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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 弐章『良く染まる色』
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其の伍

「ああ。もう私ったら……済みません済みません」

「いえこっちは何も無かったんで。ところでそちらの方は?」

「ええ。気にしないで下さい。うちのおや……おほんっ。うちの父親は頑丈なのが取り柄なんで。それと石頭なのも」


 頭を抱えて地面を転がり続けているタハイだが、娘が言うには大丈夫らしい。


「それでうちのタインを連れて来てくれたのですね。本当にありがとうございます」

「いえ。本当に気まぐれだったんで」

「気まぐれでも助かります。あの子ったら……川の向こうには行くなっていつも言ってるんですけどね」


 姉の登場で父親の拘束から逃れた弟は逃げ出していた。

 たぶん姉に会いたくなかったのだろう。


「ところでそちらの……」

「ああ。ミキだ」

「ミキさんですか……私はホシュミです。失礼ですがミキさんの服が」

「気にしないで良い。どうせボロだしな」

「でもその……血が」

「洗えば落ちるだろう」


 タインを背負い歩いて来ている間に、少年の血が服のあちらこちらに付着していた。

 確かに洗えば落ちるかもしれないが……出来れば全て入れ替えてしまいたい。


「服を探して居たんだが、ちょうど店に無くてな。まあ次の」

「服! 服ですかっ!」

「……ああ」

「服ならありますっ! もうこれでもかってくらいにっ!」

「そうか」


 突然火が灯ったかの様子で彼女が活気づいた。


 余りの剣幕に軽く引き気味なミキだが、ホシュミと名乗った女性は何故かレシアの手を掴んだ。


「こんな綺麗な素材……ちょっと着せてみたい服があるんですっ!」

「へっ?」


 必死に作業場を覗き込もうとしてレシアからすれば、完全な不意打ちだった。

 全くと言って良いほど話を聞いていなかったし、何より服を求めていたのは自分では無くて……


「ちょっと来てください。絶対に似合うはずですからっ!」

「あうっ! ミキ~」

「……」


 圧倒的な力で引き摺られて行く彼女を……ミキは仕方なく追いかけた。




「ふあ~」

「やっぱりだ。ああ……もしかしたらこっちの方が良いのかもっ!」


 着せ替え人形宜しく、レシアは色々な服を着せられていた。

 どれもが色鮮やかで美しい物ばかりだが……それを何となく見ているミキからすると物足りない。


「……」


 とは言え、ミキには服に関しては語れるほどの知識も無い。

 よって彼は口を開きかけては閉じるを繰り返していた。


「お兄さん」

「ん? タインか」


 傷の手当てを受けたらしい少年が、両手に服を持ってやって来た。


「こっちは男の人の服。お姉ちゃんは余り作らないから種類は無いけど」

「全部作っているのか? 一人で?」

「うん。完全に趣味だけど」


 趣味にしては数が多過ぎる。

 ただ布と糸に関しては売るほどあるから心配は要らないのだろう。


 受け取った服を広げて一つずつ確認する。

 どれも地味な感じの作りだ。ただ縫いなどが確りしているから使いでは良さそうに見える。


「好きなの持って行って良いよ」

「良いのか?」

「うん。父さんも持って行って貰えって」

「……溜まり過ぎて困っているのか?」

「……うん」


 ちょこんと隣に座る少年の頭を撫でてやり、ミキは適当に何枚か見繕った。

 何か不都合があればレシアに手直しさせれば良いとの考えからだ。


「やっぱりこっちも良い。でもちょっと……何だろう?」

「……」


 普段は自作の服しか着ない割には、満更でも無い表情でレシアが軽く体を揺すっている。

 こう見ている分にはやはり年頃の娘なのかもしれない。


「なあ? 少し良いか?」

「何でしょうか?」

「こっちから見てて思ったんだが……さっきから何かが物足らなく見えるんだ」

「やっぱりですか? どれも悪く無いんですけど、何か足らない気がするんですよね」


 ホシュミも気づいていたのか数歩離れて全体的に見る。

 爪先から頭の上まで見つめ……ふとそれに気づいた。


「頭の上のって何ですか?」

「……その装飾か。今日はやけに静かだからすっかり忘れてた」


 自然とレシアの頭の上に居る七色の球体。


 そっと手を伸ばして捕まえたレシアが、トトトッと軽い足取りでミキに近づき手渡す。


「あ~。何かこう……いきなり目に入る色が減って落ち着いた感じが出て来た」

「こうなると今着ている服は色が足らないか?」

「そうですよね! こうなったらいつの日にか発表しようと温め続けて来たあれを出す時っ! ちょっと待ってて。たぶんその辺に埋まっているはずだからっ!」


 山と積まれた服を引っ繰り返し始める彼女に……ミキは自分の隣を見た。


「お前のお姉さんって……いつもあんな風なのか?」

「今日はまだ静かな方です」

「そっか。大変だな」


 タインに対する同情心がミキの中から溢れて止まらなくなった。




「これよっ! 現状最も似合う服はこれっ!」

「……どうですかミキ?」

「そこまでするなら化粧までさせたくなるな」

「ああ良いっ! それ本当に良いっ!」


 現状の最高点に通達したレシアは、少し恥ずかしそうに丈の短いスカートを上から押さえた。


「それと手足の赤みも印象悪いな。レシア。行って白くして来い」

「無理言わないで下さいっ! 二、三日もすれば治ります」

「そうよね? なら二、三日でもう一着作るからそれを着て見せてっ!」

「はい?」

「お願い。今度のお祭りで発表する作品にしたいのっ!」


 両手を顔の前で合わせてお願いして来る彼女の様子に……レシアは困惑した。




(C) 甲斐八雲

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