表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 伍章『傾奇者と武芸者と』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

277/478

其の弐拾伍

「何をどう間違えれは兵が100も集まるんだ?」

「さあ? 私に人の行動を聞かれても困るわ。こっちは言われた通りにしただけ」

「……何をした?」


 軽く肩を竦めてマガミは答える。


「偉そうな人間を見つけ次第、殴り倒して行っただけよ」

「間違っちゃいないが、それだったら確実に殺しておけ」

「あら嫌だ。そんなことをしたら聖地に入れなくなるでしょ?」


 コロコロと喉を震わせて笑う人狼に、ミツは苦虫を嚙み潰したような顔を見せる。

 たぶん直接やったのは彼女の傍に居た小さな方だろう。


「人が嫌いだからって無茶をさせるな」

「……あの子は人が嫌いじゃ無いわよ。貴方が嫌いなだけ」

「結果として巫女が逃げられなくなって捕らわれでもしたら誰が責任を取る?」

「……その時は私たちと人との争いになるだけよ」


 痛い所を突かれマガミも顔を顰めた。

 ただ相手は歴戦の雄たる化け物だ。


「どうにかならないの?」

「無理だな。尻尾を巻いて逃げるとしよう」


 あっさりと諦め逃げ出すことを選んだ。

 彼は無駄な戦いを好んでする様な人間ではない。


「相手を引き付けて逃げる。その時は二手に分かれるしかないな。そっちは勝手に逃げろ」

「ええ。そうするわ」


 元々この場所を待ち合わせに指定したのは、南へ無事に向かう為だ。

 ただ予定と違ったのは、彼が話に聞いていたよりも友好的だったことだ。


 マガミは手近な樽を椅子にして足を組んだ。


「一つ聞いて良いかしら?」

「何だ?」

「長老から聞いていた話だと、貴方は絶対に巫女たちを嫌うと言ってたわ。でも貴方は彼をいたぶ……鍛えてはいるけど巫女には手を出さない。どうしてかしら?」


 フッと鼻で笑ったミツは、持っていた小樽を手の中で回す。


「別に……気まぐれだ」

「本当に?」

「ああ。それに」


 顔を上げ彼は人狼の女を見る。


 聖地と呼ばれる場所で説明を受けはしたが、本当にそんな(あやかし)が居ると思えなかった。人から狼に化ける様を見てもだ。


「こっちではどうだか知らんが、俺たちの居た場所じゃ巫女って言うのは本当に神聖な存在だ。俺みたいな面倒臭がりが係わって良い存在じゃない。そんな面倒はあの糞真面目な武蔵の息子にでも押し付けておけ」

「そう……貴方がそう言うなら文句は無いわ」


 相手の本心など知りたくもないマガミは、その言葉を額面通りに受け取ることとした。


 樽から立ち上がり軽く伸びをして……彼女は三日ぶりに彼らに会いに向かおうとする。

 街で人の兵士の対応をしていたのでずっと会えなかった。食べ物は同族の少女に運ばせていたが、様子を聞いても巫女を前に緊張したのであろう彼女は何も答えない。


 別にその存在が貴重であり神聖なだけで、彼女は基本人と変わらないのにだ。


「そうだ」


 と、面倒臭そうにミツが言葉を投げて来た。


「俺たちはこれから逃げる仕度を始める。邪魔するなよ?」

「分かったわ」


 ヒラヒラと片手を振って部屋を後にしたマガミは、三日ぶりに会ったミキの顔が倍ほど腫れているのを見て……どこぞの化け物に対して本気で激怒した。




「痛いって」


 顔に触れる濡れた布を彼は本気で嫌がる。

 どうしたら良いのか分からなくなったレシアが諦めた様子で両手を掲げた。


「もう。こんなに腫れてたらどこを冷やしても同じです」

「その木桶に頭を突っ込んだ方が早いと思うわよ?」

「そうだな」


 パンパンに腫れた頭を木桶の中に押し込み水で冷やす。

 ここ何日と殴られ続けたミキの顔は本当に酷いことになっていた。


「それで戦えるの?」

「……無理だな。目が開かん」


 瞼まで腫れている彼の目は閉じられたままだ。

 何をどうしたらと思いマガミは見ていたであろう巫女に尋ねた。


「毎日殴られ続けていたんです」


 以上だった。それ以上でも以下でも無いと言いだけにレシアがそう告げて来る。


「それで顔をそんなに腫らした訳ね。あとで犯人を見つけたら食い殺してやるわ」

「止めておけ」

「どうして?」

「ある意味こっちが頼んだのだから、怪我を負わされても仕方がない。何より怪我をするのは俺が弱いからだ」


 拭かれるよりも自分で拭く方を選んだらしく彼はそっと布を顔に当てる。


「お蔭で少しは見えて来たしな」

「……変な物が見えてなければ良いわ」


 言ってマガミは木桶を掴むとそれを手に部屋の外へと歩き出した。


「なあマガミ」

「はい?」

「あと何日だ?」

「……良くて三日かしら」


 肩越しに振り返ったマガミは、思案気な彼を見てため息を吐いた。


「そうか。分かった」

「……一日くらいなら伸ばせるかもしれないけど?」

「無理をしてだろう?」


 素直に頷く女性を見て、ミキは軽く頭を振った。


「なら良いさ。二日休んでもう一度挑む」

「分かったわ」


 部屋を出た彼女は後ろ手にドアを閉める。

 二人にしておくべきだと察して……フラリと通路を歩きだした。


「ミキ」

「ん?」

「……」


 心配そうな表情を見せてレシアは彼に抱き付く。


 ここまでボロボロになっている姿を見ることになるとは一度として思ったことは無い。

 それでも彼は毎日殴られ続けている。

 意味が分からないが、続ける以上は意味があるはずだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ」

「本当に?」

「ああ。だからそう泣きそうな顔をするな」

「でも……」


 言って彼の胸に顔を押し付ける。


「大丈夫だレシア」


 そっとミキは彼女の頭を撫でる。


「何かが掴めそうな気がするんだ。もう少しで」




(C) 甲斐八雲

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ