37.夜の終わり
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中級神官と合流を果たした私は傷の治療をし―折れた腕も『観察・考察』を併用することによって繋ぎ直すことができた―残った神官たちを『魂狩り』にかけていった。残っている神官たちには少年神官達の様に抵抗力のあるものはおらずさほど時間もかからずに狩りつくすことができた。
後は入り口で洞窟の奥から戻ってきて居住区の状況に唖然としている神官を順番に『魂狩り』して行くだけだったので簡単だった。
全部終わってから死体を神官たちに確認してもらったが足りない顔が二人程いた以外は全員を始末する事が出来たようである。洞窟から出るには居住区を通らなければならないのでまだ彼らは洞窟の中にいると思われる、恐らくだが洞窟の奥で遭難しているではないかというのが私たちの総意となった。
まぁ、外に出ていないならそのうち出てくるか、死体で発見されるだろうから今は放っておいてもいいだろう。
残る問題は『精神支配』していた神官たちをどうするか?である。
元々神官は軒並み全て殺すつもりであったのだが『精神支配』していたといっても今まで協力してくれた者たちである。たった半日程度の付き合いだがなんとなく、さあ殺そう!という気には中々なれない。
因みに『精神支配』していた神官の被害状況は下級神官A、B、Cが少年神官の魔法で死亡。中級神官Dは火をつけて回っている間に火傷をした程度で軽傷、中級神官Eはウリヤスの側仕えの魔法で死亡。Fは逃げ出した上級神官と相打ちになり重傷、Gは軽傷、Hと上級神官Iは共に結構な重傷だったのだが神官Iが魔法で治療したので今は軽傷程度である。
因みに神官Fは神官Iの治療によって傷は治ったが失血が多く長くはなかったので『魂狩り』にした。
その時に分かったのだが『精神支配』は自分の生命を脅かされる命令を下されると解けてしまうらしい。つまり『精神支配』では生殺与奪までは奪えないということだ。
上級神官は何があっても全て殺すつもりだったので、上級神官Iを『魂狩り』に掛ける時は気を付けてやらなければいけない。
私は残った4人の神官と共に居住区内の比較的焦げていない綺麗な部屋を片付けて休息をとる事にした。
残った神官の死体とかこの居住区をどうするかとか、居住区の端の部屋に押し込まれていた奴隷たちをどうするとか―半分は火事に驚いて外に飛び出て火に捲かれてしまったので残念ながら生き残っているのは半数もいない―今後の私の身の振り方とかそういったものは一旦忘れることにして今日はもう眠ることにする。
そう思って布団に潜り込むとそこには先客が一人いた。
そうだ、奴隷の子供をここに寝かせていたのだった。自分でここに運ぶように指示したのにすっかり忘れていたということは私はだいぶ参っているようだ。今片付けて綺麗になっている他の部屋はもう神官達が休んでいるし、今から新しく部屋を整えのはおっくうだ。幸いそれほど小さなベッドでは無いので詰めれば寝れないこともない。というかもう寝たい。
考えてみれば死体(暫定)は私が蘇生してから一度も寝ていないし食事もとっていない。私たちがあの狭い洞窟の一部屋から抜け出して一体もう何時間たったのだろう。 食事は今は疲れすぎて食べる気がしないので起きてからにしよう。
私は子供をベッドの壁側に寄せると子供と一緒に布団をかぶった。火も消えてだいぶたつ洞窟の居住区内はだんだんと気温を下げてすこし肌寒い。
隣でゆっくりと呼吸をする子供の体温は暖かい、私は子供の頭に手を乗せて髪をすいた。子供特有のさらさらと細い髪の感触が指に心地よい。
魔力を操るすべを識った私は、手始めに、ウリヤス上級神官の部屋で、椅子に縫いとめられていたこの子供を実験体にした。子供の手足を貫く透明な硝子ような杭は子供の魔力を吸い取るための道具であり、あの杭で子供の魔力を吸出し椅子に取り付けてある飾りの様な宝石に魔力をためる、子供が座らせされていて杭と椅子はそんな構造になっていた。
ならば魔力を吸い出すあの杭に魔力を逆流させれば子供に魔力が戻り子供の魔力生成器官ももう少しまともな状態に戻るのではないかと思ったのだが、残念ながらそうは甘くは無かった。
あの杭は魔力を一方方向に流しだすだけの装置で魔力を逆流させることで多大な付加を杭に与え、杭自体があっさり崩壊してしまった。
少なくとも子供はもう魔力を吸い出されることは無くなったが大量の魔力を失い、破壊された魔力生成器官と魂を抱えたまま死の淵をさまよっている。
フィオレに託された命だが、この子供が生き延びるかどうかの確立は正直低いと思う。
『精神支配』や『魂狩り』で今日一日散々他人の魂をいいようにしてきたが、人の魂を癒す事は私にはできないのだ。私にできることは壊すことと奪うこと。子供の中の魂に触れる事はできても砕けて散らばり歪んだ子供の魂を元に戻すことはできやしない。
どうしてか私は、フィオレの腕の感触を思い出していた。ウリヤスの側仕えからの神術に晒された時に私を助けるために抱き寄せた腕、私に子供を救ってくれと懇願して私を掴んだあの腕の熱。
あの熱がこの子供にまで伝わればいい。そう思いながら私の意識は滲んでいった。




