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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
南部編 肆章『王として男として』
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其の拾捌

 娘を探し走り出した将軍は、何故かスムーズに通りを進んでいた。行く先々で市民が指さし方向を示してくれる。だから迷うことなく追うことが出来るのだ。

 ただ何に対しての指示なのか走りながら悩みつつも……足を動かしながら周囲に目を配る。


 一番に目を向ける場所は今走る道だ。

 余程焦り駆けているのか、複数の真新しい足跡が鋭く土を抉り残っている。

 それ程の情報があれば十分だ。より足に力を込めて全力を発揮する。


 残る足跡の濃さを確認しつつ……彼は遂に追いついた。

 少女を抱き護る様子の女性とその前に立つ男たちの襲撃をさばき続ける青年……それで充分だった。


 腰に差している二本の曲刀を抜き放ち迷うことなく振り下ろす。

 刃が肉を斬る感触に、精神的な喜びを感じながら将軍と呼ばれる彼は剣を振るう。




 急の襲撃に男たちの包囲が崩れる。


「将軍イマームかっ!」

「正解だ!」


 この王都で最も有名な殺人鬼の登場に、男たちの腰が引けた。

 千人斬り……その異名は伊達では無い。彼が戦場で奪った命の数だ。


 両手で振るわれる曲刀が煌めく度に血しぶきが上がる。ミキはそれを静かに見つめ、手近に居る男たちの鳩尾に十手を打ち付け昏倒させた。

 このままでは自分たちがただ襲撃を受けただけだと言い訳が出来なくなってしまう。


 僅かな時間で襲撃者たちは全員地面に伏していた。


「歯ごたえの無い」

「お父さま~」


 レシアの腕を抜け出した少女が、男に向かい駆け出し抱き付く。

 手にしていた曲刀を地面に刺して娘を迎えた男は、全力で我が子を抱えてその顔に笑みを浮かべた。


 熱い抱擁を交わす親子をそのままに、ミキは地面に転がる男たちを引っ繰り返し確認する。

 十一人中九人が死に、残りの二人が昏倒している。昏倒しているのはミキがやったものである。


「ミキミキミキ」

「どうした?」


 昏倒している男たちを後ろ手に縛り、地面に放置して彼は手を払う。

 コソコソと接近して来たレシアは、彼に抱き付いて耳元に口を寄せる。


「あの人……いつもお城に居る人です」

「良し。逃げるぞ」


 迷うことなく彼は決断を下した。

 そのまま逃げるように二人で移動を開始し始めた所で、親子で抱き合っていた将軍の顔が向けられた。


「何だい。礼ぐらいさせろよ?」

「それで充分ですよ」

「そう言うなって」


 甘えるように抱き付いて来る娘をそのままに、将軍は軽く頭を掻いた。

 若い男女に目を向け、将軍は何となく頭の何処かに感じるものがあった。抜けて美人の女性と、鉄の棒を武器とする青年。


「ああ。お前たちか。陛下が追っている二人と言うのは」

「さあ知りませんが」

「そう言うだろうな」


 カラカラと笑い片手で娘を自分の背後に回し彼は軽く構える。

 ミキもまたレシアを背後に回し軽く身構えた。


 しばらくのにらみ合いの後……将軍は曲刀を腰に戻すと娘を抱きかかえた。


「まあ今の俺は娘の捜索に勝手に来ちまっている状態だからな……これ以上の勝手をすると流石にヤバいんだよ」

「そうですか」

「でもな……」


 肩越しに振り返り彼は笑う。


「お前らの顔は覚えた。次会う時はちゃんと仕事をするぜ」

「なら出会わないように逃げさせて貰います」

「そうかいそうかい」


 カラカラと笑って将軍はゆっくりと歩き出す。


「おっと忘れてた。俺の名はイマーム。イマーム・クリーだ」

「自分はミキ。宮本三木之助(みやもとみきのすけ)玄刻(はるとき)だ」

「長い名前だな……覚える身になれよ」

「それは済まない」


 軽く会釈し、ミキはグイグイと服を引っ張るレシアに誘われて急ぎ路地裏へと逃れて行く。

 入れ替わるように将軍の元に衛兵たちが走って来る。

 国王の目が通じない理由を垣間見て……イマームはやんわりと笑った。


「縛ってある者は生きているはずだ。どんな手を使っても構わん……俺の娘に手を出した者の名を吐き出させろ!」

「「はっ!」」


 まさかの将軍の登場に、衛兵たちが慌てて彼の指示に従った。




「エスラーの手の者がイマームの娘を攫ったと申すか?」

「残念ながら」

「……」


 流石の報告に国王ウルラーも身を預けるように椅子に圧し掛かる。

 込み上がって来るやり場の無い感情に、沸々と怒りが沸き上がり激しく椅子のひじ掛けに拳を打ち下ろした。


「何を考えているのだあの馬鹿者はっ!」


 激高し、もう一度椅子のひじ掛けを打った彼は椅子から立ち上がった。


「流石に許すことは出来んな……将軍の娘を捕らえ誘拐しようとしたのだから」


 怒りの表情で国王は部下に視線を向けた。


「エスラーの元に兵を送れ。あの者を捕らえ連れて参れ」

「ですが陛下」

「くどい! これは国王ウルラーの命である。何人たりとも覆すことは許さん!」

「……はっ」


 色々な意味で恐れおののき、部下は国王の命を受けるしかなかった。




「こけっこ~」

「「はは~」」


 若き麗しい女性たちに祀られ、上機嫌なナナイロが羽を広げる。

 それを悔しそうに見つめながら、女官イースリーの右腕を務めるシャーマンは手にした手紙に目を向けた。


 神鳥レジックがもたらしたそれには、"巫女"たる女性からの指示が書かれていた。




(C) 甲斐八雲

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