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異世界剣豪伝 ~目指す頂の彼方へ~  作者: 甲斐 八雲
北部編 壱章『圧倒的な存在』
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其の拾参

「兄ちゃん。今日の荷物は……大変だな」

「気にしないでくれ」

「……」


 背中に張り付いているレシアに呆れつつも、ミキは彼女を背負って歩いていた。


 昨夜のことを覗き見していたレシアの怒りが一向に冷めないのだ。

 食べ物で釣っても怒り続けている。謝っても言い訳をしても意味を成さない。

 こうなったら相手の気が済むまで好きにさせておくしかない。


 結果として……今朝から抱き付いて離れない彼女を背負い続ける羽目になった。


「レシア」

「がるる」

「足は痛くないか?」

「がる……平気です」

「なら良い」


 背負われ続けている彼女のことを気にしながら、ミキは何気に良い鍛錬だなと思い始めていた。


 普段背負っている物と違い、動きに乗じて彼女の重心が変化する。

 その変化がミキの足への負担となって、普段の荷物よりもより一層きつくなっていた。


「なあレシア」

「がるる」

「毎日とは言わないが、今後もこうして背負わせてくれないか?」

「……こうですか?」

「ああ。足腰の鍛錬に丁度良い」

「がるるるるる」


 暴れて何故か首に噛みつかれた。

 言葉を間違えたかと思ったが、まあ相手は気分で生きている生き物だ。

 何より一番の問題は、


「レシア」

「ぐるる」

「太ったな。特に胸が」

「うがぁぁぁああああ!」


 全力で首を絞められ、二人して地面を転がる羽目になった。




「途中色々とありましたが本当にありがとうございました」

「いえ。こちらこそ」


 隊商の商人代表からお礼の言葉と報酬を受け取り、ミキは護衛の仕事を終えた。


 今回は大トカゲの襲撃もあり荷の方にも痛みや破損など出てしまったが、それでも八割程度の荷が無事だったので商人たちからすれば御の字らしい。

 隊商の運行責任者は壊れた荷馬車や馬の補充などで奔走しているせいか姿を見なかったが。


 顔馴染みとなった護衛や商人と軽く手を挙げ別れを済ませると、レシアの元へと向かう。

 彼女は荷物の番をしながら石に座り、両手いっぱいの串肉を頬張っていた。


「その肉はどうした?」

「んぐっ……皆さんが持って来てくれました」

「踊りのお礼か……ちゃんと礼ぐらい言っただろうな?」

「私だってそれぐらい出来ますから」


 えっへんと偉そうに胸を張った彼女は、ふと視線を胸に向けてそそくさと身を丸める。

『胸が太った』と言われてからどこか気にしている様子だ。


 だったら食べる量を減らせば良いのだが、ずっと馬車移動の日々だったから生じた運動不足も明日から改善されるはずだ。


「ミキ~」

「ん」

「ところでこれからどうするんですか?」

「今日は何処か宿を取ってベッドで寝よう」

「……贅沢しても良いですか?」

「ん?」

「お湯を浴びたいです」

「風呂はあるかどうか分らんな。でも湯なら買えるだろうから宿を決めたら頼もう」

「ありがとうございます」


 満面の笑みで残った肉を一気に処理して、レシアはぴょんと石から立ち上がった。


「この荷物はどうしましょうか?」

「毛皮はここで売った方が良いらしい」

「そうなんですか?」

「何でもこの国は織物とか盛んなんで売れるらしい。あとの物はこれから行く国々の方が高く売れるそうだ」

「でも一番の荷物が売れるなら良いですね」


 束にしてある毛皮は結構な重量だ。

 あとの荷物は二人の背負い袋に収まるが、毛皮だけは二人して抱えてどうにか運べるぐらいの量だ。


「ロバを手放したのが痛いな」

「また買いますか?」

「……出来たら南部に向かう時が良いな。この先は生き物を連れて行くには色々と厄介だ」

「この子は?」

「そんな装飾忘れとけ」


 レシアの頭の上で七色の球体が怒った様子で羽を広げているが所詮小さな球体だ。

 怒っていても滑稽な動きにしか見えない。


 プンスカ怒る球体を無視して、二人は荷物を抱えると街の中へと入った。

 草のマルトーロの東部最大の街、"カタルセン"

 カルタクムなどの街とは違い石や木材で作られた建物が並ぶ交易都市だ。


「この国って街の名前が似てますね」

「ああ。何でも古い現地の言葉で『一番目の』とか『二番目の』とかって言う意味らしい」

「順番なんですか?」

「だそうだ。ほら前の街も天幕だったろ? あんな感じで簡単に街が作られるから番号の方が楽だったんだろうな」

「納得です」


 聞きかじった雑学を披露しながら、ミキたちは隊商の商人から聞いた店に行き毛皮を売り払った。

 その道に精通していないので良く分からないが、持って来た毛皮はどれも上物らしく……思いの外高額の買い取りとなった。


「行く先々で儲けてばかりだな」

「そうなんですか? 結構使っている印象はありますけど」

「使っても減らずに増えている。旅って言う物は普通散財する物なんだがな」


 まあ金運が居座ってくれているならそれに甘えておくに限る。

 ミキはそれからいくつか売れそうな小物を購入してから商人協会の建物へと向かった。


 持ち歩くには多過ぎる金額なのもあるが、情報は常に商人が握っている物だからだ。

 それでも拾えた話はそう多くは無かった。東部の話は今更だから聞かなかったが、唯一気掛かりなのは西部で小競り合い程度だが……戦いが起きていると言う話だった。




(C) 甲斐八雲

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