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73.質問

2/16『犬』が普通に喋っていたので訂正しました。

 また小動物の声が聞こえた。セラには唯の鳴き声にしか聞こえないが女はその声に耳を傾け、あまつさえ返事さえもしている。


 「そうね…オートマタの事もあったわね。あれが神官たちに取られるとまずいものね。回収にいきましょう」


 女はそういうとセラの首根っこを掴み何も無い壁の方向を向いた。


 「…?」


 いぶかしげに顔を顰める―表情はまったく変わっていないが―セラの耳にまた鳴き声、そしてそれは開いた。


 黒い楕円形の渦、そんな形状のの物が壁の一部を塗りたくっている。一瞬ミコトの円環の魔道具がするように壁に穴が開いたのかと思ったがそれにしては黒い渦はひどく真っ暗だ。

 渦の足元を見ると女の灯す指先の明りに照らされた地面とその地面を横切り唐突に黒い渦が有る。穴が開いてるだけならば地面と同じように渦の中も灯されるはずだ。


 セラが軽い恐怖を抱いていると女は躊躇せずにセラの背中を押して穴の中へ入っていく。


 そして穴の先でセラが見たものは巨大な熊の様な生き物に殴り飛ばされるミコトの姿だった。


◇◇◇

 

 聞いたところによると、アズルの母親は元々貴族の出身であったらしい。

 器量の良し悪しは貴族にとって重要な武器になるので身分の高いものは容姿が整っているものが多い。勿論金と権力があればそれだけで見目の良い妻をめとれるのであるからそれは当然とも言える。


 アズルはその貴族の母譲りの整った顔を笑みを浮かべている。しかしそれは好意的なものではなく、嘲笑と呼ばれる類いの悪意のある笑みだった。


 「獣にしては多少は賢いかと思っていたけどやっぱり獣は獣ね。

 あの忌々しい奴隷商が死んであんあたたちの主人になるのが誰?私しかいないでしょう?」


 アズルは声高にそう叫ぶ。『犬』にはアズルの言っている言葉の意味が理解できない。


 「新シイ主人?何ヲ言ッテルンダ、奴隷商ガ死ンダ今、我ラハモウ自由ノハズダ。誰カニ使役サレル必要ハ無イ!」

 「あんたこそ何を言ってるの?・・・ああ、補充形だったからまだ知らないのね。隷属印が刻まれた奴隷が、主人が死んだだけでそう簡単に自由になったりするはず無いでしょう?

 これにはね、魔力の供給が断たれた時に奴隷に疼痛を与える機能があるのよ、残念ね。自由になれなくて」


 アズルは開いた手で自分の肩の辺りを指差しながらそういった。


 「でもあんた達は、幸運よ。普通こんな辺鄙な所でそうなったら奴隷は中々新しい主人を見つけられないけどここには私がいたんだもの、私の魔力量ならあんた達ぐらい奴隷にするのは簡単だもの」


 隷属印に登録して魔力を提供するには勿論魔力が必要で、一般の人間なら奴隷を隷属させる事のができるのは精々一人ぐらいだ。

 奴隷商は属性魔法が使えるだけあって魔力量が高かった―そもそも高かったから奴隷商などしていたのだろうが―し、貴族を親に持つアズルも恐らく魔力は一般の人間より高いのだろう。


 「そんな事よりそこのあんた」


 『犬』が隷属印の知られなかった情報にショックを受けているのを横目に女はハーフエルフに話しかける。

 当のハーフエルフはアズルの持つ包丁の切っ先から視線をそらさない。

 

「他の神官達の所へ案内しなさい」


 ハーフエルフはいぶかしげに眉根を寄せた。アズルは構わず言葉を続ける。


 「あの卑しい奴隷商は派閥の神官達があんたに追い出されたとか思っていたみたいだけど私は騙されないわよ。王都の神官って言うのは其処らの町の木端神官とは格が違うのよ。あんた一人にどうかされるわけないでしょう?」


 確かにここに隠れすんでいた神官達が王都の神官達ならばその多くは貴族の出身のものが多かったはずだ。貴族は魔力が高いものが多い。魔力が高い事がそのまま力強い事と同義ではないが魔力が高ければそのぶん多彩な属性魔法が使えるし、何より位の高い神官には神術という神の奇跡を行使するすべがあるという。

 そう考えればはハーフエルフ一人に彼らがどうにかされたと考えるのは難しく、ハーフエルフが神官たちの手先として動いていると考える方が容易いだろう。


 しかし、ここにはもう彼らはいない。アズルには分からなくても『犬』にはわかる。


 それだけここには人の死の匂いが漂っている。「犬」はちらりと傍らにたつハーフエルフに視線を送る。ひょろりとした体躯に一見無害そうな顔。それをこの男がしたのなら今のアズルは危険な位置にいる。オートマタを従えていても奴隷商は死んだし、少女を人質にとっていてもそもそもハーフエルフが少女を助ける気がなければ意味がない。

 アズルを止めなければ、そう考えて口を開いた瞬間それは別の声に遮られた。


 「他の神官に会って貴方はどうしたいんだ?」


 怒りも焦りも無い、唯疑問だけが含まれた静かな声に嘲笑を引っ込めてアズルは視線を向けた。


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