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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 弐章『良く染まる色』

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其の拾参

 難しい顔をして意外なほど静かなレシアを見つめ、ミキは不思議に思う。

 普段の彼女なら祭り当日のこの空気を受け、浮かれまくって問題を起こすはずなのだが……今日はどこか不機嫌そうだ。


「どうかしたのか?」

「む~」


 眉間に皺を寄せて彼女は渋い表情を見せて来る。


「ミキ」

「ん?」

「……食べ物屋さんがほとんどありません」


 余りにも素直で包み隠さないその言葉に、とりあえず相手の額に手刀を振り下ろしておく。


「ホシュミの言葉を聞いてなかったろう? 日中は呼び寄せた商人たちに布の出来を披露する場だと。本来の祭りは日が沈んでからだ」

「つまり美味しい食べ物は日が沈んでからですねっ!」

「……」


 呆れてため息しか出ないが、ようやく納得したのかレシアが一気に元気を取り戻した。

 ならば楽しもうと走り出そうとした彼女であったが……数歩足を動かして止まった。


「なら私は……日没まで何をして過ごせば良いのですか?」

「食べることだけが祭りの楽しみ方では無いと思うんだがな」


 その言葉に応じる様に、彼の頭の上で七色の球体が呆れたように『コケ~』と鳴いた。




「うわ~。これは綺麗です」

「お目が高い。それは今年出来た新しい色で」

「でもこの辺りの色にむらがあります」

「……」

「こっちは色は良いんですけど編みが少し雑です」


 レシアが次々と指摘して行くように確かに品質が良くない。

 なら色の付いていない物をと覗いて見れば……白にこだわるシャーマンの目はもっと厳しくなる。

 結果として彼女のお目に適う商品は無かった。


「おかしいですね」

「ん?」

「前にあのお店に来た時は良い物があったんですけど」

「ああ。それは全部タハイの物だよ」

「はい?」

「お前が選んだ布は全部彼らが作った布だ。ホシュミが一目見て『お買い上げありがとうございます』って笑いながら言ってたぞ」

「ん~。ならここで売ってるのは?」

「エルンシーズから仕入れた道具で作った布だろうな」


 定位置とばかりに彼の左腕に抱き付いているレシアは、不思議そうな目を向けて来る。


「道具で作った布を見せて商人たちの感触を探ろうとしたんだろう」

「でも」

「ああ。失敗だ。お前が品定めした通り質が悪すぎる。目の肥えた商人からすれば、買うに値しない商品と判断している様子だな」


 彼の言葉が示す通り、祭りの為に作られた屋台のどれも閑古鳥が鳴いている。


「何だか怖いですね」

「そうだな。でもここで商品を仕入れる商人たちも、商売である以上ふざけた物は買えない。高品質の布を仕入れに来た彼らからすれば……この結果は当然だろう」

「なら道具を使った方法って失敗なんですか?」


 難しい問いだ。ただ何も答えを見いだせないのは、前の彼の人生ではあり得ない。

 故に考える。自分ならどうするのかを。


「このままなら失敗だな。だから俺なら……まず商人たちに声をかけて布を作る道具の方を見せる」

「道具の方ですか?」

「ああ。まず道具を見せて、現在作れる糸や布を見せる」

「でも質が悪いですよ?」

「その通りだ。でも今は質が悪くともこれからの可能性を売り込む。出来ることなら質が良くなっていく過程を見せられればもっと良い。成長している様子を理解させて、商人たちから見限られる事態を避ける。直ぐに良くなるとは思わないが……ゆっくりと質を上げていけば必ず売れるはずだ」


 だがザジーリーなる商人は答えを、結果を急ぎ過ぎている。


 どの屋台でも『質が悪いのでは?』と聞けば、決まった答えが返って来る。『今年はちょっと……』や『材料に難があって……』などの言い訳だ。

 そんな不安を煽る様な返事を聞いて商人たちは彼らを信じられるか?


「たぶんこのままでは、ザジーリーとか言う商人は破産するだろうな」

「……」

「商売は難しいよ。だから興味はあっても商人で食っていこうとは思わん」

「そうですね」


 二人で村の様子を見て回り、中央を流れる川を渡る。

 タハイたちが住む方は……商人たちが多く居た。


「これがある意味、この村の答えなのだろうな」

「ですね。でも私はタハイさんたちの布の方がやっぱり良いです」

「どうして?」

「ミキはあれです。ちゃんと布を見てますか?」


 彼の腕から離れてクルッと回ったレシアは、自分の手首に巻かれている真新しい白い布を天に掲げる。


「布に、糸に……作り手の思いが詰まっているんです。だからこの布は綺麗なんです」

「……」


 クルクルと回る彼女の頭に向かい、七色の球体が飛んで止まる。

 先日あれほど目を回したというのに……余程その場所が気に入っているのだろう。


 彼女が手首に巻く白い布は、タハイたちが作った"特に良く出来た"物の一部だ。大半は娘の結婚式に着るドレスに使われた。

 そう考えればどれほどの思いが込められているか分からない。


 父親にはなれなかった彼としては……自分には未知の感情に他ならない。


「レシア?」

「は~い」

「そろそろ支度に向かえ」

「何も食べられないじゃないですか!」

「タインに頼んで何か買っておいて貰うよ。だからさっさと行って来い」

「……絶対ですよ。ちゃんと頼んで下さいね」


 ブ~ブ~言いながらも彼女はホシュミの元へと向かう。

 それを見送ったミキは……目に入った人物が気になり後を追った。




(C) 甲斐八雲

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