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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 弐章『良く染まる色』

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其の参

「はびび。あび。びびび」

「……」


 手足と顔を真っ赤にさせたレシアが、ベッドの上で奇怪な動きを見せている。


 女たちが『若いし惚れ惚れとするくらい綺麗な肌ね~』と言いながら、笑えないくらいに真顔で磨き続けてくれたおかげでどうにか染料は取れた。

 ただ髪の先端の方だけはなかなか取れず、仕方なく染料の付いているところを切った。

 全体的に少しだけ縮んでしまったが、それでも伸ばしっぱなしだった髪が整い綺麗に見える。


「ミ……ミキ~」

「どうした?」

「もうダメです。私もうダメです」

「そうか。なら仕方ない。今夜の夕飯は羊肉らしいが……俺一人で」

「ふぉ~っ! 頑張れ私っ!」


 起き上がった。唇を噛み締めポロポロと涙を流しつつも。


「食い意地だけで生きてるな?」

「……」

「ほら。もう少し頑張れ」

「はい」


 ベッドの横で背を向けてくれる彼に、レシアはジンジンと痛む手足をどうにか動かして抱き付いた。


「あぶぶ。揺らすのはダメです」

「はいはい」

「……ミキ?」

「ん?」

「……何でも無いです」


 ギュッと抱き付いて……彼女は痛みに目を回した。




「服ですか?」

「ああ。良い店は無いか?」

「ありますよ」


 宿屋で下働きをしている女の言葉に、ミキは少なからず驚いた。


 失礼な言い方になるが、この様な田舎の大きな村でしかないこの場所に服を扱う店があるとは思わなかった。

 普通の村なら布を買って来て、一家の家事を預かる者が作ったりする程度の代物だ。


「旅のお客さんは知らないでしょうが、この村の特産は染めた布なんです。だから布の出来栄えを見せるために服なども作ってるんですよ」

「ああ。なるほどな」

「本来売り物では無いのですが、不要になった服は処分します。それを纏めて買って手直しして使うのがこの村の常識ですよ」


 掃除の手を休めて話に乗ってくれた彼女に一礼し、ミキは借りている部屋へと戻った。


「どうだレシア?」

「昨日よりは……あびび。だいぶ良いです」


 痛みを隠せない動きを見せるレシアに彼もため息しか出ない。


 何の強がりなのか?


 傍まで歩み寄り背を向けてしゃがんでやる。

 少し躊躇を見せたが、レシアは素直に背負われた。


「重く無いですか?」

「……出会った頃の方が軽かったな」

「むきぃ~っ!」

「でもあの頃のお前は、日の食事も一回とかだったんだろう?」

「はい」

「なら痩せすぎていたのかもな。昨日見た限り……そんなに太っている様には見えなかったからな」

「……」


 グイグイと首に回した腕を動かす意味は、照れ隠しか何かだろう。


 そのまま相手を背負い教えて貰った店に出向いたが、どうやら服の方は入れ替えの時期を終えたらしく残ってはいなかった。


「残念です」

「そうだな……最悪布だけ買ってお前に作らせるか?」

「良いですよ! ミキによく合う服を作りますっ!」

「ちなみに色は?」

「それはもう……色々な色をこんな風に混ぜって」

「そんな服はお前の頭の上の住人に作ってやれ」


 寝ているのか、レシアの頭の上に球体は微動だにしない。

 七色の羽根を持つ……本来は"美しい"と形容される鳥のはずだ。


「む~。絶対に綺麗なのに」

「はいはい」


 商店を出た二人が向かっているのは布を扱っている店だ。


 この村……ソルシーアを含め、辺りの布を一手に扱っている商店"ザジーリー"と言う。

 そこに無い色の布はこの大陸には存在しないとさえ豪語する品ぞろえらしい。


「いっぱいの布を見れるのは楽しみです」

「そうだな」


 好奇心で生きている節のあるレシアは、その体を彼の背中に押し付けて素直に喜んでいる。

 少々はしたないが、彼女の両手両足を思えば致し方ない。


 説明された場所に商店はあった。


 他の建物が丸太や土壁が多い中、確りとした石壁の建物だ。

 場違いと言えばそういう風にも見えるが、繁盛しているのであろう様子は出入りしている行商人の数からも分かる。


「お客さん……いっぱいですね」

「ああ。俺たちはマルトーロの方から来たから気づかなかったが、反対のエルンシーズからは結構来ているんだな」


 その証拠に店の位置も北寄りだ。

 北にあるエルンシーズに寄っている様子が伺えた。


「まあ布をわざわざ東部に運ぶことは無いな」

「そうなんですか?」

「東部だって布ぐらいは作っている。きっとここの布は買われてエルンシーズで加工されて商品として売られて行くんだろう」

「へぇ~」

「理解してるか?」

「少しだけなら」


 少しでも分かってくれたのなら成長の表れだ。


 流石にレシアを背負ったまま店内に入るのは抵抗があるので、ミキは彼女を降ろして腕を組んで入店した。

 店の者は行商人とのやり取りが忙しいのか、ミキたちが入って来ても値踏みするような目を向けて来ただけで挨拶すら無い。


「感じが悪いです」

「忙しい時間なんだろ」


 見え過ぎるレシアの不満を受け流しつつ、二人は小口向けの布売り場へと向かった。


「ふわ~っ!」

「凄いな」


 各種珍しい色の布すら存在する売り場で、二人は息を飲んだ。


 確かにこれは……村の者たちの言葉が言い過ぎでは無かったと認めるしかない。

 そう思うほど豊富な色が存在している。


「ミキ。待っててくださいね。大丈夫です。ちょっと全部見るだけですから」


 当然好奇心の塊であるレシアの心に火が点いた。




(C) 甲斐八雲

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