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52.ある犬の話1

12/18 巨大犬と普通の犬の区別が付きにくいので巨大犬は『犬』表記にしました

 隷属印とは文字通り奴隷に彫る紋の事で使用者が望めば紋を施した対象の痛覚だけを刺激し、痛みを与えることが出来る。痛みは使用者の魔力量と制御力に寄るが針を刺したような痛みから焼けた杭を突き刺すような痛みまで自由に与えることが出来るため奴隷の調教などにも使われることがある。また使用者から離れていても効果があるため奴隷の逃亡防止にも一役買っている。


 隷属印には魔力のみでその身に刻む方法と針と特殊な墨で直接印を刻む方法がある。使用効果としてはどちらも変わりはしないが魔力のみで刻む方法だと一度刻むのに結構な魔力が必要で効果は時間と共に薄れていく。針で皮膚に直接彫る方法なら効果は半永久的だし魔力自体もそれほど必要はない。ただし使用する墨は非常に高価で正しく皮膚に印を彫るのにも専門の職人が必要だし成長途中の子供であれば成長共に印が歪み効果がなくなることもある。


 元々は遠い異国の地の魔法の技術であったそうだがそれを何処かの国が改変し現在の隷属印を作ったという。余計な事をしてくれたとも思うが隷属印がある前は奴隷の躾に鞭や拷問の様な方法まで使ったと聞くから痛みがあっても後遺症を残すことの無い隷属印はましになったほうなのかもしれない。あまりに強い痛みを与えるとショック死する事もあるが。



 自分の右肩に意識を向ける。自身に刻まれた隷属印、毛皮の奥、皮膚に直接掘り込まれてそれはある。物理的な傷は無いはずだが今だ何かをそこに打ち込まれたような痛みが鈍く残る。それが何度も繰り返して覚えさせられた幻の痛みであることは分かっていはいても消えてはくれない。後遺症がないなんて誰が言った言葉なのか。


 『犬』は自分の後ろを『犬』に囲まれたまま歩く男を見た。『羊飼い』などとふざけた名前を名乗るこの奴隷商は今現在『犬』の主人であり、そして繰り返し自分にその痛みを覚えさせた張本人でもある。この男は奴隷商の他にも奴隷調教師の顔ももっていた。子供を買うなり攫うなりして一般的な奴隷としての態度や仕事、さらにはあまり人に言えない反吐がでるような技術も教えることもある。


 「なあ見たかよ、おい!」

 その男は今興奮したように誰に聞かすでもなく一人でまくし立てている。


 「やっぱりそうだよ!あの体型!ありゃエルフだ!」


 男が言っているのは先ほど別れた神官の男のことだろう。今にもかみ殺そうと牙を向けた獣を前に顔色一つ変えなかった、神官等教会に篭って祈るだけの何の役にも立たない人種だと思っていたがあのは少し違うようだ。

 確かにエルフといえば背と手足が長く体重が軽いため体に余分な肉の少ない薄っすらとした体つきをしているという。そして絶対的な排他主義。エルフは同属でなければ見分けが付かないほど皆似通った姿をしているという。しかしあれは―


 「まあ、髪は黒いし顔付きも昔見たエルフとちっと違うような気がするが人族とのハーフなら納得が行く」

 なるほどそう考えればエルフ(絶対的差別主義者)人族の宗教グループ(他宗教)に所属しているのも納得できる。


 「もし違ったとしても言ったもん勝ちだ。エルフのハーフじゃないと証明できる奴なんていやしねぇ、あれは高く売れるぞ!」

 まあ結局この男の頭にはこれしかないのだ。『犬』は嘆息した。興奮した男にはどうせ気付かれまい。

 しかしあの男はお得意様の所属だろう。それを相手に気付かれずに一人攫うなんて出来るものだろうか?何度か見てきたここ神官の言動からさっするに彼らは王都の神官であったはず、そんな事をすればこの国で奴隷商を続けるのも難しくなるだろう。

 大体取引に来るのはウリヤスかウリヤスの直属の部下だろうからもう一度あの神官と接触する事自体難しいのではないだろうか。


 「おい、コルン。恐らく取引にはあの神官が来るはずだ、あいつがきたら地点Bに連れて来い、生け捕りにするぞ」


 地点Bとはこの男が誰かを殺さずに捕まえるために罠を設置した場所の符号だ。昨日ここに着いてからそんな物は設置していないからこれから設置するのだろう。ここには大きな町へ商売へ行く道のりで立ち寄ったので今、奴隷商の男の手元には何人かの奴隷(商品)がいる。一時間もすれば簡単な罠が張れるだろう。


 「あいつは何時もどうやって奴隷を受け渡してるのかは知りもしなかったしコルンを見ても『羊飼い』だとも気付かなかった、神官の格好はしていたが恐らく神官じゃない。じゃあ何で神官のローブなんか着ている?それはあいつが神官と関わりがあるからだ、それも(羊飼い)が来る時期を知っているぐらいに…神官じゃないのに神官のローブを着ているのは神官からローブを奪って逃げたからか…ひょっとしたら俺が商品を売る前からいた奴隷?なら何故逃げた奴隷がこんな神官のねぐらの近くでふらふらしている…ひょっとして神官たちはもうこのあたりにはいないのかもしれないな…」


 ぶつぶつと呟きながら考えを整理する男の言葉に耳を傾けながら『犬』が思ったのはならば男がこの国から指名手配されることは無いだろうという事だけだった。このままだとあのハーフエルフはこの男に捕まって奴隷にされてしまうと分かっていてももはや『犬』にはどうにも出来ないことだ。男の命令を無視すればそれこそ死んでしまうほどの痛みを与えられる。そうすればもう『犬』には男の命令を聞くしか出来ない。今まで多くの人々が奴隷として虐げられ売り払われていくのを見送ってきた『犬』にはもうそれが可愛そうだと思うことにも疲れてしまったのだ。

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