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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 弐章『良く染まる色』

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其の拾漆

「どういうことだ!」

「どうもこうも無い。結果が全てだよ……ザジーリーさん」


 祭りの運営を担う男の言葉に、太った男は自分の膝から下が無くなったのかと思うほどよろけて崩れ落ちた。


「大丈夫か? 誰か……誰か!」


 近くに居た村人が彼の異変に気付き近寄って来る。

 だが恰幅の良すぎる彼を一人で運ぶには荷が重すぎる。


「そんな訳がない。そんな訳がないんだ!」


 体を激しく揺らし何度も倒れながらも立ち上がった彼は、運営の男を睨んだ。


 彼は普段炭焼きをしていて村の中にはあまり居ない。

 ただ生真面目な性格から毎年祭りの運営を任される。

 投票する者が不正をしていても、彼が不正に加担することはあり得ない。


「もう一度、もう一度確認をっ!」

「はぁ……。誰か投票箱をここに」


 運ばれて来た投票箱を、納得しない商人の前で逆さにして中身をぶちまける。


 例年投票は小さく切り分けた布で行っている。舞台に立つ者表す色を事前に決めるのだ。

 今年もザジーリーは赤だ。何年もこの目立つ色を独占し続けて来た。


 だが机の上からこぼれ落ち……地面をも染める色は、目立たないからと避けがちの白だ。

 その白が圧倒的なまでに目に入る。否……投票全てが白だと言っても良い。


「これが結果だよ。誰もが"彼女"の踊りに魅了され、その着ていた衣装に票を投じた」

「嘘だ。嘘だ……」

「嘘なもんか。自分が金を撒いて票を買い集めたから絶対に勝つと確信していたのか?」

「っ!」

「……言いたくは無いが皆が知っている。この村の皆が知っている。でも俺たちはそのことを決して罪にしないように取り決めて来た。あんたのしていることは不正ではあるが、事実その金で救われている村人も居るからだ。あんたが渡した金を自分よりも生活に苦しんでいる者に渡す者も居る。この村は昔からそうして助け合って生きて来たんだ」

「……」


 机の上の白い布を手にし、運営の彼は息を吐く。


「あんた一人を悪く言う気はないよ。でもな……皆が今日、気づかされてしまった。『不正はやはり不正である』と。あの踊りを見て心が洗われたんだ。染めた糸を丁寧に洗うかのようなあの踊りにな」


 パンと自分の足を叩き、彼は立ち上がると……目の前で今にも失神しそうな商人を見た。


 長い付き合いだし色々と恩もある。

 だからと言って全てを許してしまうのは決して正しいことではない。


「ザジーリー。祭りの運営責任者として、お前の不正行為はとても許せる物ではない。金輪際の祭りへの参加を禁ずる」

「そんな……」

「運営を担う者たちの総意だ。金を受け取った者たちにはお前へ返金する様に伝えておく……以上だ」

「……」


 呆然と一気に老け込んだ商人は、辺りを見渡し自分の味方が居ないことを知ると……フラフラと歩き出した。


 その後ろ姿を見る限り村人全員が気の毒としか思えない。だがやはり罪は罪だ。

 彼一人に罪を背負わせる形となってしまったが……この村の基本は『助け合い』だ。

 誰ともなく商人に対してどうにか支援が出来ないかとその心の内で考えていた。


「ああ……そうだ」

「ん?」


 力無く振り返った商人に男は視線を向ける。


「優勝したのは?」

「タハイの所のホシュミだよ」

「そうか……タハイか……」


 力無く笑い止めた足をまた動かし、ザジーリーはギリッと奥歯を強く噛み締めた。


『許せない』


 その強い思いが彼の心を支配する。

 どんなに頼んでも手伝ってくれず、最後には自分から全てを持って行ったあの男が……


「許せんよ……もう」


 どす黒い思いは声になって溢れ出ていた。




 ピクッと反応してレシアが祭り会場の方を見た。


「話の途中でその態度は何だ?」

「ふにゃ~! ちょっと嫌な空気が見えたんで」

「どこかで俺の様に馬鹿者を叱っている者が居るんだろう」


 相手の頭に手を置き、顔の向きを自分へと動かしてミキは睨みつける。

 尻尾でもあれば丸め込んで抱え込みそうなほど震え上がった彼女が、泣きだしそうな表情を見せた。


「お前はもう少し慎みを持て」

「はい」

「調子に乗ってあんなことをして」

「でも……今日は良く踊れたんですよ?」

「良く踊れたら何をしても良いのか?」

「……ダメです」


 シュンと気落ちしてレシアはますます小さくなる。

 周りではタハイの所で働く者や親しい村人、出入りを求める商人などが振る舞われた酒を手にして騒いでいる。騒いでいるが……ミキの気配を察して説教を止める者は誰も居ない。


「お前はいつも最後に調子に乗って失敗する。最後に失敗すれば結局すべて失敗するのと同じことにもなるんだぞ?」

「はい」


 話が長そうとみて逃げ出した七色の球体が、丸々とした鳥の丸焼きを飲み込む様に食べている。

 その羨まし過ぎる共食いの様子をレシアは恨めしそうに見つめた。


「良いかレシア?」

「ミキ!」

「ん?」

「怒るなら後でたっぷり聞きます。でも今はご飯を食べさせてください!」

「……」

「お腹ペコペコなんです。我慢の限界です。じゃ!」


 鳥が舞うかの如き身のこなしで、彼女は逃げ出した。

 余りの動きに止められなかったミキは呆れ顔のまま頭を掻いた。


「説教は終わったのかい?」

「まだです」

「あはは。まあ若いから仕方ないさね。でも人前であんな激しく口づけなんて」

「はわわ~。言わないで下さい! またミキが怒りだしますから!」


 一瞬で人の輪に溶け込んだ彼女が……踊るように食料を確保し食べ出した。




(C) 甲斐八雲

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