62.遠吠え
年末で忙しくなるので暫くは不定期更新になります。
今更なんだけれどここで『観察・考察』を彼らに使ってみようと思う。何故今まで使わなかったのかというと『観察・考察』は自分の知識を元にしているので初見で誰かにかけても性別とか種族とかしか分からないのである。
別に忘れていたわけではない。
因みに初めて外に出たときに周りの植物に片っ端から掛けてみたのだが軒並み草とか木とかしか出なかった。そのうち食べるものがなくなった時の為に毒があるかどうかだけでも知りたかったのだが…
まあ、可食できる草は『羊飼い』達を撃退できたら考えるとして今はとりあえず侵入者達だ。
とりあえず一番後ろにいる女からかけていく。
人間:奴隷
『羊飼い』に使役されている女奴隷
技能:炊事・洗濯・鶏の解体
犬:狼男の部下:猟犬
狼男をリーダーにした群れの一員
技能:仲間呼び、隠密行動
人間:奴隷商人:奴隷調教人:行商人
奴隷や注文された商品を売り買いする仲卸問屋
技能:算術・魔法(風)・奴隷調教・危険察知
オートマタ:魔法人形:オーガベアの死体
魔石をエネルギーとして動く広義としての魔道具
技能:ブースト
特性:剛力・頑丈・俊敏
ううん、やっぱりあんまり役に立ちそうに無い。狼男はすごい勢いで飛び出して行ってしまったので分からないが一番前を歩いていた女と犬は後ろを歩いていた奴隷と犬とたいしてかわりは無かった。
やはり後方グループで気にするべきはオートマタだけど意外と『羊飼い』も魔法が使えるし危険察知があるから気をつけたほうがいいのだろう。風魔法は香を使われた時に使用していたのかもしれない。
とりあえず、彼らを制圧するなら今だろう。
◇◇◇
天井の崩落から『羊飼い』をかばうように抱えて後方へ飛んだオートマタの背中目掛けて何かが飛来する。天井に開いた穴と土砂の隙間、そのわずかな隙間から飛び出して来たのは神官たちが好んで使うような儀式的装飾のされた短剣だった。
そのまま狙いを定めた短剣はオートマタの首筋に―刺さらなかった。
何か強い力に軌道をそらされ、さらにオートマタ自身が首をひねって回避したため短剣の刃先はオートマタの毛皮をかすっただけだった。
見ればオートマタに抱えられた『羊飼い』が短剣に向かって手を出している。危険察知で飛来物に気付き技能の風魔法を使って短剣の軌道をそらしたのだ。
『羊飼い』の魔力は特に一般と比べて強いわけではない、しかし危険察知で短剣の狙いさえ分かれば、そこに到達する直前の一点に魔法を集中させることで一瞬ではあるが、中級神官や上級神官にさえ匹敵する魔法効果を生み出す事が出来るのだ。
『羊飼い』は自身の魔法が思い通りの結果を生み出したことに安堵しオートマタに命じてこの場から離脱させようと命令を口にした。
「ここぉおおおおぉぁ!?」
口にしようとして―出来なかった。
『羊飼い』の危険回避は生来の勘の良さと自身の今までの奴隷商人として危ない橋を渡ってきた経験から来るものだ。だから、危険を回避したという安堵による一瞬の気の緩みと今まで経験したことの無い自体には反応できなかったのである。
隷属印をつけた奴隷が主人を裏切るなどと言う事は。
『羊飼い』は口から血の混じった泡を吐きながら目の前にいる奴隷を睨みつけた。
オートマタは『羊飼い』を抱え元いた場所から数メートルは移動していた。つまりオートマタのすぐ後ろにいたはずの奴隷は今の崩落に巻き込まれたはずだった。
だというのに今目の前にいる奴隷は土ぼこりさえも被っていない。知っていたのだ。この場所で天井が崩落する事を、天井の隙間から短剣が飛び出してくることを。奴隷が自分の胸に突き刺しているものは今『羊飼い』が魔法で回避した短剣と同じ形をしてる。
「ああああぁぁぁ!!!」
『羊飼い』は確固たる意志を持って声を上げた、それはなんら意味のある言葉にはならなかったが『羊飼い』を抱えていたオートマタにはその意志が伝わった。いやもしくは伝わらず意味のある行動ではなかったのかもしれない。
しかしオートマタが意味を持つ持たないを関わらずその巨体から繰り出され、振り回された腕は『羊飼い』に短剣を突き差し抉る様に捻った奴隷の頭を捕らえ壁にたたきつけられ赤い花を咲かせた。
そしてその瞬間、短剣を体の奥で捻られかき回された男もまたその体から魂を放棄させられたのだった。
暫ししてぼこぼこと土砂の浅い所から土を掻き分け白黒模様の犬が這い出てきた。
犬は這い出した先に二つの死体と主人を無くし機能を停止させられた巨大な人形が崩れ落ちているのを確認すると状況を自分達のリーダーへと報告するために長い声で吠えた。




