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71.ある女の少し前

 隷属印は奴隷の使用用途に合わせて様々な行動制限を設けられるが初期設定においては奴隷の行動範囲、特定人物への殺傷行為、魔法の使用有無等が制限されている。

 行動範囲の制限は奴隷の逃亡防止の目的もあるが隷属印の使用者との魔力的な繋がりを切らさないためでもある。使用者と隷属印との魔力のラインのつながりによって使用者は隷属印を通じて奴隷を縛ることが出来るのである。もちろんこれには有効距離があり、使用者と隷属印の物理的距離が離れればラインは切れて奴隷の行動は自由になる。

 しかし奴隷を行動範囲を超えて働かせたい時、そういった場合はライン自体が切れても大丈夫な用に事前に有る程度魔力を隷属印に流しておく。そうする事で魔力が切れるまでの間は事前に決められた設定において奴隷の行動を制限することが出来るのだ。


 たとえば突発的な自己などで使用者が死んでしまった場合、もちろん魔力のラインは切れてい奴隷の行動制限は無くなる。そうした場合奴隷はもちろん逃げ出す、そしてそういった事態は案外往々にしてあるものでそのために対策手段として隷属印にはさらに正式な手段で使用者がいなくなった場合において隷属印を付けられた対象者に痛みを与える設定がされている。


 それ(痛み)は次の使用者が設定されるまで決して無くなることは無い。稀に痛みに耐えて寒村に逃げ生きる者のいなくは無いが出来たとしても一生涯、隷属印の痛みから解放されることは無い。奴隷が本当の意味で自由になること等無いのだ。



 しかし何事にも逃げ道というのはあるもので、元貴族候補だった女はその逃げ道の一つを持ち合わせていた。

 自分の隣に座っていたカロリア・ベア・ウルフに対して簡易的な隷属の魔法を掛ける。貴族が狩りの際に動物等にかける一時的な魔法だが貴族への輿入れが内定していた女は母から貴族の教養の一つとしてこの魔法を教えられていた。


 目の前の狼が自分の支配下にある事を認識でき、魔法の使用が制限されていない事を確認した女は鈍い痛みを覚える自身の肩―隷属印が刻まれた場所に手を当て魔力を隷属印に這わせていく。

 使用者のラインから逃れた奴隷が隷属印の逃げる方法の一つは隷属印の使用者に自分自身を登録することだ。

 しかし奴隷になるものは基本的に異教徒であったり移民であったり社会的地位の低い者だ、隷属印の登録方法を知っている者は少ない。

 奴隷商もそれは分かっていたから決して自分を奴隷商の側から離したりはしなかった。しかしどうだろう、人はいつか死ぬのものだ、奴隷商など危険な仕事をしているのだからこういう未来は予想できただろうに。

 女は自身の頬がゆっくりと吊りあがっているのを感じた。天は今自分に味方している。この場所で自分が自由になったのがその証拠だ。

 そう、死の神の派閥がいるこの洞窟で自分が自由になってのは意味があることだ。女が奴隷に落とされる原因となった派閥の神官たち。こんな所で自分達のした事のつけもはらわずのうのうと暮らしているなんて許される事ではない。

 あの奴隷商はここの神官たちがハーフエルフに追い出されたとか言っていたがそんな訳が無い。一体派閥の神官が何人いると思っているのだ。ハーフエルフ一人にどうこうできる団体ではない。恐らくハーフエルフとやらは神官達のつかいっぱしの奴隷の一人なのだろう。自分達の奴隷が奪われそうになったので怒って奴隷商を罠に嵌めようとしているのだ。

 ならば奴隷商が死んだ今自分がするべきことは何か、決まっているここから逃げることだ。何十人といる神官たちに多少魔法が使える女が一人でかなう訳が無い。


 しかし、あのオートマタがあればどうだろう。奴隷商が死んだという事はオートマタは今使用者がいない状態で休止しているはずだ、あれがあれば自分だけでも神官たちを何とかできるのではないか?

 そうなればやることは一つだ。いち早くオートマタを自分のものにする。そうすればあの獣くさい獣人も自分の奴隷に出来る。

 獣人とオートマタ、その二つが自分の手先になれば神官たちに復讐することもたやすいだろう。


 まずは崩落した向こう側に出るために道を探さなければ行けない。女は通路の端を靴の先で掘り返すが今まで来る道のあったあの小さな明かりはもうここには無いようだ。奴隷商に持たされたカンテラも崩落の時に取り落としてしまった。土砂の中から掘り起こしてももう使い物にならないだろう。

 女は諦めて魔法で小指の先に光を点す。ナイトランプにしかならないような明かりだが無いよりはましだ。


 ふと女は視線を足元から目の前の闇に移した。暗闇の中ちろりと光る何かを見たような気がしたのだ。じっと闇を凝らし続けるとやがて根負けしたかのように1っ対の光る点が暗闇の中に現れた。

 光る点を刺激しないようにゆっくりと明かりをそちらに向けると暗闇は光る点を中心に一抱えほどの大きさに形を変えた。


 女は慌ててその光る点に狼と同じ魔法を掛ける。そうでもしなければこちらがとって食われてしまうような、そんな気がしたのだ。


 その影が自分の支配下にある事が認識できた女はその影に洞窟の案内を命じる。この洞窟に居る自分達以外の生き物ならばこの洞窟の構造を自分達より理解しているはずだ。


 優美な曲線を描くその影は不意に方向を変えて女とは反対の方向へと歩き出す。


 女と狼はその影を追った。

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