3.精神支配
ソウルイーター、といわれてもそれが一体どういった物なのかいまいちピンとこない。一番最初に思い出すのはウェブ検索で一番最初に出てくるあれだが、現状の私にはだいぶ隔たりがあるように思える。どう考えても白い発光体は武器ではない、せいぜい照明器具になるだけだ。
ではそれ以外で思いつくものはなんだろう?ソウルイーター、恐らくモンスターで…恐らく魂を食べる。駄目だ。まったく思い浮かばない。
モンスター名は一旦棚置きしておこう、ひょっとしたら私の世界のソウルイーターとこの世界のソウルイーターはまったく別のものかもしれない。なら考えるだけ今は無駄だ。そんなことよりもっと注目すべきことが他にある。それはモンスター名と一緒に出てきた私の技能だ。
技能:魂狩り・精神支配・観察・考察
これはきっともしかしなくともそうなのだろう。目の前の死体(暫定)に魂が無いということはもはや確定と言ってもいい。状況証拠だけで十分有罪を勝ち取れる案件である。なんで検事側なんだよ。
私は目の前の死体(暫定)に心の中だけで謝罪と冥福を送る。なぜなら喋れないからだ。喋れないどころか手も足も出ない。穴が見えない壁でふさがれていた時に壁抜けができないかと穴から反対側の壁に突っ込んでみたが普通に壁にぶつかった。痛くは無かったが壁には凹みができたのでどうやら私の体は実体のある発光体であるらしい。
せめて手足があればこの死体(暫定)をせめてもう少し楽な体勢に動かしてあげることもできるのだが現状物理攻撃が体当たりしか出ない体では死体(暫定)を仰向けにすることはできても、手足をそろえたり目を閉じさせることはできないだろう。せめて精神支配のかけられる手足の有る生き物でもいれば一時的に体を借りて安置、もしくは埋葬することも―まだ死んでいないが―できるのであろうが、残念ながらこの洞穴の密室には私と死体(暫定)しか存在しない。
そもそも私が狩ったであろう死体(暫定)の魂は何処に行ったのだろう?恐らく私が食べてしまったのだろうからもう私の中で消化されてしまったのだろうか?
技能にあった『観察』『考察』はおそらく『見てたら物の構造が分かる能力』のことなのだろう、観察することでその中身を推測するという思っていたより現実的な技能だった。見ただけでは分からないようなことも分かるわけだからファンタジー的な補正はされているのだろうが期待していたより随分がっかりな技能である。使っていくうちにどんどん強化されていったりするのだろうか?だとしたら『鑑定』まで強化していくのは随分時間がかかりそうだ。
しかし今現在私が使える手はこの『観察・考察』しかないのが現実だ。私はもう一度、死体(暫定)の瞳に写る私を見据えながら私の中に取り込まれたであろう死体(暫定)の魂を探し始めた。
結論として私の中に死体(暫定)の魂は無かった。私の中にあったのは私の魂一つだけだった。その他には他の魂も魂の欠片さえも存在しなかった。できたばかりの綺麗な部屋の中に一つ、私の魂だけが浮かんでいるだけであった。
ここで一旦私の技能の確認をしておこう、『観察・考察』はもちろん『見てたら物の構造が分かる能力』、『魂狩り』は恐らくその名のとおり魂を奪う能力なのだろう、対象になる存在が無いのでどうやって使う技能なのかはまだ不明、そして『精神支配』これも名前どおり生き物の精神を支配するのだろう、ためしに目の前の死体(暫定)に『精神支配』をかけてみたが反応が無かった、これは使い方が間違っているのか魂のない存在には使えないのか他の『精神支配』をかけられる対象が無いので不明だ…いや、魂があり『精神支配』がかけられる対象が他にもいる。
私自身だ。
私が私に対して『精神支配』を使うことができれば精神支配は魂の有無が『精神支配』をかけられる条件になっている事がわかるし、使えなければ使えないで使い方が悪いのか自分自身には使えないのか何か他の要因があるのか不明なままだがそれで何か今以上に困ることはないだろう。
それに何より、死体(暫定)の手足が痙攣を起こし始めている。何か行動を起こすのならそろそろいい加減時間が無さそうだ。
私はもう一度死体(暫定)の瞳に写る自分に視線を合わせた。『精神支配』を実行する。
ゆっくりと自身の内に湧き上がる熱がある、その熱が私を侵していく、頭の中で静かに声がこだまする。視界が歪み総てがぼやけてゆく。
私は貴方、貴方は私、私は―
私が再び目を開けたとき、そこには闇が広がっていた。