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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 弐章『良く染まる色』

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其の拾弐

「……」

「何か見えますか?」

「いや……この村ってこの川を境に二つに分かれているなって」


 最近タインに懐かれ、出かける度に付いて来る。

 邪険にするのは可哀想なので、ミキは鍛練と称して彼に荷物持ちを押し付ける。

 実際人かから何かを学ぼうと考えているなら、近くでつぶさに見て拾っていくことこそが大切だ。

 ただ彼は話すことの方に楽しみを覚えているのか、技術を盗む様子は微塵もない。


 そんな二人が足を止めたのは、村の中心を流れる川にかかる橋の上だ。


 上流を見て右手と左手とでこの村は様子が違う。

 右手は発展しようと遮二無二新しい物を取り込んでいる。

 左手はそのままの暮らしを貫こうと静まり返った雰囲気がある。


「右手は商人の村で、左手は職人の村と……完全に分かれた感じだな」

「そうですね」

「いつからこんな風になったんだ?」

「……生まれる前からだと」

「そうか。なら答えようが無いな」


 頭を撫でてやりミキは止めていた足を動かす。


 たぶんこの村は二つに分かれた頃から互いに進むべき道を違えたのだろう。

 それは決して悪いことでは無い。でも良いこととも言い切れない。

 二つに分かれ切磋琢磨をし互いに成長し合えれば良いのだが……。


(難しいな。この村は互いにいがみ合い始めている)


 大人がその様な態度を見せるから子供が真似をする。


「なあタイン」

「はい」

「お前は……タハイの後を継いで布を作れ」

「どうしてですか?」

「……子供は親の背中を見て育つものだからだよ」


 苦笑染みたものを浮かべミキは前を向いた。




「ん~」


 クルクルと回るように体を動かすレシアを、周りの者たちが気づくと足を止めて見つめる。

『さっきも通った時……あんな風に回っていたような?』と思いながら、偶然だろうと仕事へ戻る。


 事実レシアはずっと回っていた。

 唯一彼女がずっと回っていることを体感している頭の上のレジックが、グルグルと目を回して今にも落ちてしまいそうだが。


 最近ことあるごとに彼が『頭を使え』と言って来る。

 彼女とすれば普段から何も考えていない訳ではない。少しは考えている。

 今だって……今日の夕飯は何だろうと考えている。


 彼が求めている答えが難し過ぎるのだ。

 昔は……物心ついた頃には、考えると言えばこの程度のことだ。


「ん~」


 足の動きが軽い。


 馬車での移動が終わり、徒歩になってから調子が良い。

 やはり旅は徒歩が良い。馬車は楽だけど体を動かせない。


 ここに来てからは毎日いっぱい踊っているから、背中やお腹に感じていたぷにっとしたお肉の感触はだいぶ無くなった。

 絶対に痩せたはずだ。これなら彼にも悪く言われない。


「ん~。これでミキもあれなんです」

「俺がどうしたって?」

「ふに?」


 背後から抱きしめられてレシアは動きを止めた。

 ふわ~っと宙を浮いて落ちて行く七色の球体を片手で受け止め、ミキは自分の頭の上にそれを置いた。


「お前ずっと回ってたのか?」

「はい?」

「俺が買い物に行く前から回っていたような……」

「あれれ? そんなに回ってましたか?」


 そう言われたらそんな気もして来る。不思議と思い始めると目が回って来る。


「はにゃ~。ミキ……一気に目がグルグルとしてきました」

「遅すぎるだろう?」

「ダメです。足に力が」


 ガクッと膝から崩れる彼女が彼の腕に引っかかって止まる。

 背後から回していた腕に胸がつかえたのだ。


「……胸だけは確実に太ったな」

「ふにゃ~んっ!」


 イラッとして暴れるが、相手の腕が離れると倒れてしまうことは分かっている。

 だからレシアは彼に抱き付いてから暴れる。


「無駄に器用だ」

「ミキは本当に意地悪です」




「はわ~」

「で、誰が意地悪だって?」

「ミキ……大好きです」


 首に抱き付き長々とキスをして、レシアは彼が買って来た物を手にした。

 それは花だ。まだ蕾の状態で、明日には咲きそうな切り花だ。

 胸に抱いた花を鼻を寄せて楽しむ彼女は上機嫌だ。


 やれやれと肩を竦めて床に座った彼は、壁にかけられた衣装を見つめる。

 明日の祭りの為に夜を徹して作られたその服はどうにか完成した。


 で、夜を徹して作業し続けていたホシュミは……床の上に伸びて寝ている。

 嫁入り前の娘が晒す姿ではない。

 気を使ったタインが姉の体に布を掛けていたが。


「それでこの花は何ですか?」

「ん? 衣装には作った花を飾るのだろう? なら頭には本物の花でもと思ってな」

「良いです! それで良いです!」


 嬉しそうに床を転がる。

 良く抱き締めている花が潰れない物だと、ミキは変な方向で感心した。


「この花で冠を作って頭にかぶれば良いんですね! 流石ミキです!」

「そうだな」


 ただ冠にするには茎が太い気がする。


「なあレシア?」

「は~い」

「明日の祭りなんだけど……今の全力を見せてくれよな」

「……」


 動きを止めた彼女はジッと相手の顔を見る。

 隙なく僅かに視線をずらされるので心の中までは覗けない。


「良いですよ。でも私の本気を見たら……ミキはますます私のことを好きになっちゃうかもしれないですね」

「それは無いから心配するな」

「む~! ミキは素直じゃ無いです~」


 拗ねる彼女に笑みを見せ、彼は胸の中で息を吐く。

 これ以上彼女に惚れようなど無いのだがな……と、その本音は胸の内に隠しておく。




(C) 甲斐八雲

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