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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
南部編 肆章『王として男として』
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其の拾陸

 狭くは無いが広くも無い……四方を壁で覆われた箱庭のような環境に少女は暇を持て余していた。


 日々外で遊んでいるのだろう、王都に降り注ぐ日の光を受けて肌を褐色に染めている。

 だがその表情、顔立ちは整っており将来有望だ。頬などを土で汚れている様子からお転婆なのだろう……何より遊びたい盛りなのか、探検するように壁際を歩き続ける。


 と、昨日無かった物を発見した。壁の下の方が崩れ穴を作っている。

 屈んで穴を見つめるが……頑張っても自分では通り抜けることは出来ない。残念に思いつつも彼女はしばらくその穴を見つめて屋敷に戻った。


 翌日少女は穴のことが気になってまた壁際を散策する。

 穴はあった。だが少女は驚いた。昨日よりも大きくなっているのだ。

 屈んで確認するがもう少しで通り抜けられそうだ。

 パァ~っと笑顔を浮かべて少女は屋敷に戻り自室で準備を始めた。


 昨日今日の感じから明日には自分が通り抜けられる穴の大きさになるはずだ。

 勝手に屋敷の外に出るのは怒られるかもしれないが、『お菓子を、大好きな両親に秘密でお菓子を買って来て食べさせてあげたい』と、その想いが外に出る恐怖を上回ってしまったのだ。


 翌日……少女が思っていた通りに穴が広がり、その穴を通って少女は外に出た。

 屋敷の外で穴を監視していた男の目の前でだ。




 暇を持て余していた。


 着たくも無い服を着せられて、毎日大人しくしていることに腹を立てながら……それでも我慢していた。でも限界だった。三日も我慢したのだ。もう無理だ。

 彼女は隠れるように過ごしていた宿の一室から力を使い抜け出ると……太陽が降り注ぐ表に出た。


 ほんの少しだ。少し太陽を浴びたら宿に戻る。

 彼だってフラッと居なくなることがあるのだからそれと同じだ。


 全力で自分に言い訳をし、周りにもそう言い聞かせて彼女は歩き出した。




 少女は走っていた。

 突然男の人に腕を掴まれ怖くなってガムシャラに足を振った。

 運良く相手の股間に足先が触れ……男は地面に這いつくばって震えだした。


 だがそれで終わらなかった。


 仲間らしき人たちが声を掛け合いながら迫って来たのだ。

『屋敷に戻る』と言う発想は無く、ただ恐怖から『逃げる』を選択した少女は、わき目もふらずに走り出した。


 少女と追っ手の追跡が始まった。




 自由を……自然の空気を全身に浴びながら歩いていた彼女はそれに気づいた。息も絶え絶えで走る少女の存在だ。

 その後ろから迫る男たちの形相を見て……自然と足が動いていた。


 止まりかけた少女に向かい手を伸ばす男。

 だが目に見えない何かが足に引っかかり、バランスを崩して地面を転がった。


 突然のことに男たちは警戒をする。


 足を止めて視線だけで少女を追い……そしてあり得ないものを見た。

 まるで抱きかかえられた様子で苦しそうに呼吸している少女が浮き上がったのだ。


「もう! こんな小さな女の子を寄ってたかって追い回すだなんて……ミキに言って叱って貰いますよ!」


 少女を抱え色を得たかのように姿を現した女性……レシアが、プンプンと怒っていた。




 宿の部屋に戻って来たミキは、額に手を当てて息を吐いた。

 少し目を離した隙にこれだ……と諦めにも似た感情を抱きつつも、天井からぶら下がってプランプランと揺れている球体を両手て挟むように持つ。


「レシアは何処に行った?」

「くぅけ~」

「案内しろ。見つけたら尻の香草を抜いてやる」

「こけ?」


 やる気らしき物を見せ両の羽をパタパタと震わせる鳥の戒めを外す。


 先日シャーマンたちの元からホクホク顔で帰って来たナナイロは、ミキとレシアから罰として天井ぶら下げの刑を食らっていた。

 辛み成分の強い草をレシア曰く『たぶんここがお尻です』と言う部分に突き入れられ……丸一日暴れ続けて燃え尽きていたのだった。


 自由を得たナナイロは、『こっちだ』と言わんばかりにミキを案内する。


 ぶっちゃけナナイロの思考は、『案内してからまたあの素晴らしい花園へ』となっていた。

 決して巫女たるレシアと一緒に居るのが嫌な訳ではない。ただ二つより四つ。四つより六つ……つまり胸は多い方が色々と堪能できるから良いのだ。


 人であれば鼻の下でも伸ばしそうなことを考えつつ、ナナイロはミキを連れて飛び出した。




「シャリーが居ないだと?」

「申し訳ございません旦那様」

「どうした? 何があった?」


 待機していた王城を抜け出し自宅へと戻って来た彼を待っていたのは、『娘の行方不明』と言う衝撃的な出来事であった。

 それも一番わんぱく盛りで可愛いシャリーが居なくなったと言う。


「今朝はお屋敷に居りまして……いつも通りお庭で遊んでいたのです。ですが不意に静かになったと思った姿が無く」


 乳母の一人でもある召使に案内され、彼は庭の一画に足を進める。

 壁の一部が崩れ穴を作っていた。


「これが見つかったのです」

「……」


 屈み男性は壁の状況を確認する。

 自然に崩れた物ではなく、外から衝撃を受けて崩れてことが良く分かる。

 何より砕かれた壁の一部が退かされており……外部の者が中に入り込むために行った犯行だと理解出来る。


「大人が通るにしては小さすぎるな」

「はい」

「……あの子がこれを見つけて外に出たと考えるのが妥当だろう」


 立ち上がり彼は腰の物を確認する。

 前の国王陛下から賜った二本の曲刀だ。


「このままシャリーの捜索に行く。誰か陛下の元に使いを出し説明をしておけ」

「ですが旦那様」

「煩いっ! ……陛下のお叱りなら後で聞く」


 出口へ向かい彼は足を進める。


「自分の子供も救えぬ者が国など救えるものか」




(C) 甲斐八雲

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