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5.はじめまして私

 あ、私ソウルイーターだった。


 暗闇の中洞穴から這い出した先にあった洞穴の中を手探りでうろうろしていたら、ふいに自分がソウルイーターである事を思い出した。思い出したというよりも『精神支配』が解けたというのが正しいのだが。数時間で解けるようにかけておいたのだが目が覚めてからの時間を計算すると死に掛けていた体を蘇生させるのに思ったより時間がかかったようだ。時間指定がそもそも上手く機能していなかった可能性ももちろんあるがとりあえずは部屋から這い出る前に『精神支配』が解けなくかったのは僥倖だろう。

 自分自身にかけてみて分かったのだが『精神支配』においての精神とはやはり魂のことであり、魂を支配するとは、自分の意のままにする、ということであり、その魂に暗示にも似た強制力を働かせるものであった。

 上手くいくかは賭けだったのだが私は、自分自身に死体(暫定)の魂であるという『精神支配』をかけ死体(暫定)の無くなった魂の代わりとなったのだ。ざっくらばんに言うと死体(暫定)に憑依したというのが近いだろうか。とっさにやったとはいえ、よく上手くいったものである。

 さて、それでは確かに実体のあった私のソウルイーターとしての体は何処に行ったというと多分まだあの最初の洞穴の中に落ちていると思う。

 洞穴の中の紋章がいつからあの場所に設置されていたのかは不明だが、死体(暫定)は少なくとも数時間の内にあの洞穴の中に落ちてきただろうということが予想されたので自身がソウルイーターであることを忘れさせて死体(暫定)の体で縦穴を登れば紋章を通過できるかもしれないと考えたのだ。


 まさか紋章自体を壊してしまうとは思わなかったが。

 

 暗闇の中でひりひり痛む指先を見るが死体(暫定)の瞳では何も移すことが出来なかった。『観察・考察』の能力もそもそも見ることが出来ない状態では発動しないらしい。確かに見えていないのに観察もなにもあったものではないだろう。

 さて、では洞穴に残った私の体はどうしよう?『精神支配』が解けてもまだ憑依が解かれていないと言う事はもうこの死体(暫定)が私の体になってしまったということだろうか?この体でも見えない壁の紋章が見えていたということはソウルイーターとしての技能はこの体でも使えるようだしソウルイーターの体はここに捨てておいても良いのかもしれない、また洞穴に戻ってあの体を拾ってくるのも大変だし、なによりもし中に入ることで見えない壁が復活してしまったらもう一度同じようにこの体を使っても『精神支配』中はソウルイーターとしての意識は無い訳だから同じように外に出れるかは分からない。別に40型円形蛍光灯に愛着があった訳ではないし…


 結論として見えない壁は復活していなかった。

 ソウルイーターの体に引き戻された私はあたりを照らしながら恐る恐る縦穴を登り最初に目を覚ましたときと同じように倒れている死体(暫定)を無事発見したのであった。


 自身がソウルイーターである事を保持したまま死体(暫定)の魂であることを『精神支配』させる事は意外と難のある作業だった。

 死体(暫定)に体に憑依した私は手探りで目の前に落ちているはずであるソウルイーターの体を取り上げ掌で握り閉めソウルイーターの体に自身の意識を集中させる。やはりソウルイーターの体と私の魂は切り離せないものであるらしくソウルイーターの体から離れすぎると引っ張りすぎたゴムのように元の体に戻ってしまうようだ。この、離れるというのが時間的なものなのか距離的なものなのか、もしくは精神的なものなのかは不明だがとにかくソウルイーターの体を捨てていくことはやはり出来ないようだ。

 私が意識をソウルイーターに集中させていると掌の40型円形蛍光灯がゆっくりと淡い光を放ち始めた。

 明かり自体は魂がソウルイーターに入っているときに比べてやはり弱く12W電球型蛍光灯程度の明かりしかないがそれでも暗闇になれた死体(暫定)の目には痛いほどの光量だった。死体(暫定)を私の魂だと『精神支配』をかけると暗い中をいつ本体に引き戻されるかとびくびくしながら進むことになり、本体に戻るとあたりを照らしながら進めるがまさに手も足も出ない状態なので非常に不便だ。

 そんな訳で基本的には死体(暫定)が私の体、条件付けでソウルイーターと死体(暫定)両方が私の体だという『精神支配』を私にかけている。これならば距離的に、精神的にもソウルイーターを近くに感じ、また定期的に本体とも魂を移すことでいきなり本体に引き戻されるという不安要素を消すことに成功したのである。ついでにちょくちょく本体に魂を移すことで照明をも手に入れることに成功したのだ!


 すごく疲れるのでいいとこ5分が限界だ。ついでに言えば両方の体を自分自身だと認識している間はどちらのほうにも意識が散漫になり細かい動作が難しく、せいぜいゆっくり移動するぐらいしかできない。明るい状態で細かな動作を求めるなら早急に別の明かりをみつけるか洞窟の中から外へ出る道を見つけるしかないだろう。


 さて、ここでようやく私は私の本体をきちんと目にすることが出来たのだが…本当に40型円形蛍光灯の形をしているのは何故なのだろう。

 なんとなくドーナッツ型に近いということは手に取った時から気がついていたのだがここまで40型円形蛍光灯に近いとは…いや、もはや近いとかそういう問題ではない、40型円形蛍光灯そのものの姿をしている。ソケットに差し込むコネクトもある。何か文字が書いてあるように見えたので光量を落としてよく見てみるとメーカーロゴが記入されていた。

 いや、さすがにおかしい。いくらなんでも異世界のソウルイーターが40型円形蛍光灯そっくりでメーカー製である訳ないではないか。これはひょっとしてあれなのでは、本人のイメージがそのまま外見に反映されているとかそんなのではないだろうか?だとしたらここまで40型円形蛍光灯なのも納得がいく気がする。いや、納得はいっていない。まったく飲み込めない。そもそも本人のイメージがそのまま外見に反映されるなら今からでもイメージを強く持てば別の姿に変形できるのでは無いだろうか?そうだ、そうに決まっている。よしせっかくなのだから魔女狩りの鎌にしよう。イメージしやすいしソウルイーターっぽい。

 そうやって私は強く鎌のイメージを頭に思い描いた。



 一時間粘っても無理でした。


 あんなに蛍光灯、蛍光灯連呼しなければよかった!!!

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