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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
南部編 肆章『王として男として』

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其の肆拾弐

 ミキがウルラー王の執務室に通された時に提示した作戦……それは至極簡単な物だった。

『国王派と前王妃派とで別れて集まっているのだから、相手の拠点を攻めて一網打尽にしてしまえば良い』と言うものだ。


 難色を示す王であったが……ミキの言葉に理解を示し了承した。


 大罪人となる役目はミキが引き受ける代わりに、王にはシャーマンたちが平和に過ごせるよう取り計らって貰う。今居るシャーマンたちは新しい王妃が責任を持って見守って行くなど……自分たちの理にならない条件を提示する彼に、終始王は苦笑していたが。


 だがミキとしてはそれで十分だった。そのことで妻となるレシアが喜んでくれるのだから。


 ふと思い出した彼は、最後にそのことを口にした。『騒ぎが終わったら妻と正式に夫婦となりたい』と。

 愉快そうに笑った王は快諾してくれた。『ウルラー王の命の元、最高の誓いをさせよう』と。



 十分な報酬を得て……ミキは王都をひた走っていた。




「レシア!」

「は~い」

「道は合ってるな?」

「こっちですよ~」


 たまに姿を現しては行く方向を指示して消える。

 シャーマンの御業を心底羨ましく思いつつ、ミキは王直属の部下たちに追われる罪人を演じていた。

 追って来るのは一般人の格好をした将軍イマーム率いる精鋭部隊。ついでに国王とその弟もだ。


「全く……西に向かえばもっと大変そうだと言うのにな」

「今回はミキが悪いんですからね~」

「……そうだな」


 自覚があるから否定できない。

 騒ぎに首を突っ込んで、話を大きくしているのは間違いなく自分だ。

 チラリと声のする方に視線を向けるが、シャーマンの巫女たる妻の姿は見えない。


(焦りだな)


 ここに来て実力を付ける妻を見ていてその思いが募る一方だった。

 前を行き過ぎているくらい先に居る妻を追う為に……騒ぎを大きくした。

 自ら過剰なくらいの試練を得る為にだ。


(付き合わせている者たちが知ったら殺されかねん)


 完全なる自己都合だ。

 だがミキは突き進むと決めた。


(因果応報……いずれ俺も跳ねっ返ってくるかもしれんな)


 どれほどの業を背負っているかなど分からない。

 たぶんそれを見ることの出来る妻は教えてもくれないだろう。

 レシアは何だかんだで優しいからだ。


「このまま真っ直ぐです」

「ああ」


 だから今は相手の優しさに甘えて走るしかない。

 全力で真っすぐ走って……少しでも彼女の背中に手が届くように、と。




「何奴! 止まれ!」


 門番らしい者を蹴り倒し、ミキは一気に屋敷の内部へと侵入した。

 流石に国王の地位を狙う前王妃の屋敷とあって広大で立派だ。


「ふわ~。人がいっぱいいます」

「全員が戦える訳でもあるまい。レシア」

「は~い」

「お前の判断で良い。無関係そうな者は逃がしてやれ」

「は~い」


 一瞬姿を現し、キスをして彼女は消えた。

 唇に残る感触を軽く舐め……ミキはゆっくりと刀を抜く。


「我はファーズンより来た吉岡の者! 前王妃オルティナよ! もうお前は邪魔となった!」


 襲いかかって来る者を一刀に伏して、ミキは言葉を続ける。


「息子のエスラー同様に始末をつける!」


 言い切り苦笑した。

 やはり自分の業は酷そうだと痛感したのだ。




 だがミキの嘘は違った効果を生み出した。

 実際に裏で西のファーズンと繋がっていた前王妃派は、その嘘を信じてしまったのだ。


『自分たちは斬り捨てられて捨てられる』


 屋敷内に混乱が生じた。




「何が起きた!」

「分かりません」


 屋敷を警護する者たちは突然のことで後手に回る。

 事態を把握することを優先し、彼等は最もやらなければならないことを疎かにした。


 開かれた通用門を通って押し入る者たち。

 それに気づいた護衛の一人が遮るように前に出た。


「これより先はっ!」


 警護の者は気付いた。

 押し入って来た者の先頭を行く男の正体に。

 ニヤリと笑い腰の曲刀を抜いた男は迷うことなく振り下ろした。


「我らはウルラー王直属の捜査隊である! この屋敷に王弟エスラー様を殺害せしめた者が逃げ込んだと報告を受けた! これより屋敷の中を検める!」


 嬉々とした表情を浮かべ……将軍イマームは、彼を制しようと前に立ちはだかる者を斬り殺した。




「何事か!」


 ヒステリックに叫ぶ前王妃オルティナの登場に、大広間に集っていた者たちが不安げな目を向ける。

 普段の絢爛豪華な装いも間に合わなかったのか、オルティナは軽装な姿を見せていた。


「オルティナ様」

「誰か?」

「はい。西のギリョーミの街で代表をしています」


 恭しく畏まる初老の男性にオルティナは扇で顔を隠し口を開く。


「何事か?」

「はい。西のヨシオカの手の者が訪れました」

「そうか。なら応接室に案内し」

「いいえ。我々を消しに来たのです」

「っ!」


 ポロリと扇を落とし、オルティナはその顔から血の気を失う。


「何故……どうして! 誰か答えよ!」

「「……」」


 その問いに答えを持つ者など居ない。

 誰もがどうしてこのような事態になったのか理解していないからだ。

 だからこそオルティナは正気に戻った。

 自分以外の者たちなど所詮はこの程度だと認識しているからだ。


 ゆっくりと息を吐いて落した扇を拾い上げる。

 バサリッと広げ直して彼女は口元を隠した。


「ならば捕らえて訳を吐かせよ。誰ぞ……ヨシオカの者を退治して参れ」


 静かに告げられた言葉に部屋の隅で壁に背を預けていた者が動いた。


「ならばその命……この戦士隊長ムーゴが引き受けましょう」

「出来るのか?」

「はい」


 オルティナの前に来て男は跪いた。


「自分ならば千人斬りですら斬り殺してみせましょう」




(C) 甲斐八雲

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