と思いワインに手を伸ばしていた彼の動きが止まる。


「一つ目の巨人?」

「そうだ」

「本当に出たのか?」

「目撃情報は多い。ただ街道の近くまで来るだけでまだ襲われてはいない」


 心の中で食指が動いた。


 巨人族は人が戦える相手として最大級の大きさだ。それ以上大きなモノは身長差から戦い様が無い。

 そして一つ目は特に"強い"と言われている。


「……移動の予定は?」

「ここであと三日休んでから移動する」


 クックマンはミキの様子を窺うように言って来る。


 彼もまた解っている。修行の為に諸国を漫遊すると言っている若者が何を欲しているかぐらい。

『経験と強敵』だ。


 目を閉じて考え込んだミキに……食べるのを止めたレシアが口を開いた。


「行きましょうミキ」

「良いのか?」

「はい」

「分かった」

「なら三日後だ。それまでゆっくりと街を見て回ると良い」


 自分の知る限り最強の護衛を押さえられたクックマンとしても一安心だ。

 やれやれと頭を掻いたミキだったが、『そうと決まれば』と言いたげに食事に手を伸ばした。




「本当に良かったのか?」

「何がですか?」


 お湯で体を拭いて彼がベッドに横になっていると、それを終えたレシアが飛び込んで来た。

 抱き止めて自分の横に降ろすと、彼女は身を寄せて甘えて来る。


「ググランゼラに向かうと海に行くのが遅れるぞ?」

「急ぐ必要があるんですか?」

「……」


 言われればその通りだった。

 どうも真っ直ぐ海に向かうことばかり考えていたと反省し、ミキはそっと相手を抱き寄せる。


「なあレシア」

「はい」

「……この辺に肉を感じるんだが」


 触られた脇腹と掛けられた言葉に……笑顔だった彼女の表情がゆっくりと凍り付いた。


「……にゃぎゃー!」


 レシアは反射的に叫んで飛び起き、寝間着にしている貫頭衣を捲る。

 自分の脇腹をペタペタと触って状況を確認し始める。

 ミキはそんな様子を尻目に、毛布代わりの獣の皮をその身に掛けた。


「レシア。ベッドに戻って来る時はランプの明かりを消してくれ」

「ふみゃ~!」


 貫頭衣が邪魔になったのか……下着以外脱ぎ捨てた彼女は、体を大きく振って余分な贅肉の具合を確認している。

 普段あれだけ食べているのに良く踊っているレシアに無駄な肉など無い。

 それを分かっていてミキは相手にわざと言ったのだ。


「それとレシア」

「にゃぁぁ……」

「嘘だから」

「……ぁぁああっ!」


 自分に対して背を向けて寝ている相手に対して……レシアは怒りの感情に任せて全力で飛びかかった。




(C) 甲斐八雲

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