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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 壱章『圧倒的な存在』
201/478

其の拾玖

「ミキ?」

「……終わったよ」

「ミキ~っ!」

「うおっ」


 立ち上がろうとしたところを、飛び込んで来た彼女を正面から受け止めることとなった。


 ズズズと地面に背中や腰を滑らせその痛みに顔を歪めつつも……全力で甘えて来る相手の様子についミキの頬が緩む。


「全く。少しはっ」


 抱き締めた彼女越しに見えたのは、眉間から出血させながらもまだ動く相手だった。


 必死に……震える手で握った刀を振り上げ、目掛けて振り下ろす相手は間違いなくレシアだ。

 それに気づいたミキは彼女を抱きし大きく横に振った。


「最後の詰めが甘いわ。でも事切れてるから……ギリギリ合格ね」


 聞きなれたクスクスと響く笑い声。

 大きく息を吐いて顔だけを向けたミキは、少女の頭を掴み立って居る女性の姿を見た。


 今夜も服など身に付けていない豪快なまでの全裸姿だ。

 野性味溢れるその姿は、街を歩けば男たちが放っておけない雰囲気すら漂わせている。

 美人であるのは間違いない。それでもミキとしては触りたくない相手だ。


 少女の腕と眉間から刀を引き抜き地面に刺した彼女は、くいっと顎を動かす。

 すると掴んでいたはずの少女の姿が消えた。


「遺体は何処へ?」

「……私たちはどんなに敵対しても仲間を大切にして思いやるの。だから野ざらしにはしておけない。先祖代々が眠る地に連れて行くわ」

「そうか。でも少し待ってくれ」

「何故?」

「俺が殺した者は……全てレシアが鎮魂する約束なんだ」

「……そう。シャーマンの約束は大切だものね」


 優しげに笑う彼女は、ミキが抱き締めて少女の姿を見て何故か怪訝な表情を見せる。


「どうして彼女が胸を出して貴方に抱き付いているのか聞いても良い? 殺し合いをして興奮でもしたの?」

「にゃ~っ!」


 慌てた様子で服を正すレシアを見て、女性は呆れた様子で苦笑する。

 晒していたことに気づいていなかったのだと察したのだ。


 本当に能天気なほど自由に生きている。

 思い詰めて……いつも泣きそうな表情しか見せなかった"あの(ひと)"とは違って。


 服を正して立ち上がったレシアは、パンパンとまだ真っ赤な頬を叩いて気合を入れ直す。

 と、フヨフヨと飛んで来た七色の球体が彼女の頭の上に止まった。まるで特等席だと言わんばかりにだ。


「貴女たちも邪魔にならないところで見てなさい。とても貴重な"白"の舞よ」


 女性の声に反応して、辺りに人と獣が姿を現す。


 ミキはやれやれと肩を竦めながら、地面に突き刺さる刀を抜いて鞘に納めた。


「レシア」

「は~い」

「今夜は今のお前の"本気"を見せてみろ。つまらない踊りだったらその尻が真っ赤になるまで叩くぞ」

「にゃ~んっ! お尻はダメですっ!」

「なら胸にするか?」

「こっちはもっとダメですっ! もうミキは……良いですよ。だったら私の踊りが良かったら、うんと褒めて頭を撫でて下さいね!」

「ああ。それに抱き締めて寝てやるよ」

「……今ならどんな無理でも出来そうです」


 ハッキリと分かるくらい気合の入った彼女は、跳ねる様に歩き石の少ない場所で止まる。


 最近は馬車移動の日々だったのもあって、足の動きが多少なりと硬い気がする。

 だったら今夜は目一杯足を動かそうと決め……レシアの舞が始まった。


 体全体を大きく動かし、まるで跳ねるようにその足を動かす。

 地球における"バレエダンス"を彷彿とさせる動きの激しく、そして柔軟な踊りだ。


 何より今日の彼女は大きくて丸い月を背負っている。

 昔から不思議なことに"満月"と呼ばれる夜は、とにかく絶好調なのだ。

 本当に今ならどんな無理でも出来そうだ。


 気分良く全身を動かし舞い踊ったレシアは……その動きをゆっくりと止めた。




「どうだ?」

「凄いわ。他の者たちは身動き一つしないで見入っている」

「ああ。でもアイツはあれでもまだまだだ」

「……もっと凄いの?」

「いや。そう言って更なる高みを目指させているのさ」

「うふふ。酷い人ね」


 楽しげに笑う女性は、まだ踊りの余韻に浸っている少女に目をやる。

 全身から噴き出している汗すらも今の彼女にすれば装飾の一つにすら見える。


 本当に美しくて綺麗な舞だった。ただやはり何処か彼女の"母親"に似た部分を感じる。

 手先の柔らかな動きなどは特にその印象が強かった。


「話に聞く限りだと……たぶん"初代"と呼ばれる人くらい踊れているはずよ。私は見たことは無いけれど」

「そうか。……ところでお前は幾つなんだ?」

「女に齢を聴くものじゃないわ」


 見た限りは二十代中頃に見えるが……と、彼の視線に気づいた女性は、わざとらしく自分の胸を強調する様に腕を組んだ。


「この体を見れば分かるでしょう?」

「意外と若作りで苦労しているんだっ」

「……次、同じことを言ったらその喉を圧し折るわ」


 ガシッとミキの喉を掴んで、女性は柔らかい笑みを浮かべつつもハッキリとした口調で脅した。

 やれやれと肩を竦める彼を見て一応許し、軽く手を挙げてようやく我に返った仲間たちを退かせる。


「ミキ~。どうでした? 凄く良く、はにゃ~」

「ん~。汗でベタベタね。こんな汚いのは許せないわ」

「ちょっ! いやぁ~っ! 助けてくださいミキ~っ!」

「終わったら連れて来てくれ。俺は先に戻る」

「ミキ~っ! この薄情者~っ!」


 レシアが『薄情』なんて言葉を知っていることに、彼は珍しく驚きながら帰って行った。




(C) 甲斐八雲

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