45.ソウルイーターの洞窟暮らし6
日常編はもうちょっとだけつづくんじゃ
とりあえず書物類はまとめておいて後で回収しよう。今はそれよりも必要なものがある。
それは服だ。ミコトの服はここに召喚された時に来ていたワイシャツとジーンズと下着ぐらいで後で見つけた上着もどちらかというと薄手の春物コート―色味的に秋物かもしれないが―だ。セラに至ってはそもそも自分の服というものを持っていない。奴隷達は基本的に着るものを共有していたらしい―「お気に入り」が上級神官から貰った物は別―ので生き残った奴隷達が逃げ出す時にめぼしい衣類は持ち出されてしまったし、残っている物も状態が悪いものか、セラには大きすぎる物ばかりだった。
もともとセラもそれらを来ていたのだから構わないと本人は言うのだがさすがに肩が落ちそうな服を着てうろうろさせるのもどうかと思うしあの恰好ではこれから寒くなった時に保温性に心もとない。
日が差し込まないので当たり前なのだが、ただでさえこの洞窟は冷え冷えとしているのだ。話に聞くとそもそも今は夏が終わったばかりだという。つまりこれから気温は下がる一方。これは早急に着れる物を探さなくてはいけないという事でここ数日私とセラは残った神官の宿舎のワードローブを漁る日々を送っているのである。
因みに私が衣類を探す理由はもう一つある。
この世界の服はどうにもこうにも肌触りが悪いのだ。
現代日本においてどんな安物を買おうが服の生地自体が肌に引っかかったり、毛羽立ち固くざらざらしているという事はまず無い。現代科学の恩恵にあずかってぬくぬく暮らしてきた私とミコトの体は、おそらく文明の度合いからして中世から近代の間にあるこの世界の衣類に耐えられないのだ。恐らく服の素材自体が悪いのだろうし、製法も精製されていないこの世界の服は普段動き回っている分にはまだ耐えられるし、きっとそのうち体自体も慣れてくるのだろうとは思う。しかし夜、視覚も聴覚も寸断された状態になるとどうしてもそんな小さな不快感も増大してくる、そんな不快感は私の睡眠を阻害し、結果私は現在軽い寝不足にさいなまれている。
特に最近はここの生活にも慣れてきて疲労困憊でベッドに倒れこむことも減ったので余計だ。
と、いうことで私は私の快適な睡眠を確保するためにも肌触りのいい生地を探しているのだ。
しかし当たり前ながら下級神官のクローゼットにはそんな質の良い衣類は入っていなかった。それどころかどうも男だらけの生活が長い性かかなりボロボロの状態のまま放置されている衣類や、いつ洗ったのかというようなものまで同じ所に突っ込まれていたりする。神官達の身の回りの世話はセラ達、奴隷の仕事だったようだがこんな風にクローゼットに押し込まれていては洗濯もできやしない。
そんな訳で私がまずクローゼットを開けてすることは衣類を手当たり次第に引っ張り出して綺麗なもの、そうでないものに分ける事だった。
綺麗なものは纏めて後で使えるか使えないかを考える。使えないものは纏めて処分だ。
処分は簡単である。私はこの部屋のクローゼットの中身をすべてぶちまけて二つの山を作ると小さい方の山―この部屋の住人はきちんとした人間だったらしく使えない服は少なかった―へ天井付近で照明と化している40型円形蛍光灯ソウルイーターをゆっくりと下して山の上に着地させる。
ソウルイーターが着地した瞬間、音もなく使えない服の山が消えうせソウルイーターが一抱え程度の円形蛍光灯に膨らむ。
何のことは無い、使わない衣類は『肉体吸収』しているのだ。
神官たちの死体の山を『肉体吸収』した時に神官が身に着けていた短剣や靴やローブや服まで私 は『肉体吸収』してしまった。それはつまり『肉体吸収』は肉体を吸収するのではなく肉体に吸収する能力なのではないかと考えたのだ。
この違いはつまり『肉体吸収』する物は死体にこだわらないという事ではないか、そう考えた私は身の回りにあるものを手当たり次第『肉体吸収』にかけてみた。木製のテーブル、金属のナイフ、生の果物、洞窟の壁。
結論としては所有者の無いものは全て『肉体吸収』にかけられるようだった。他人の所有物、服でも、家でも、家財でも本人でも、つまり今現在生きている者又は生きている者が自分の所有権を主張している物には『肉体吸収』にかけられない。
『肉体吸収』にかけられないというのもその言葉どおり一律にかけられないのでは無い。事実奴隷部屋―タコ部屋だった―にあった物も適当に『肉体吸収』にかけたら多少の抵抗はあってもあっさり吸収できた。あの時は知らなかったが奴隷の私物が奴隷全体の共有物だったのならあれらはセラの私物でもあったはずだ。
これはつまり本人にとって自分の物だという認識が甘いものは通常より多くの魂を消費するれば『肉体吸収』にかけられるという事で、試す材料が少ないので―なにせここにはもうセラと私しかいない―はっきりと断定できないが、私が魂を消費しさえすれば『肉体吸収』に掛けられないものは無いとも言えるのではないだろうか。
もちろん余分に魂を消費してまで吸収したい物があればの話であるが。




