其の弐拾肆
「中々に凶暴な娘っ子だな」
「今のはどう見てもご老人が悪いかと」
「うむ。お国はもっとこう……あれも短気だったな」
老人の頭の上に居る鳥が、座り心地が悪そうに足を動かし続ける。
だがやはり嫌になったのか、レシアの元へ飛ぼうとして老人にその足を掴まれた。
「コケェ~!」
「いつまで遊んでおる。お主が居なければこの地は本当に砂だけになってしまうだろう」
「こぉけぇ~」
「ヌシの同族ならばグリラと言う餌が必要であろうが、神格を得たヌシにグリラは必要ない。この地に留まり本来の役目を果たせ」
「……」
血抜きでもされている鳥のようにぶら下がっている鳥は、諦めた様子で身動きを止めた。
「ミキ~」
「何だ?」
「鳥さん……ここまでですか?」
寂しそうなつまらなそうな彼女の声にミキは頭を掻いた。
荷物持ちとしての能力は捨てがたい。何より彼女が可愛がっている様子も伺える以上……彼としてはその願いを無下には出来ない。
「ご老人」
「これを連れ回すのは構わんが、閻魔を封じる力は弱まるぞ? 出会う時に強力な敵と向かい合う愚かな行為をしたいのか?」
「……」
老人の言葉に間違いはない。
だがレシアが拗ねて腕を掴んで揺すって来る。
完全に板挟みとなり……ミキは金色の鳥を見た。
「少しはお前が頑張ってみせろ。腐っても朱雀と呼ばれる存在だろう?」
「……こけぇ」
体をブルブルと震わせて……不意にボトッと金色の塊が砂地に落ちた。
体勢を入れ替え羽繕いする鳥を見ながら、ミキたちは老人の手に掴まれたままの存在に気づく。
七色の球体が掴まれた状態で、プルプルと小さな羽を動かしていた。
「……ご老人?」
「……儂にも分からん」
掴んでいた球体を老人が投げ捨てる。
プルプルと小さな羽を動かし七色の球体がレシアの頭の上に止まった。
「鳥さんが戻りました?」
「ならこの足元に居るのは?」
「……鳥さんです」
金色の鳥は優雅に羽繕いをしている。
七色の鳥は彼女の頭の上に鎮座する。
「増えたのか?」
「どうなんですかね?」
ワシッと両手で掴んでレシアは鳥の目を見る。
しばらく睨み合いを続けると、また頭の上に戻した。
「ミキ」
「何だって?」
「はい」
真面目な顔でレシアはジッとミキを見た。
「面倒臭いから朱雀と別れたそうです」
「意味が分からん。その球体が朱雀なのだろう?」
「でも鳥さんがそう言ってます!」
「ならただのレジックと言う訳か……」
訳が分からないが、それで納得するしか無いらしい。
彼女の頭の上で羽繕いらしきことをしている球体から目を放し、ミキは老人を見た。
「これで朱雀が真面目に仕事をしてくれると思って良いのか?」
「たぶんそうであろう。儂にも分からんがな」
老人が軽く足で朱雀の尻を押すと、金色の鳥はゆっくりと羽を広げて飛び上がる。
静かに宙を舞い金色の光を砂地に落とす。
レシアはその光に手をかざしクルクルと回ると、光を手の中に集めて行く。
その様子を見つめながら……ミキは老人の横に立った。
「ご老人」
「何じゃ?」
「……自分が見たお国殿は本当にご老人が見せた幻なのですか?」
「……そうだと言ってもお主は信じまい? なら野暮な質問をするな」
「ですが」
「……儂はどうやってもあの場所に入れんのだ。だがお主は入れた。つまりやはり難儀な宿命を背負ってしまったのだろうな」
苦々しく笑い老人はツルッと頭を撫でた。
「命を賭してあの娘っ子を護ると誓ったお主だ。何があっても護るのだろう?」
「はい」
「迷いがないな」
ほっほっほっと笑いながら老人は歩き出した。
「儂は西の地に赴く。その後は聖地に行って……お主たちが来るのを待つこととしよう」
「ならまた会えると?」
「そう言うことじゃよ」
立ち止まり老人は肩越しにミキを見た。
「鍛えろよ若いの……きっとファーズンの馬鹿共は数で押して来るぞ?」
「ならば義父を見習い全て斬って捨てましょう」
「ほっほっほっ……それは楽しみじゃのう」
光の雨の中を老人は静かに歩き姿を消した。
ミキはただゆっくりと一礼してから、踊る馬鹿共に視線を向けた。
「いつまで遊んでいる?」
「でもでも鳥さんがやれって」
「こっけっけ~」
「なら構わんが……荷物はナナイロの腹の中か?」
「です~」
クルクルと回る彼女をしばらく眺めていると、レシアがピタッと足を止めた。
「ミキミキ~」
「どうした?」
「こんなのが出来ました」
その手に金色の長い羽根を一本持ちレシアが驚いた様子でクルクル回る。
「きっと朱雀がくれた物だろうから大切に持っておけ」
「は~い」
言って迷うことなくレシアは頭の上の球体に長い羽根を押し込んだ。
すると全力で駆けて来て、彼に抱き付き勢いで砂地に倒れ込む。
「痛いぞ?」
「へへ~。ミキ~」
「何だ?」
「踊ったからミキを好きにしても良いんですよね? 約束しましたもんね?」
満面の笑みを浮かべる彼女にミキは心底呆れた。
手を伸ばし頭の上には球体が居るから彼女の頬に触れる。
「何処かの街に着いたら好きにしろ」
「え~っ!」
「なら汚れたままで良いのか?」
「……それは嫌です。水浴びしたいです」
「なら我慢だ」
「は~い」
と、球体が『コケコケ』と鳴くので、二人は何となく空を見た。
いつの間にかに空には雲が広がり……気のせいか遠くから雷鳴までもが響いていた。
「ミキ?」
「所詮は鳥と言うことか……急げレシア」
「は~い」
二人は駆けるようにその場を離れ足場となる岩場を見つけると天幕を張った。
三日降り続いた雨が上がると……不思議なことに砂地にうっすらと草が生え始めていた。
(C) 甲斐八雲
これにて南部編参章の終わりとなります。
果心居士の爺様を、どこで出そうか悩んでいたら勝手に出ていたこの話。
全体的に爺様の不思議な感じな話にしようとしたら作者が迷走して終わるという醜態。
いずれ大修正してこの話は直したいなと思っています。
次回からは砂漠の国の王都でのお話になります。
王都でどんな騒動を起こしてどうるのか…現状作者の頭の中は真っ白です。
前回、見切り発車した千人斬りの近衛隊長とか本当にどうするんですかね?
急いで話を作るとして、現在スランプ気味なのが…大丈夫か?
ここまでの感想や評価、レビューなど頂けると幸いです。




