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57.自由

12/18 巨大犬と普通の犬の区別が付きにくいので巨大犬は『犬』表記にしました

 洞窟までの道のりを荷車で駆け抜ける。犬達を落とした崖はそこまで高いものではない、普通の犬なら運がよければ骨折で済むかもしれないがあの巨大な『犬』は分からない。それになにより『羊飼い』にはまだオートマタもいるのだ。

 ソウルイーターは空を飛べるのだから飛んでいけば早いだろうと思うのだが、体の移動速度は体の大きさに反比例して遅くなる。だから空を飛ぼうと思っても40型円形蛍光灯ほどスピードで空を翔ることはできなのだ、しかし地面を走るだけならば動かすものは車輪だけでよい。車輪と他の部分をパーツ分けしておいて車輪だけを回転運動させて、他の部分は悪路を走ることで崩れるバランスを直す事に専念すればいい。

 そうやって無心で山道を走らせているうちに洞窟の入り口までたどり着いた。薬の効果もいい加減消えてきたのか立って歩けるぐらいに回復してきたが、時間が惜しいのでそのまま荷車に乗ったまま洞窟内を進んでいく。

 一応『羊飼い』に洞窟に押し入られる可能性を考慮して最低限の準備はしてきたが荷車作りにてこずってあまりこったものは出来ていない。

 セラが荷車の音を聞きつけたのか居住区の入り口から顔を出した。40型円形蛍光灯の明かりを受けた顔は青白い、奥で隠れているように言っておいたのだが念のために着けておいた40型円形蛍光灯の記憶によるとずっと心配してここで待っていてくれたらしい。

 私は荷車からふらつきながらも自分で降り立つと、側までやってきたセラの肩に手を置き目線を合わせた。

 細くまだ肉の少ない骨ばった子供の肩の感触が掌に伝わる。

 

 「今から私たちの『敵』がやって来る。撃退の準備をする。セラ、手伝ってくれる?」


 セラは一切の逡巡も見せずに首を立てに振った。

 (ここ)を守る、そのために。


◇◇◇


 幸い崖から落ちた犬達の中に死んだものはいなかった。だがそれは無事であると同義語ではない。上手く崖を蹴って着地したものや、そのまま滝つぼに突っ込んで4足全て変な方向へ折れ曲がったものも、折れた足が皮膚を突き破ったものも入る。結局五体満足に残った犬達は崖を飛びおり無かったものも含めて3匹だけだ。それはつまり崖から落ちて無事だったものは『犬』自身しかいないということでも有る。

 『犬』は怪我をした犬達を痛ましげに見つめた。川から引き上げた犬達は川のほとりで痛む足を舐め、めいめい寝そべっていた。人ならまだしも犬の足から折れたからといって治療などしてもらえない。大きな町に行けば魔法による治療を行う院もあるが、そんな高価な医療を彼らが受けられるはずもないし『羊飼い』も与えはしないだろう。新しいのを買った方が早いからだ。このまま自然に足が治るのを待ったとしても元と同じように直る可能性は低い。だからもう彼らは走れない、それは自分の主人のとって犬達の価値が無くなった事と同義だ。


 『犬』は犬達に胸中で謝罪を送る、自分の判断ミスで怪我をさせた事を、ここに彼らを置いていくことを。

 自力で歩けない彼らを『羊飼い』の元まで連れて行くことは難しいし、連れて行けたとしても待っているのは処分だ。なら彼らをここに残していくほうがよっぽどいい。怪我をした野生動物の末路がどんなものか知っていても。


 『犬』は走り出した。残った犬達と合流してハーフエルフの逃げた先を探さなければいけない。


 『犬』が走り去った沢から犬達の遠吠えが聞こえた。それは誰かを恨むでもなく、悲しむでもなく、ただ自身が自由になった事を喜ぶ声だと思った。何故そう考えたのかは分からない。ただ、そうだという確信だけがあった。

 もし怪我をしたのが『犬』だったならば、きっと『羊飼い』は『犬』を処分したりしない、街へ連れて行き治療をしただろう、それだけの価値が『犬』にはある。

 犬はスピードを上げた。沢からの声は遠ざかっていった。

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