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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
南部編 弐章『各々の思惑』
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其の拾伍

 机の上で猫が前足を舐めて居る。

 必死に抵抗する球体は、ふよふよと浮かんだまましばらく落ちて来ない。

 そんな状況の中で、ミキは椅子を引っ張りベッドの横に置いた。


「さてと。これから尋問を始めるか」

「……」


 何も語らないとその目で語る女性は、唇をきつく噛み締めて彼の視線から顔を背ける。

 反対側に座るレシアと向き合う格好になるのだが……まだそっちの方がマシだと思った。


「勘違いするな。お前は俺の気紛れでいつでも殺せるんだ。死にたく無ければ全て答えろ」

「なら殺せ。私は何も答えない」

「そうか」


 ゴソゴソと物音がして不意に女性の目に何かか乗っかる。

 布のようなそれで目隠しをされて……背筋に走る冷たい何かを感じた。


「言いたく無ければ頑張れよ」


『何が?』そう問う前にそれが来た。首筋をこちょこちょとくすぐる何かが。

 ゾクゾクと来る寒気とむず痒さに、女性は身をよじり必死に抵抗する。だが拘束までされている状況では逃れようが無い。


「ん~。ここの反応が良いな?」

「ミキミキ。こっちのここも凄いです」

「やるな……なら俺はこっちで」

「むむむ。でしたら私はこっちのここを」


 抜きたてほやほやの鳥の羽を手に持ち、二人はベッドの上の女性をくすぐって回る。

 執拗なまでに足の裏を攻めるレシアの攻撃が一番効いている様子だ。


「ここですね。足の指の間がとってもいい感じみたいです」

「……弄ぶなっ! ひと思いに殺せっ!」

「ん? 捕らわれの身が寝言を言うな。お前の命は俺が握っているんだ」


 たっぷりとくすぐり、ミキたちは一度攻撃の手を止める。

 目隠しを外すと、ボロボロと涙をこぼす女性が厳しい目で見て来た。


「殺せっ!」

「だから言ってるだろう? 甘えるな……そして楽をするな」

「楽だと?」

「ああ楽だ」


 目隠しに使った布をクルクルと纏めながら彼は言う。


「本当に死にたいのなら舌でも噛めば良い。それをやらないお前は死にたくないんだ」


 女性が行動を起こす前に、布を口の中に押し込み吐き出せないように覆う。

 悔しそうに睨みつけて来る目を……ミキは肩を竦めて笑った。


「これからいくつか質問をする。一度質問を全て言うから……考えて答えられることだけ答えろ」


 と、女性は顔を背けてレシアの方へと向ける。

 両手に羽を持ち楽し気に構えている相手を見て、女性はこれでもかと睨みつけた。


「まず名前はどうでも良いな。目的は俺の暗殺……と見せかけて別件だろうな。俺たちを調べるように命じた人物は……名前を聞いても分からん可能性がある。となると何を聞くべきか」


 背後から聞こえてくる質問らしき言葉に、反応しないよう女性は咥えさせられた布を噛んで耐える。

 目を閉じるのは……目の前で楽し気に体を揺らして羽を構える存在が居るから出来ない。

 正直に言うと彼女は、くすぐられるのが大の苦手なのだ。


「ああ。これを聞けば良いか」

「……」


 相手の質問が決まったらしい。グッと布を噛んで女性は身構えた。


「どうしてお前……"御業"が使える?」


 ビクッと体が反応したが耐えた。

 一番言えないことだ。それを言ってしまったら、


「裏切り行為で殺されるかもしれないですか……」

「っ!」


 クワッと目を見開き、女性は羽を持つレシアを見る。


「名前はサーリさんで、ミキを襲った理由は『邪魔だから』かな? 命令した人物は王都の……何とかさんですっ!」


 胸を張ってそう言う彼女に女性……サーリは驚きの視線を向ける。

 今自分が見た物は、まるで話に聞く存在そのものだからだ。


「で、御業が使える訳は?」

「それは簡単です。彼女はシャーマンです」


 私は分かってますと言わんばかりに増々胸を張るレシア。

 ミキはサッと構えた手刀でお馬鹿な相手を黙らせ、ベッドに拘束されている女性の口を覆う布を外し、口の中の物も引き抜いた。


「……貴女は?」

「はい? 私はレシアですよ。で、こっちが私の大切な人のミキです」


 勝手にそう言て恥ずかしがるレシアを無視して、ミキはサーリの顔に手を掛け自分へと向けた。


「全部話せ。さもなければ白を持つシャーマンがお前の全てを覗くぞ?」

「あ~。何かその言い方は棘があります」

「事実だろうが。覗き好きの助平娘が」

「……ふっふっふっ。どうやらミキとは一度、どっちが本当に助平なのか、はっきりと決める戦いをしないといけないらしいですねっ!」


 座っていた椅子から立ち上がり、ベッドを半周してミキに突撃したレシアは……あっさりと迎え撃たれて正座させられる羽目になった。


「さてと。馬鹿も退治したことだし……少しは落ち着いたか?」

「は、い」

「なら言うが良い。お前の隠していること全部を。今だったら聖地で巫女とすら呼ばれる存在であるあの馬鹿が手を貸してくれるかもしれないぞ?」

「馬鹿って言う方が馬鹿だって狼さんが言ってました」

「馬鹿だなレシア。馬鹿は馬鹿だから自分が馬鹿だと知らないんだ。だからわざわざ教えてやる必要があるんだぞ?」


 懲りずに飛びかかったレシアは、正座から土下座に姿を変えた。


「あの……」

「何だ?」


 控えめな口調でサーリはそもそものことを口にした。


「本当に巫女様なのでしょうか?」

「残念ながら……巫女であっても中身が伴わないと言う見本らしい」




(C) 甲斐八雲

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