39.朝が来る
今思えば子供の初出挿絵はここにはさめば良かったのでは・・・
寝て起きたら一昼夜たっていた。更に言うならその間に生き残っていた奴隷達は皆逃げ去っていた。もちろんまだ目が覚める気配の無い子供を置いて。
まぁもう死んでしまったと思いこんでいたのかも知れないが…。
取りあえず私は神官達の居住区の掃除を始める事にした。
第一懸案の死体をどうする問題。なのだがどうしようかぐるぐる考えながら『観察・考察』を自分にかけると新しい表示が増えていた。
ソウルイーター:チェノボグの使い:生と死の神ティニト
残存魂:6
技能:魂狩り・精神支配・観察・考察
特性:魂吸収・魂運用・肉体運用・肉体吸収
なんとなく沢山魂を吸収したし、レベルアップするなら今じゃない?と思っただけなのだが意外と私の体は馬鹿正直に出来ていたらしい。
肉体吸収。魂吸収が魂を吸収するものなら肉体吸収は文字通り肉体を吸収するものだ。案ずるより産むが安し。私は早速死体の山に近づき-異臭がするから正直勘弁したい-肉体吸収を発動する。一瞬周囲を輝く光に照らしだし。光が収まった時、私は直径3mの円形蛍光灯に変化していた。うん、吸収する前は短剣型をしていたはずなのにおかしいな。私は何時まで円形蛍光灯の呪縛に悩まされなければ行けないのだろうか?取りあえず3m級の円形では行動に制限がかかるので私は魂運用と同じ様に肉体運用で3m級から40cm級に肉体をパージした。
魂吸収で増えた魂がふたつに分ける事が出来るなら肉体も分けられるのではとずっと考えていたのだ。ただ私自身の容量が少なくて実行出来なかったのだ。
とりあえずパージした3m円形蛍光灯は今は放置して他の死体を手当たり次第に吸収していく。このままでは腐るだけだし。
そんな感じで一時間ほど掛けて居住区のいたるところに巨大円形蛍光灯を作成した。生ものの死体を吸収して出来た体は別に魂が無くても死にはしないし腐りもしない通常の40型円形蛍光灯の体に変換されているのだが一体ソウルイーターの体はどんな風にこれらを変換しているのだろう。
そうやって死体を片付けると今度は瓦礫である。これについては側仕えの中級神官Hが土属性の魔法を仕えたので全焼して倒壊の危険のある建物をぽこぽこつぶしてもらう。私たちはその間焼け残った家具や食料やらを私達が寝泊まりしている場所の近くに集めさせた。80人を支えていた居住区の食料容量は結構なもので、この人数だと食べる物に困らないどころか下手すると食べきれないほどの食料が集まった。
因みに彼らがこの食料をどうやって維持していたかと言うと普通に定期的に神官数名で近くの人里まで出て購入していたらしい。大体馬で2日ぐらいの距離に町があるらしいが馬で2日の距離がどの程度なのか不明なので多分近くでは無いのだろうと思うぐらいだ。そのための馬車と馬も居住区とは別の場所につながれていた。ちなみに馬たちは火事や血の匂いでえらく怯えていたので『精神支配』して大人しくさせている。
この世界観だと馬一頭結構な財産な気がするし、暴れられたらそれこそひとたまりも無い。
瓦礫を一通り片付けて洞窟内の閉鎖されていた通路―神官たちに聞くと外に出るための通路はいくつかあったのだが神官たちがここに来た際に居住区を通る道だけを残して全て封鎖してしまったらしい―も幾つか開けて洞窟の風通しを良くする。
そうやって子供が目覚めるまでちょこちょこと洞窟内を改装していくうちにすっかり洞窟内は住みやすい住居空間になった。もうなんかこのままここに住んでもいいぐらいだ。というか住んでしまおうかな。家財道具は一式そろっているし人里離れた立地なら隠れ住むのにちょうど良い。死体(暫定)を送還する方法は見つけなくてはいけないが直ぐに見つかるものでもないだろうから気長にやるなら本拠地が必要だ。
悪くない考えかもしれない、子供の頭をなでながらそんな事を考える、最近すっかり寝る前の習慣になっているそれは単純にさらさらの髪を撫でるのが気持ちいいのもあるが、子供の魂の状態を確認するためのものでもある。当初の予想を外れ、子供の魂は大分形を取り戻してきていた。ただ現代日本の医療が無いこの世界では長期に渡って寝たきりなのは安易に死に繋がる、子供の回復が先か、体力が尽きるのが先か、今の所五分五分と言った所だ。
もし子供の目が覚めて新しくなったこの場所が気に入ったなら子供と暫くここで暮らしてもいいなとそんな事を思いながら私は睡魔に身をゆだねた。
「私は何処に行くの?」
もう何処かへ連れて行かれるのには慣れっこだと。そう言いたげな態度で子供は問う。
しかし瞳には知らない場所に置いていかれる子供の恐怖が覗いていたのを私は見てしまった。
喉がまだ正常に動かない子供の声をソウルイーターの感覚で聴きながら私は答える。
「何処にも行かないし、連れて行かないよ。君が自分で何処かへ行きたいと思うまで」
感情を殺すことに慣れているらしい子供はその表情を変えることは無いがソウルイーターの感覚は彼女の疑問を簡単に拾う。
「そうだね、でももう君を使役する人はいなくなった。だからもう君の主人は君だけだ、だから君は好きな場所へいっていい」
自分が果たせなかった主命をこの子に果たしてほしい、それが私に捧げられた彼女の願い。それは随分と押し付けがましい願いだが、その根底にあるものは彼女の幸せを願うものだ。
きっと彼女だって主命等どうでも良かった、ただそれが彼女の狭い世界において彼女の知る最上の幸せだっただけで。だから彼女の願いの本質はきっと―
貴方の幸せを貴方自身で手に入れられますように。
私は神ではないしこの子を幸せにすることも出来ないしする義務も責任も無いが、この子が幸せになる一歩を踏み出すことが出来ないのならその背中を押してあげることは出来るだろう。
「君の名前を教えてくれる?」
私がそう聞くと彼女はおずおずと自分の名前を名乗った。それは初めてちゃんと耳から聞いた彼女の声だった。
「これからよろしくね。セラフィマ」
更新ペースが最後ぐだぐだになりましたがここまで来ることが出来ました。ここまで読んでくださってありがとうございます。
2章以降はだらだらと日常話なんかを含めながらダンマス的な事をやらせていくつもりです。多分。




