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9.決意

 ローブの男と死体(暫定)の関係性が分からない以上なるべく公平に話を聞くべきだと思っていた。『精神支配』をかけたのもローブの男をどうこうするつもりではなくここが何処なのか、ローブ男は何者なのか、死体(暫定)は彼らの知り合いなのか。そういった情報を入手するためにかけたものだったのだ。

 ローブの男から聞き出した情報によると、彼は神官―邪教でないことを祈る―で、ここは人里はなれた洞窟で何故人里から離れているかというと動物が一切寄り付かない場所であるせいで、なぜ人はおろか動物さえも寄り付かないかと言うと恐ろしい化け物が封印されているせいでその化け物は封印されて休眠状態にあるにもかかわらず回りに瘴気のようなものを撒き散らしていて―神官たちは圧力(プレッシャー)と呼んでいた―、彼ら神官たちはその瘴気に抗える魔力と経験を持ったものたちであり彼らはその化け物を自分達で御するためにこの洞窟に住み着いており、最近ようやっと化け物を操るすべを見つけ出したのでそのための準備をまさにしていたところだった。ということであるらしい。

 そしてその化け物を操るために必要だったのがこの死体(暫定)で、死体(暫定)が逃げだしてしまったためその化け物を操るための儀式が中断していた、ということだ。

 ちなみに死体(暫定)が何のために必要だったのかというと魂を書き換えるだの、化け物と融合させるだの持って回った長ったらしい言い方をされたがつまり生贄にするつもりだったらしい。


 「それは私も承知の上でのことだったのか?」

 「男には儀式の内容は伝えていませんでした。精神の揺らぎが儀式の妨げになるので何も知らない状態が望ましかったのです」


 つまり騙して生贄にしようとしていたと。


 「私は何処からつれてきたのだ?」

 「私は男を何処から連れてきたのか知りません。奇妙ですが小奇麗な格好をしていたので上級奴隷だと私の同僚は言っていました」


 どうやら死体(暫定)をつれてきたのは上級神官とやらであるらしく、下級神官はまったくのノータッチのようだ。この世界の文化と技術基準がずっと不明なままであったので今まで推測の域を出なかったのだが、恐らく死体(暫定)は異世界召喚者なのだろう。異世界転生があったのだから、異世界召喚だってあったとしても不思議は無い。それに死体(暫定)の服装、繊維の漂白されたカッターシャツ、使い古された感じでもないのにダメージ加工されているジーンズ、クッションのしっかりした運動靴、そして携帯。

 可能性の問題としてこの異世界らしき世界が、私の知っている現代社会と同じような文化形式と技術を持っていた場合死体(暫定)はこの異世界の人間であるかもしれないとは思っていたのだが、目の前にいる下級神官の格好を見るかぎりどうもその可能性はなさそうだ。


 つまり彼らは異世界から誘拐してきた見ず知らずの人間を化け物の生贄にしようとしていたのである。


 「その化け物からの圧力(プレッシャー)は今もこの洞窟を覆っているのか?」

 「…いえ、今圧力(プレッシャー)は感じられません」

 「何時から消えていた?」

 「私は今まで圧力(プレッシャー)が消えていたことに気がつきませんでした。なので何時から圧力(プレッシャー)が消えていたのかは、私は答えられません」

 「最後に圧力(プレッシャー)を感じていたのは何時だ?」

 「儀式を中断した時にはまだ強い圧力(プレッシャー)を感じていました」


 私はため息をついた。今までなりを潜めていた死体(暫定)への罪悪感が胸の奥から湧き出てくる。もちろん、私が悪いわけではないことは分かってはいる。

 私が目覚めて圧力(プレッシャー)が消えたのなら私がその圧力(プレッシャー)を生み出していた本人で、私が彼らの言う化け物だ。つまり死体(暫定)の魂は私にささげられた生贄だったのだ。


 重ねて言うが、私が『精神支配』を神官にかけたのは、神官をどうこうするつもりではなく、情報が欲しかったためだ。欲しい情報が手に入りさえすれば私はこの洞窟を抜けて神官の『精神支配』を解いて開放するつもりだった(・・・)


 「私をここに連れてきたのは上級神官?」

 「はい、そうです」

 「この洞窟に貴方の仲間はどれだけいる?」

 「大体80人ぐらいです」

 「その内訳は?」

 「上級神官が13人中級神官と下級神官が大体60人下働きの奴隷が10人です」

 「上級神官は今どこにいる?」

 「昼までは儀式場にいましたが今の時間はおそらくお部屋にいらっしゃると思います」

 「…今は何時だ?」

 「私は時計を持ち合わせていないので正確な時間は不明です。外ではおそらく日が暮れた頃かと思われます」

 「私を探している人間は何人いる?」

 「中級神官と下級神官のほぼ全てが捜索にあたっています」

 「この周辺を捜している人間はどれだけいる?」

 「ここは居住区の近くなので現在ここを探索している人間は少ないと思われます」

 「…この洞窟の出口は居住区にあるのか?」

 「そうです。居住区の近くに出口があります」

 「上級神官の部屋は居住区内にあるのか?」

 「はい、居住区の一番奥に上級神官の部屋があります」


 「上級神官を一人攫ってくる事は可能か?」


 まず私は何をするか?いや何をしたいのか?もはや洞窟の外へ出ることなどどうでも良い。死体(暫定)をこんな状況に追い込んだ者、まずはそいつに会う。そして死体(暫定)を元の世界に返す方法を聞く。死体(暫定)を今生かしているのは私なので、死体(暫定)に付いて私も元の世界に返れば死体(暫定)は生きたまま元の世界に帰れる。上手くいけば死体(暫定)の家族や親しい人の元にも帰れるだろう。私も現代世界には望郷の念も無いわけではないが、しかしそうする事が私の望みではない。死体(暫定)の家族や親しい人は生きて死体(暫定)が帰ってきてくれれば喜ぶだろうがそれはもう死体(暫定)では無いのだから。私は死体(暫定)の体だけを元の世界に返したい。死体(暫定)はやはり死体だ。何時までも私が操っているわけにはいかない。私が操って生かしていても老いからは逃げられない。老いるまでも無く私に何かありさえすればそれだけで死体(暫定)は死んでしまうだろう。だからせめて元の世界で死なせてやりたい。元の世界で弔ってやりたい。それが死体(暫定)の命を捧げられて目覚めた私の唯一できる死体(暫定)への手向けだ。


 そして、報復をしよう。無事死体(暫定)を元の世界へ返すことが出来ればそのときは必ず彼らに報復をしよう。これは手向けではない。私がしたい。勝手につれてきて勝手に生贄にされた同胞への哀憐、同胞を殺されたことによる怒り。その全てを彼らにぶつけよう。なに問題は無い、だって私はソウルイーター(魂喰らい)なのだから。

 

9/24異世界召喚の部分に若干文章継ぎ足しました。

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