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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 弐章『良く染まる色』

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其の弐拾壱

「本当にお前らは……」


 男は自分のことを棚に上げ、仲間たち二人に愚痴を溢し続けていた。


 昨日の夜……頼まれたとは言え、初めて"人"を相手に商売をした。

 今までは主に化け物の相手をするばかりだった。

 兵士崩れと言ってもこの辺りでは国同士の小競り合いすら起きていない。

 大半の兵士は人との戦いを知らず、まだ賊の相手をする街の兵士たちの方が実戦経験が豊富なのだ。


 彼らは工業などが盛んなエルンシーズで兵士をしていたが、夜間の見回りの時に隠れて飲酒しているのが見つかり解雇された経歴がある。

 それ以来三人で小さな仕事をしては酒を飲む日々が続いていた。


 今回も山に入る者たちの護衛として付き添い、その仕事を終えてから……ケチが付いて回っている。

 ちょっと支払われた金額が足らない気がしたから『高く売れる』と評判な布をほんの何枚か貰って行こうかと思ったのだが、変な若者に邪魔をされた。


 やってられないとばかりに酒場で酒を飲んでいたら、太った商人に声を掛けられて仕事を引き受けた。

 酔っていたのと初めての仕事で緊張していたのもあった。

 少しやり過ぎて……相手の右腕から出る血の量に驚いて逃げ出してしまったのだ。


「俺がやってる間に金ぐらい持って来いよな」

「そんなこと言ってもよ……」

「だな。確か兄貴が『俺が金を拾う』って言ってたしな」

「言ってねえよ。『誰か金を拾え』って言ったはずだ」


 焚火を囲い酒を飲みながら、終わることの無い水掛け論を繰り返す。

 ただ商人から貰った金で買った酒も底をつきかけていた。


「仕方ねえ。村に戻って商人の護衛の仕事でも探すか」

「大丈夫か?」

「何が?」

「だってよ……俺たちの顔とか見られてないか?」

「大丈夫だよ。暗かったし……何より死んでるさ」


 死んでて貰わなきゃ困る。

 もし生きていて、それこそ国にでも訴えられれば罪人だ。


 あそこの仕事を受ける時に身分確認として正規の経歴を全て話してある。

 遡られて実家や故郷にまで調べが入れば、一生戻ることも出来ない。

 こんな不安定な仕事をしていられるのは、最終的に故郷に戻って働けば良いと言う安心があるから他ならない。


「さてと。そろそろ片付けろ」

「はいよ」

「っと……その前に小便と」


 リーダー格の男は残って酒を一気に飲み干し、盃替わりの木の椀を焚火の中に放り込む。

 よろよろと立ち上がり周りを見渡すと……小便に行ったはずの男が顔色を青くして戻って来た。


「どうした?」

「いてえよ……」

「はぁ?」

「いてぇ……」


 股間を押さえて前のめりに倒れ込んだ男は、焚火の中に頭を突っ込んだが……一言も発しない。

 肉の焦げる匂いと余りに異様な光景に、残った二人は理解出来ずに狼狽えた。


「何だ? どうした? 何なんだよ!」

「知るかっ! それより火から退けろ!」


 ようやく思い出したかの様に焚火の中から仲間を引きずり出し……その焼け爛れた顔面を見て胃の中の物をぶち撒ける。ひと目で死んでいるのが分かる。


 でもどうして?


 と……彼が歩いて来た道筋に黒い染みが見えた。視線で辿ると相手の股間だ。

 よくよく見ればどす黒く汚れていて、それが出血して出来た汚れだと気付いた。


「何だ? 化け物か?」

「……」

「おいっ! 武器を……おい?」


 事切れている仲間の様子を窺っていた男は、もう一人の仲間が静かすぎるのに気付いた。

 目を向ければ……彼は地面に両膝を着いて白目を剥いていた。


「何だよ? どうしたんだよ!」

「……化け物さ」

「ひっ!」


 冷え冷えとするその声に男は辺りを見渡す。

 誰も居ないはずなのに……と、自分の首筋に冷たい感触を覚えた。


「約束なんでな。この村の人間を襲えない。だがお前たちは別だ」


 ゆっくり恐る恐る振り返ると、自分の背後に"化け物"が居た。


「さあ言え。全部残さず知ること全てを」


 冷たいまでに熱の無い視線を向けて来るのは……先日出会い脅して来たあの若者だった。




「う~」

「……」


 タインはどうにか逃げ出そうと試みていたが、その全てが相手によって封じられていた。

 ただ体調が悪すぎるのか、頭を抱えてしゃがみ込んでいる青い顔をした彼女の傍には寄りたくない。

 また頭の上から……思い出しただけでも悲しさを通り越して死にたくなって来るので、彼は先ほど体験したことを自分の中で永遠に封印することとした。


「あ~」

「っ!」


 相手が声を発する度に過剰に驚く。

 仕方がない。封印しても記憶には確りと残っている。

 またやられて着替えやら掃除やらをするのは正直嫌だ。


 と、顔色の青い彼女がフワッと立ち上がった。


「ミキはもう……本当に恨みますからね……」

「えっ?」


 返事は無い。


 ただ柔らかくふんわりとした様子で彼女は踊る。

 本当に軽い様子で風に弄ばれる羽根の様な動きだ。


 綺麗だな……とその動きを凝視していたタインは、ピタッと止まった相手の様子にもっと早く気付くべきだった。

 踊ったことでまた胃の中が震え暴れたレシアは……一気にその顔を青から白へと変化させた。


「エロエロエロエロ……」

「うわ~! こっちに顔を向けないでっ!」


 少年の叫びも空しく……とばっちりの餌食となった。




(C) 甲斐八雲

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― 新着の感想 ―
[一言] タインくん…… かわいそうに笑
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