42.ソウルイーターの洞窟暮らし3
遅くなってすみません。
11/12考えてみたら厩が暗かった。厩に明かりつけました。
顔と手を洗ってきたセラとテーブルに着くと手を合わせていただきますをする。セラも私の真似をして手を合わせて覚束ない発音で私が言った言葉を復唱する。
セラが起き上れるようになって二人で食事ができるようになったその日、セラは私のこの言動に酷く怪訝な顔をした。そりゃいきなり今まで自分と同じ言語を喋っていた相手が自分の知らない意味不明な言動をしたら変に思うだろう。しかもセラには海外でよくある食前のお祈りという作法自体にも馴染みがなかったようだ。
ここの神官達は食事をする時には祈りの言葉を口にしていたし、フィオレの子供時代の記憶にもそんなものがあるので、この世界にその風習自体が無いという訳では無いはずだが、セラがそれを知らないということは、つまり今までの人生の中で彼女にそんな作法を教えてくれる人間がいなかったという事だろう。
別にしなくて困るものでも無いのだがセラには興味深かったようなので言葉の意味と動作の意味を教えてあげた。そうすると彼女は私に付き合って食事の挨拶をするようになったのだ。無理して言葉まで日本語にしなくてもいいと思うのだが、そういった私にはセラはただ首を振った。
初めて知った作法だからオリジナルを踏襲したいのかもしれない。
食事が終わると私とセラは宿舎から出て旧神官居住区内を散策する。セラはまだ壁なしで歩くのを怖がるので40型円形蛍光灯ソウルイーターを手すり代わりに歩かせる。目的地があるで厳密には散策では無いのだがこれはセラのリハビリも兼ねているので本当の散歩のようにゆっくりしたペースであるく。目的地は逃げやしない。
居住区内に建てられていた宿舎のうち燃えて壊れかけていた建物は3割程度。居住区内でよく燃えた場所とあまり燃え広がらなかった場所には偏りがあるので今、私たちが歩いている場所は比較的無事な宿舎がほとんど規則的に並んでいる。
ほとんどというのは宿舎の間に空いた凸凹とした広い通路が不規則に居住区内を横断しているからだ。不規則に並んだ広い通路と規則的に並んでいる凹凸の少ない狭い通路。そして広い通路をよけて建てられてる宿舎たち。恐らく元々この居住区はこんな広い空間では無くいくつかの通路が密集して目の粗い網目の様な洞窟になっていたのだろう。そこを土魔法が使える神官たちでつなげて広い一つのドームにしてしまったのだ。改めて魔法というもののすごさを感じる。土魔法とやらはそれほど希少な魔法ではないそうなので、作業に当たった神官自体の数も多かったのだろうが、それでもそう簡単に出来るものではない。
私は大通路を歩きならがドームの天井を仰ぎ見る。洞窟の天井は高く3階~4階程度の高さがあり幾つかの太い柱が天井を支えている。
そして意外なことに洞窟の中は暗くは無かった。
性格に言えばそこまで暗くないが正解だ。天井から幾つか差し込む光は空間で拡散し私たちのいる場所に柔らかな光を落としている。何らかの細かい作業をするには心もとないが手ぶらで道を歩くぶんには十分だ。天井に切れ目でもあるのかと思ってソウルイーターで飛んで確認してみると切れ目から光が直接差し込まれてる訳ではなく、天井に幾つか縦長の穴を開け底に透明度の高いガラスの様なものを差込み、天窓のように光を取り入れているようだ。洞窟の外に回ってみれば分かるのだろうがどうやら穴の反対側にも同じようにガラスをはめ込み雨水が入ってこれないようにしているらしい。中々に工夫の凝らされている洞窟である。
そうやって天井からの光を目で追いながら歩いていくと通路の終わりに差し掛かった。通路の終わりの壁には大きな穴が開いていて、穴をくぐり奥へと進むと厩用の空間が開いている。厩には居住区のように光が差す仕掛けはされていないので設置されているランタンに魔法で火をつける。4回かかった。
壁に立てかけられている藁を掬うためのフォークを手に取り、それを地面に打ち付けて2回音を出す。おのおのの寝床で休んでいた馬たちはぞろぞろと動き出しやがて、私の目の前に一列に整列した。これは別に私が仕込んだ訳でも、元々こんな風に調教していた訳でもなく、私が馬達を『精神支配』しているからだ。
私の目が覚めてから散々神官たちに『精神支配』をかけてきたが、今これほどまでに『精神支配』という能力がありがたく思うことは無い。
神官たちはもうこの洞窟にはいない。セラはまだ体が小さいくてフォークを上手く扱えないし、何せ今も一人では中々歩くこともできない。とすると馬達の世話は私一人の仕事となる。
馬の世話というのは何も知らない素人が一朝一夕に一人で出来るものではない。私一人でこれだけの馬の世話をまともにしようものならすぐさま手が回らなくなり馬を病気にさせてしまっただろう。
そこで『精神支配』の出番である。これを掛けておけば馬をわざわざ馬場に移動させなくても勝手に自分達で洞窟内をうろうろして運動してくれるし排泄も決めたところにさせる事が出来る。ついでに体調の具合も自分で申告させることも出来るのだ。私は一日に一度水と飼料を新しくし、『精神支配』をかけなおすだけでいい。寝藁も毎日変えなくても良いので大変楽をさせてもらっています。




