61.罠
12/23は祝日ですが、22日分の更新が飛んでしまったので23日も更新します。
ソウルイーターの『肉体吸収』は別に有機物、無機物の区別をつけない。つまりなんでも吸収して取り込むことができるのである。すごいね!ピンクの悪魔みたい!コピー能力もあれば完璧だった。
まあ姿形は『肉体運用』で変えることは出来るけど。しかしそれは目視でソウルイーターを似たような形にしているだけでそのものになるわけではない。粘度を捏ねて形を似せて色を塗ったような、要するに張りぼてなのである。
張りぼては張りぼてでも短剣を作って刃先を尖らせれば人を刺す事もできるし、車輪と車軸と籠を作って組み合わせれば荷車として使うことも出来る。案外便利なようだが問題は自然物を作れないということだ。
この『肉体運用』による張りぼて作りは私のイメージの強さと私の手先の器用さにかかっている。要するに私の美術力、技術力しだいという事である。
試しに岩やらコケやらに『肉体運用』をしてみたがなんというか、すごく偽者くさい出来になった。制作費のたりない3Dのようだ。
どうせ薄暗いのだし土を塗っておけば岩ぐらいならばれないかもしれないが、ふと思いついた事があり、ソウルイーター体を細長い棒にしてみた。ついでに光ったら暗い土の中で便利かもと思い光らせてみた。直菅蛍光灯になった。まあ予想は付いていた。
直菅蛍光灯のソウルイーターを入り口から居住区に繋がる通路の間に幾つか有る枝分かれしている場所で天井に『肉体吸収』をしながらもぐりこませる。有る程度の高さまでもぐらせたら一旦引っこ抜いて同じような穴を天井に幾つかつけていく。
そして最後に一番高い部分一面を肉体『肉体吸収』で攫えてしまう。
そうすると穴ぼこだらけにされて支えを失った地層は通路に落ちてくる。
これで入り口からまっすぐに居住区に続く通路は封鎖された。後は通路を塞ぐ土砂に違和感を覚えられないようにわき道の通路入り口を削ったりガイド代わりにソウルイーターLED豆球を大量生産して並べたりした。
先ほど作った直菅蛍光灯はわき道の途中に仕込んで落ちる天井罠にした。これで向こうの戦力が削れてくれるといいが、あの『犬』にはよけられそうだ。
せめて『犬』とオートマタに戦力が分断されてくれればいいのだが…
◇◇◇
『犬』は通路の枝分かれした小道を右へ左へと駆け抜けた。『犬』の感覚にあのハーフエルフはまだ引っかかっていはいない。この洞窟の中にいるのは匂いで分かるが、それが何処でどうやっていけばたどり着けるのか分からないのだ。今何処に敵がいるのか分からなく、なおかつ敵の思い通りに戦力を分散されているのなら今『犬』がとるべき事は奴隷商たちに合流することなのは分かっている。しかし入り口からここまで道なりに進んで来たのだ、それまで横道などは無かった。元々横道など無いのかそれとも巧妙に隠されているだけか、もし後者なら『犬』の感覚を辿りに探せば奴隷商と合流することも出来るだろう、しかしここまで大掛かりな仕掛けをしてくるハーフエルフがそうやすやすと『犬』を合流させてくれるとは思えない。ならば『犬』のとる手は最善手では無く次善手。
明かりの無い洞窟内を視覚以外の全ての感覚を駆使し進む。人狼本来の姿になった『犬』は驚くべきスピードで洞窟内を疾走していく。
やがて犬はある匂いを辿りその場所に着いた。
細い通路の行き止まり、壁に亀裂が走り、そこから光が漏れていた。
『犬』はその亀裂に音も無く近寄る。ある匂い、ハーフエルフでは無い誰かの匂い、ハーフエルフではない誰かは何故こんな所にいて、一体何をしているのか。
亀裂の奥は小さな部屋になっていた。横幅も小さければ高さも低い、小さな折の様な部屋、その中に一つ置かれたランプの明かりを受けて小さな人物が膝を抱えて座り込んでいた。
「…!」
顔は見えなかったが小さな明かりに照らし出されたその人物の髪の色に『犬』は見覚えがあった。
ふと小さな人物が大きく息を吐き、その顔を上げる。涙のにじんだその顔は一年前、この洞窟に住み着いてた神官たちに売られていった、奴隷の子供だった。




